ビデオセンターは文字通り、ビデオを使って学んで行くところだ。 
主にビデオは一人の男性講師と背景に黒板が用意されている講義形式の映像。

その講義の中に、聖書からの引用が出て来た。
聖書には、抵抗があった。   
元々、実家は他の宗教を熱心に信仰しており、
もしこのサークルがキリスト教系の宗教なら、家族の手前、これ以上学んで行くことは、出来ないと思ったからだ。 
ビデオの感想をコンサルタントから問われて、率直に訊いてみた。
「聖書が出て来ましたけど、このサークルは宗教じゃないんですか?」
「違います。宗教なんかじゃありませんよ。聖書は世界中で多くの人に読まれている書物です。聖書を使って勉強することは生きていく上の一つの資料として大切なことです。」
 
ハッキリと否定され私は安心した。
宗教では無いと言いながら、ビデオからどんどん統一原理が教え込まれ、確実にマインドコントロールが進められていることに私は全く気付いていなかった。

「出したら入る」からくりによって、ビデオの内容を素直に受け入れていった。 
そして、統一原理の教えのキモとも言うべき「堕落論」の下りでは、あまりにセンセーショナルな内容に衝撃を憶えていた。

堕落論、とは…
神様が創造された人類始祖のアダムとエバ。
神様は二人の前にある生命の木と善悪知るの木の果実を時ならぬ時に、絶対に食べてはならない。と戒める。
聖書にあるこの戒めは、統一協会の曲解によると、時ならぬ時に姦淫犯すべからず、となるらしい。
神様は、「大人になるまでアダムとエバよ、セックスしちゃ駄目よ。」と戒めておいたのに、ルーシェルというサタンがやって来て
「エバさんヤラして。気持ちいいこと教えてあげる」と誘惑したら、エバさんその気になってヤッちゃった。罪悪感から今度はエバさん、アダムさんを誘惑してヤッちゃって共犯にしちゃった。…これが堕落。
堕落人間を救うのは統一協会の教祖、文鮮明。
自称キリストの再降臨であるところの救世主メシヤ。
文鮮明と言うスケベジジイは、堕落してサタンの血を受け継いでしまった現代のエバさんを救うため、教団の設立当時は信者女性とやりまくってたって話。血分けと言われるこの儀式は信者が増えるに連れて、新しい信者にはショックが大き過ぎて離れちゃうから隠し通していた。
しかし外部から聴こえてくることで結局離れてしまうから、最近では血分けは事実だったと教団内で認め、外部からのショックをやわらげるため先手を打つ形を取っている。
(堕落論の説明は、ほんと、アホらしくて丁寧な論説口調もバカバカしくなる。急にキャラ変わってゴメンナサイ)

この馬鹿げた教えがなぜセンセーショナルだったのか?
当時の、私はコンプレックスが服を着て歩いているような人間だった。
日々の生活の中で、沸々と湧いてくるネガティブな感情。特に周りへのひがみ、嫉妬、そんな感情に見を持て余していた。
それを、全て解決してくれたのが堕落論だった。人類始祖が堕落したせいで、現代人も堕落性という悪い感情に翻弄されるようになったのだ。つまり私が性格悪いのもアダムとエバのせい!?と思ったら、救われた気がした。
そして、堕落してサタンに支配されるようになった人間が神様の子として復帰するための救いの道を教えてくれるのが文鮮明。
最初ビデオで見た時は「こんなデブがメシヤ?」
と言うのが正直な感想だったが、コンサルタントにその思いを伝えると上手い具合に言いくるめられ納得してしまった。

そのメシヤを明かされると同時に
「実はこのサークルは
世界基督教統一神霊協会
と言う宗教団体がやっている」ことを知らされる。あれほど宗教ではないと言い切っていたのに
「なんで嘘ついたんですか?」と私はコンサルタントに半泣きでたずねた。
コンサルタントの答えは
「あなたの家は〇〇教。もしこの教えが宗教だと分かったら、あなたは素晴らしい統一原理を学ぶことが出来なかった。やむを得ず、善なる嘘をついた。」

善なる嘘。
この言葉に愕然とした。しかしながら既に私は統一原理を信じ、堕落から救われる道は文鮮明に頼るしかないという段階まで、マインドコントロールを施されており、もはや後戻り出来ない道を歩き始めていたのだ。