2月13日、ミラノに4日ぶりに戻って中央駅から電車でアリーナに向かいました。19時からの男子フリーを観るため、です。
その前にちょこっとだけ寄り道をしますと、団体戦が終わってからすぐに始まったアイスダンス、そして男子ショートの試合は、旅先のボローニャやフィレンツェでフォローしていました。
中でも感動して、思わず泣いてしまったのは、アイスダンスで銅メダルを獲得したパイパー・ギレス&ポール・ポワリエの演技でした。
彼らは今シーズンの前半、時によって採点に疑問を呈したことから、それがジャーナリストたちやソーシャル・メディアで大きく取り上げられたりして、ファンとしてはちょっと胸がざわつくような雰囲気もありました。
もしかするとオリンピックでの表彰台は難しいかも、という下馬評もあったのですが、それでもパイパー達はミラノの団体戦と個人戦で素晴らしい集中力を見せ、見事にメダルを掴み取ったのです。
個人戦のリズムダンスでは最後のリフトでポールのリストバンドがパイパーの太もも辺りに引っかかり、それを咄嗟の反応でパイパーがつかんで、エンディングポーズを決める、という離れ業もやってのけたのです。
本来はこのように↓パイパーが左手でポニーテールを上に引っ張って終わるところを:
このように↑背後にアームバンドを隠してポーズを取ったんですよね。
これぞベテランの貫禄、執念、フォーカス、です。
そしてフリーダンスでは彼らの代表作でもある「ヴィンセント」を、冒頭から最後まで一つの物語として演じ通し、観る者全てを自分たちの世界へと引き込みました。
(Toronto Star より Stephanie Scarborough 撮影)
私はこれをフィレンツェの部屋のテレビで観ていたのですが、一人で歓声を上げ、一人で拍手し、一人で涙しました。本当におめでとう!!
なお、この種目で優勝したのはフランスのフルニエ・ボードリ―&シズロン組、2位がアメリカのチョック&ベイツ組でした。この結果には色々と議論が湧きましたが、以下の動画でなかなか詳しい分析を元に、現ルールでは順位は妥当だった、という結論が出ています。
The Skating Session の動画主たちは時として非常に辛口で、過去にはあまりにも失礼なコメントも聞かれたことから私自身、メールで抗議したこともあるんですが、アイスダンスに関しては知識が豊富だという印象です。
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さて、ようやくタイトルの男子FSに話を移します。
この日、私は一人で観戦していたのですが、お席はキスクラおよびリーダーズチェアの真上、暫定2位・3位の座るエリアが良く見える場所でした。
SPでミスが出て22位に終わっていた三浦選手が第一グループで登場しました。
演技開始前の佐藤コーチとのルーティン。ボード際で最後に交わす師弟の言葉・眼差し、は胸を打ちますね。
三浦選手のFSの結果は10位、総合でも10位に順位を上げてきました。世界選手権ではきっとSPから良い演技を見せてくれるでしょう。期待しています。
なお、製氷中にいきなり、特別ゲストとしてこんな方が!
そう、夏季オリンピックのスーパースター、シモーン・バイルズさん!!ビックリした~。
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試合が半分ほど経過し、私はSPを10位で終えていたゴゴレフ選手の演技に注目していました。
団体戦ほどのSPのスコアを得られず10位に甘んじていた彼ですが、この日のフリー演技では振り付けの隅々まで丁寧に気を配り、音をひとつひとつ拾っているのが冒頭から見て取れました。ブノワ・リショーさんのプログラムはスティーブン選手に本当に良く合うのだと思います。
あ、これは良い演技をするだろうな、と思っていると、本当に最後まで勢いを落とさず、結局フリーだけの得点では2位、総合でも5位となったのでした。五輪デビューでこの成績はまさに快挙だと言えましょう。
カナダの男子選手に新しいスター・新しい希望が生まれました!(まあゴゴレフ君は前にも言ったとおり、長年注目を集めていたので「新しい」と言うべきかどうかはさておき)
その次に滑ったのがSP9位の佐藤選手。
団体戦に続き、本当に安定した演技でした。今シーズンの佐藤選手は見ていてこちらが安心できますね。なんだか鉄のメンタル、という感じです。ジャンプがあまりにも軽やかに決まってしまうので、あっという間にプログラムが終わって驚きます。
滑り終わって暫定首位。ゴゴレフ選手を抜きました。日下先生も満足そうでした。
この後、トルガシェフ選手、エイモズ選手が滑り、いずれも順位を下げます。最後のグループを残したところで首位は佐藤選手、2位がゴゴレフ選手。
最終グループのラインナップは:
韓国のチャ・ジュンファン選手
カザフスタンのミハイル・シャイドロフ選手(私の周りにはカザフスタンの方々の応援団が大勢いました!)
