実践トレーニングから、更にワンランク上の「青年部」と言うところに上がった。
職場を辞め、親には化粧品や健康機具を売るお店に再就職したと嘘をついた。
教団が作っている「男女美化粧品」という化粧品会社があり、その、商品を売る店舗が駅の近くに実際にあった。対外的には店舗は教団との繋がりを公表していなかった為、献身者や献身前のメンバーの隠れ蓑になっていた。
携帯電話も普及していない時代。
店舗の電話を親からの連絡先にしておくことで、もし電話が掛かってきた場合、
「今、外出中のため後でかけ直します。」と対応してくれる。後からそれぞれの部署に店舗のメンバーから親から連絡があったと伝えられる。
親は、娘は本当にその店で働いていると信じ込んでいるが、本当の仕事は、外部から「霊感商法」と言われる仏像などを売る「万物復帰」であったり、主にビデオセンターへの勧誘を行う伝道活動であり、到底、親には言えないことだった。
私はアパートに暮らすことを父親に反対されたまま家出した形だったので、店舗に毎日のように電話が掛かっていた。
しかし、ダイレクトで取り次いで貰えることが無かったので、父親も諦め、今度は毎日、ハガキを送りつけて来るようになった。
店舗に対し、「自分の娘を取るな、即刻、帰宅させろ」と言った内容で、親バカ丸出しだったが、未だ統一協会を明かしていないのにも拘わらず、執拗に「帰ってこい」と言った内容を送りつけて来る父親に対し、先が思いやられるばかりだった。
前の職場を辞めて、収入源が途絶えたが、暫くは失業保険で繋いでいた。とは言え、殆んど献金に回していたので、自分が自由に使える額は僅かなものであった。
そして、当分は伝道に明け暮れる日々となった。
伝道歴が長くなり知人友人には声をかけ尽くしてしまったメンバーが用いる手法に
「イナズマ伝道」、と言うものがあった。
名簿を頼りに電話をかけてビデオセンターへの勧誘をする。
これを考えたメンバーがある日イナズマのように思い付いた手法だと言う。
卒業生名簿。
そこに載っている全てのデータがターゲットに成りうる。
同期生でなくとも構わない。
同じ学校出身、と言うだけで相手が親近感を持ってくれれば、先輩であろうが、後輩であろうが話の糸口となる。
「○○高校の○○さんですよね?私、同じ高校の後輩で○○と申します。私は○○部だったんですけど、○○さんはなに部でしたか?…」等々、相手が話を聴く態勢になるまで世間話などから「心情交流」を図る。ある程度、相手が心を開きかけると、あとは街頭伝道と同じ。アンケートのお願いをする。
同期であれば、尚良いのだが、あまり親しくしていなかった人間に対しても、「夢見トーク」と言う手法が用いられた。
「私、高校の時はあんまり○○さんと話したことなかったですよね?それなのに昨日の夜、突然あなたが私の夢に出て来たのです。夢の中で凄く辛そうな顔してたから、何かあったのかと、心配になって居ても立っても居られず、思い切って電話してみたんです。」
このトークで相手が悩み事などを打ち明けてくれれば、こちらの思うツボである。
必ずしもアンケートをしなくとも、相手のニード(悩み)を把握出来れば、ビデオセンターに繋ぐことが出来るのだ。
青年部のアジトは「青春センター」と言われ、ビデオセンターのすぐ近くにあった。
そこには電話回線が二本程度しかなかったし、当時は携帯電話もなかった為、最寄りの公衆電話でイナズマ伝道の電話掛けをするのだ。
ある夜、一人、電話BOXからイナズマ伝道の電話掛けを行っていたときのこと。
ふいに「コンコンッ」とドアをノックする音がして、その音の方を見る。…てっきり電話の順番待ちをしている人かと思い、慌てて出ようとすると、そこに一人の男が笑って立っている。視線を下に下ろすと、自らのズボンをずらし、下半身を露出させている。所謂「露出狂」だ!?
悲鳴を上げたいところだが、恐怖のあまり声も出ない。とにかくその場から立ち去る為、ダッシュで青春センターに駆け込んだ。
ことの由をアベルに話し、ショックを慰めてくれるかと思えば、意外にも
「あなたがエバとして男性を寄せ付けてしまうような堕落性を拭い切れていないせいよ。悔い改めなさい。」と分別されてしまった。
ここでも、決してつまずいたりしない。
素直に我が堕落性を反省し、真の父母様の前に悔い改めの祈りを捧げた。
夜、若い女性が一人で電話BOXで長電話をしていれば露出狂から狙われるのは当然のことだろう。
しかし教団には、それに対しての危機管理など全く無かった。
また、どんな手法であっても、異性への伝道は難しいものとされていた。特に女性が男性を誘う際には、相手が不純な動機で入会する場合が多いからだ。
たとえそうであったとしても、こちらの毅然とした態度でその気が無いことを示せば、動機が正される場合もあるし、そうでなければ、辞めても良い、くらいに言われていた。
異性への伝道は原則、霊の子が一人出来てから、とされていた。
実践トレーニングで霊の子が一人出来た私は、街頭で男性にも片っ端から声を掛けた。
非原理時代、同世代の男子と話をすることは苦手だった。自分がどう見られるかが気になって無駄に緊張していた。
原理を知っていずれ合同結婚式を受けること、それまで恋愛禁止、となったことで非原理の男性は恋愛対象ではなくなり、非原理当時の抵抗感など全く無くなっていた。
同世代の男性からビデオセンターに一緒に行くアポを取り付けることが出来た。
約束の日、ビデオセンターの前で待ち合わせし、来てくれたことにお礼を言った。
そして改めて、このサークルはとても良いところだから、あなたも話を聴いてみて入会を考えて欲しい、と話すと
「ここって、原理でしょ?知ってたけど、俺はアンタに興味があったから来た。でもアンタには全くその気が無さそうだから、もういい。ガッカリだ。」と言って、ビデオセンターの建物には入らず帰ってしまった。
ショックだった。これも私自身の堕落性のせいなのか?
アベルに分別され、悔い改めの祈り。
正直、もう面倒臭くなってしまった。
私は信仰的に、異性の伝道を出来るレベルではないことを悟り、それ以後、二度と男性に声を掛けることはしなかった。