月の海に沈む廃墟〈全七夜~第六夜~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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山形県庄内からの新鮮便。採れたての物語を召し上がれ。
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いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。

庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。

山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。

それに加えて、時に不思議な現象に遭遇する土地でもあるのです。

今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な現象は、全部で七夜を通して、お届け致します。

それでは第六夜を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。




月見お月様星空




しかし私には、過去に自信を失くして、文章を書くことから、離れていた時期がありました。

それは生きてはいても、文章を書いて、自らの心情を表現するという、自らの使命を果たしていない状態なのです。

私が今生、私自身として生まれてきたのは、文章を書いて、様々な心情を表現し、それを沢山の人達に伝えていくという、大切な使命があるからなのでした。

ですから、自らの使命を果たしていなければ、肉体は生きてはいても、魂レベルでは、死んでいるのも同然なのだと感じました。

そもそも人間として生まれた以上は、肉体も魂も生かしていかなければ、充分に生きているとは言えないのでしょう。

間一髪のところで、セーフティーネットの役割りを果たしてくれた菫色の蝶の大群は、私の身体を包み込むように乗せたまま、アパートの部屋の窓辺へと、粛々と送り届けてくれました。

お陰で無事に、今回の冒険の起点となった部屋の中へと、戻ることが出来たのです。

私は窓枠に手と足を掛けて、身体を引き上げると、更にガス台を跨いで、部屋の中へと飛び降りました。

それから、流し台の水道を使って、涙の筋が付いた顔を、綺麗さっぱりと洗い流しました。

濡れた顔をタオルで拭きながら、再び窓の外に視線を転じると、先程まで雲海のように群れ飛んでいた菫色の蝶の大群は、もう一匹も見当たらなくなっていました。

きっと速やかに瞬間移動して、月へと帰って行ったのでしょう。

本来ならば、大気などない月面で棲息しているくらいですから、普通の蝶ではないのでしょう。

ですから、瞬間移動くらい出来るのは、不思議でも何でもないのかも知れません。

とにもかくにも、私の命を救ってくれた美しい蝶達に向かって、心からの感謝を捧げました。

その後で、テーブル上に置いておいた砂時計を確認してみると、案の定、琥珀色の砂は、全て下に落ち切っていました。

私は砂時計を再び手に取りましたが、流石にもう一度、引っ繰り返す気にはなりませんでした。

また地球を飛び出して、月面に立ってみたい気持ちはありましたが、その後で地球に戻ってくる時に、また菫色の蝶達が助けてくれるとは限らなかったからです。

それでも、時が過ぎれば、また砂時計を引っ繰り返したくなることもあるのでしょう。

それまでは、砂時計を眺める度に、琥珀色の荒野が広がる月面と、菫色の蝶達、そして、月の海底に沈んでいる廃墟の存在を想い出しながら、暮らしていくのでしょう。

そうして、それらの記憶が次第に色褪せ、やがてすっかり忘れ去った頃に、また性懲りもなく、砂時計を引っ繰り返すのだと思いました。

もしかしたら、人々の記憶から忘れ去られた古びた想い出は、水分がすっかり抜け落ちた状態で、乾いた琥珀色の砂と化し、月面の荒野を覆っているのかも知れません。

月の海底に廃墟が沈んでいるように、人々の古びた想い出も、月に還り、砂となって沈んでいるのかも知れません。

そんなふうに考えると、月を見上げたり、砂時計を眺めたりする度に、懐かしい気分が蘇る理屈が、何となく分かるような気がしました。

私は窓硝子を閉めると、入浴の準備をするために、低めのポニーテールに結んでいた髪の毛を解きました。

その時に違和感を感じたので、洗面所に行って、鏡を覗き込んでみました。

すると、背中の真ん中くらいまで伸びていた髪の毛が、肩の辺りまで、ざっくりと短くなっていたのです。

それを確認した瞬間、思わず息を飲みました。

急いで記憶を遡ると、地球に落下してくる途中で、巨大な隕石と危うく衝突しそうになった時のことを想い出しました。

その時、身体が衝突するのは、辛うじて免れましたが、髪の毛は逃れられず、隕石と衝突してしまっていたのでしょう。

その時の衝撃で、髪の毛が切り離され、その分短くなってしまったようでした。


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・・・ 月の海に沈む廃墟〈全七夜~第七夜~〉へと続く ・・・



ふんわりリボン佐藤美月は、こんなバックボーンを持っています。詳しくお知りになりたい方は、こちらを紐解いてみて下さいね。




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