イタリアのダニエル・グラッスル選手
フランスのアダム・シャオヒム・ファ選手
日本の鍵山優馬選手
そして、アメリカのイリア・マリニン選手。そうそうたるメンバーです。
しかしこの時点で誰があの展開を予想できたでしょうか。
ジュンファン選手が滑り終わった時点ではまだ佐藤選手が首位でした。よって佐藤選手がリーダーズチェアに座ったままで、暫定2位にジュンファン選手、3位にゴゴレフ選手。
そして登場したのがシャイドロフ選手。彼は昨年のボストン・ワールドで銀メダルを獲得していたので、この場面で良い演技をしたとしても驚くべきではないのかも知れませんが、シーズン前半はあまり思うような結果が残せず、彼がオリンピックの舞台で大活躍することはあまり期待されていなかったのではないでしょうか。
ところが200点近いフリーのスコアを叩き出し、佐藤選手に代わってリーダーズ・チェアに座ることになります。
よって2位・3位の椅子はこういう感じになりました。
ここまで概ねクリーンな演技が続いていたのですが、続くグラッスル選手、シャオヒム・ファ選手にミスが出る。よってシャイドロフ選手のメダルが確定します。
さあ、鍵山選手の登場です。お父様の鍵山コーチと、カロリーナ・コストナーコーチに送り出されます。
ローリー・ニコルの振り付けによる、トゥーランドットに乗せたフリープログラムはシーズン開幕時から芸術作品との呼び声が高く、オリンピックに相応しい演目という評判でした。
それがミラノでいよいよ完成形を見せるか、と期待されたのですが、残念ながら彼にもミスが出ます。シャイドロフ選手の一つ下の順位となり、佐藤選手と一緒に最終滑走者の演技を見守ることとなります。
この時点でシャイドロフ選手の銀メダル以上、鍵山選手の銅メダル以上が確定しました。
この後、マリニン選手が登場して、誰もが彼の優勝の可能性を信じていたと思います。シャイドロフ選手の総合得点が291点、マリニン選手は今シーズン何度も300点を、しかも大幅に超えて来ているのですから。
私の席からはすでにお察しのとおり、ボード際のコーチの姿が良く見えました。マリニン選手のお父さん、スコルニアコフコーチの表情も、珍しく帯同したアルトニアンコーチの姿もすぐそこにあります。
最初のジャンプは綺麗に決まり、さあイリアの独壇場になるのかと思いきや、二つ目のジャンプはパンク。次のジャンプは決まったけれど、四つ目のジャンプは2回転?それからも転倒やパンクがあり、コーチたちが途中から「何が起こっている?」といったような戸惑いの表情を浮かべていくのが分かりました。一般の観客たちからも驚きの声やざわめきが上ります。
私は過去何シーズンかマリニン選手の出場している試合に行っていますが、今回のオリンピックでのような彼の様子は見たことがありませんでした。静かな自信に満ちて、次々ととんでもない四回転ジャンプやコンビネーションを繰り出す「クワッド・ゴッド」を見慣れている者にとって、あまりにも衝撃的な展開となったのでした。
終わってみればフリーのスコアは全体15位の156点、総合でも8位と順位を落としました。優勝は確実と言われていた彼にとって、あまりにも残酷なオリンピックデビュー。会場全体が呆然として、事の次第を受け止めることが出来ずにいたと思います。
この写真↑が撮られたのが2026年2月13日22時56分。
ひとつ上のはその6分前に撮られたものでしたが、二人の選手がほとんど動いていないことが分かります。
(投稿時間をどこで見ているのかによって、時差を考慮する必要がありますが)この6分の間にマリニン選手の演技が行われたであろうことが、ジャッキー・ウオンさんのツイートからも推察されます。
Ilia Malinin USA
— Jackie Wong (@rockerskating) February 13, 2026
4F, 1A, 4Lz, 2Lo, 4Lz(ur,fall), 4T1Eu3F, 2S(fall) - HOLY SHIThttps://t.co/pnIBwSJfPZ #MilanoCortina2026 #Olympics
I'm stunnedhttps://t.co/pnIBwSJfPZ #MilanoCortina2026 #Olympics
— Jackie Wong (@rockerskating) February 13, 2026
しかしやがて、様相は一変します。それまで自分たちの位置づけを把握できずにいたような鍵山選手と佐藤選手でしたが、ようやく銀メダルと銅メダルを獲ったのだと理解します。
キスクラではこの頃、マリニン選手がリーダーズ・チェアに座っていたシャイドロフ選手に駆け寄り、優勝を祝福していたのでした。打ちひしがれていても当然であろう状況で、咄嗟に出たマリニン選手の潔く爽やかなスポーツマンシップに皆が感動しました。
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未だにこれを書いていても、あの夜の出来事が信じられないような気持になります。マリニン選手の演技が途中から全く思い出せず、ただ、若い一人のアスリートがとてつもない渦に巻き込まれて行ってしまうのを見たことしか憶えていません。
彼が一体、どのような心境に陥ったのか、今はそこから立ち直れているのか、も気になります。今月の末に開催されるプラハ世界選手権では、マリニン選手の元気な姿が見れるよう、心から祈っています。
その一方で、本当に最後まで試合というものは行方が分からないのだな、ということも痛感しました。リーダーズ・チェアに座り始めた時点では、シャイドロフ選手自身、まさか金メダルに手が届くとは思っていなかったのではないでしょうか。
それが徐々にメダル、銀メダル、金メダル?と確定していくにつれ、驚きと喜びがないまぜになっていく様子がスクリーンに映し出されて行ったんですよね。
シャイドロフ選手の師匠、ウルマノフコーチも1994年のリリハンメル五輪で優勝を飾ったことが思い出されるのですが、あの大会でも彼は必ずしも優勝候補ではなかった。2位がカナダのエルビス・ストイコ、3位がフランスのフィリップ・カンデローロ、それ以外にも、カート・ブラウニング、ヴィクトル・ペトレンコ、そしてブライアン・ボイタノなどの名選手たちが並んでいました。
不思議な巡り合わせだなあ、と思ったことでした。
見事、メダルを獲得されたシャイドロフ選手、鍵山選手、佐藤選手、おめでとうございました!
笑顔もあれば、涙もある、全くジェットコースターのような試合展開でした。
































