いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。
庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。
山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。
それに加えて、時に不思議な光景に遭遇する土地でもあるのです。
今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な光景は、六景に分けて、お届け致します。
それでは第六景を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。
しかも、一ヶ月が経つ頃には、クリスタルの館を開放してくれた少女との運命的な出逢いは、私が勝手にでっち上げた妄想だったのかも知れないとさえ、思えてきました。
それくらい、記憶というものは、手繰り寄せた時には、あやふやなものになっていることが多いのです。
そこで私は、自宅のダイニングテーブルで、深煎りのコーヒーを飲みながら、少女が口にしていた言葉を、お浚(さら)いするように、呟いてみました。
「光が集まる場所、か」
その時、ふと、自分自身の内面で、光が集まったり、強まったりすると感じるのは、どういった時なのかが気になりました。
何となくではありますが、そのことが、水晶の浄化に関するヒントになるかも知れないと感じたのです。
そこで色々と考えを巡らせてみましたが、やはり自分が好きなことをしていたり、心地好いと感じることをしている時が、内面に光を集める方法だと思い至りました。
そうして、そこに思い至ってみると、少女が意図しているのは、浄化ではないように感じられました。
私は、そこで新たに得た感覚に従って、行動することにしました。
再びストーンショップへと出向き、六角柱状の水晶を、ペンダントに仕立てるためのパーツを購入しました。
そのパーツを使って、ペンダントにした水晶を、肌身離さず、持ち歩くことにしたのです。
ですから、入浴中であっても、睡眠中であっても、水晶は、常に私の肌に触れていたことになります。
それは、入浴も睡眠も、私の内面に、光を集める方法の一つだからでした。
勿論、それ以外でも、散歩中や、美味しい物を食べる時や、バイオリンを演奏する時や、読書をする時や、小説を執筆する時などの、好きなことをしている時にも、水晶のペンダントは、常に私の胸元で揺れていました。
そんなふうにして、常に水晶と共に過ごすようになってから、一ヶ月ほどが過ぎた時のことでした。
水晶の様子に、とうとう変化が現れたのです。
そのことに最初に気付いたのは、フランキンセンスとレモングラスのエッセンシャルオイルの香りに包まれながら、ゆっくりと入浴している最中のことでした。
湯船にゆったりと浸かりながら、六角柱状の水晶を繁々と眺めていると、濃い霧のようだった真珠色の濁りが、大分薄くなっていることに気付きました。
やはり、私の内面に光が集まるにつれて、水晶の内部にも、光が集まるようになってきているようでした。
私は、その変化を確認出来たことで、漸く深い安堵に包まれました。
自分の内面に光を集めるという方向性で、効果が出なかった場合、また別の方向性を、模索しなければならなかったからです。
取り敢えず、進んできた方向性は、間違ってはいないようでした。
それで気を良くした私は、バスルームのライトに透かすようにして、水晶の内部を、じっくりと覗き見たのです。
するとそこには、全てが内包されていました。
クリスタル製の地球儀が持っていた透明度も、クリスタル製の蓮の花が作り出していた軽やかな輝きも、クリスタル製のサンキャッチャーが作り出していた小さく鮮やかな虹も、その水晶の内部に、残らず内包されていたのです。
勿論、クリスタルの館に滞在していた時のように、ミニチュアサイズの地球儀や蓮の花、それからサンキャッチャーの一つ一つが、物体として、鮮明に見えたわけではありません。
そういう意味ではなく、ただそれらが持っていた、光り輝く美しい要素が集まって、六角柱状の水晶を構成していることが、心に染み込むようにして、理解出来たのです。
確かに少女が言うように、光り輝く美しい要素は、全てクリスタルの館に含まれている物で、その一つ一つを、勝手に持ち出せるものではなかったのです。
私は、そのうちの一つを売って欲しいと言って、駄々を捏ねた自分の身勝手さを、恥ずかしく感じました。
けれども、これからこの水晶は、ますます光が集まる場所へと、変化していくことでしょう。
そして、その変化を手助け出来るかどうかは、私自身の過ごし方に掛かっています。
きっと、波長が合うパワーストーンと共に過ごすようになると、お互いのより良い変化を、手助け出来るようになっていくのでしょう。
そういった意味でも、波長が合うパワーストーンとの出逢いとは、運命的とも言えるものなのでしょう。
その時私の意識は、自分の内面に光を集める過ごし方とは、他にどんなものがあるのか、考える方向へと、自然に傾いていきました。
~~~ 完 ~~~
佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム