「国際勝共連合」
通称「勝共連合」「勝共」と呼ばれている。
文鮮明が設立した政治団体で、字の通り、共産主義に勝利することを目的としている。
設立当初から自民党との繋がりが深く、選挙があると教団から「勝共担当」のメンバーが自民党候補の事務所に応援に行かされたり、「勝共」が推す議員の街頭演説に大勢の信者が詰めかけてサクラになったりしていた。

私が青年部で活動していた頃、隣県で県議会選挙が行われることとなり、応援を要請される。
いつもの担当者だけが行く応援とは違い、4~5名と依頼があったため大掛かりなプロジェクトだと想像出来た。

仕事を辞めていながら未だ正式な献身者でもなく、昼間フリーになっていた私に白羽の矢が立った。加えて、丁度休み期間に入っていた何人かの大学生が応援に行くこととなった。

自民党の候補として出馬するのは教団の現役信者である「T」と言う男だった。
応援に行ったメンバーの内二人はウグイス嬢など任されて候補者の事務所で表立って活動することになったが、私と他、数名は別の場所に連れて行かれた。空き民家のようなところで寝泊まりし、指示された仕事を、黙々とこなしていく。
その内容とは…

誰がばらまいたのか、「T」が統一協会の信者であることを書いた記事がビラとなり流出していた。そこには統一協会がどんなに悪いカルト宗教であるかということも書き連ねてあった。

こんなゴシップの為に落選させられては不本意であると、教団が打った手は、犯人でも無いのに、相手候補者の誹謗、中傷を書き連ねたビラを選挙区内の有権者の住所を、電話帳から無作為に選び出し差出人の無い封書で送りつけることだった。

その大量の宛名書きと、ビラを封筒に入れ切手を貼る作業が私たちに任された仕事だった。

教団の人間である二人の男が、その場を仕切っていた。
とにかく数をこなさなければならず、細かいことを説明する暇もないのか若しくは、信仰的に幼いメンバーがつまずかないようにとの配慮であったのか、詳細や意味合いについての説明など全く無かったが、作業中に見えるビラの内容から策略を悟ることが出来た。

宛名を書いても書いても減らない山のように積まれた封筒を前に、一人のメンバーが
「ここも宛名と同じ○○市だから、【市内】って書けばいいよね?」と言い出した。
名案、と言わんばかりに他のメンバーも「○○市」の記述を「市内」と略して書き出した。

暫くして男が作業の進み具合を見に来ると
「市内、なんて書いたらダメじゃないか!?この封書は差し出したところが分からないようにXX市(県外)から出すんだぞ!?書き直せ!!」
檄が飛んだ。
裏工作には余念がない。
私たちは再び○○市の文字を頭から書き直した。

ビラの送付が無事終わると、次は街頭演説のサクラ役だ。
「T」は演説が終わると、老若男女だれかれ構わず握手を求めてくる。
異性との握手禁止の世界で生きる私たちは自分の中で
「選挙の時は例外」と言い聞かせ、複雑な思いで握手をした。

選挙戦が終わり、「T」の当選をテレビで知った。私たちが行った宛名書きと言う地味な仕事もみ旨の為に役立ったと思うと、大きな喜びだった。

普通なら、人をおとしめるための裏工作に荷担することなど、頼まれてもしないだろう。
しかし、「お父様のみ旨のため」なら何だってやれてしまうのだ。


選挙に関する不正は他にもあった。
青年部から、「新規隊」という所謂霊感商法を行う部署に移った際、ホームも新規隊のホームに移り住んだ。

新規隊のメンバーは人事移動で既にホームに居ないことが多かった。選挙があると、居ないメンバー宛の選挙の入場券が沢山送られてくるが、本人が行けない為、無効にしては勿体ないと、別のメンバーが宛名のメンバーに成りすまし投票に行く。入場券が沢山あるため何回でも別の人間として投票に行くのだ。
バレないよう、時間を開けて行った。

すべて教団の上司からの指示であり、不正とわかりながら何の罪悪感も無く、これもまたみ旨の為と、かえって正義感を感じていたくらいだった。

脱会してからオウム信者のニュースを見るにつけ、マインドコントロール下においては、殺人まで、出来てしまう彼らの気持ちには強く共感出来た。

私とて「み旨の為」と言われれば
殺人だってやってのけたかもしれないのだ。