2024年ISU世界選手権(モントリオール大会):男子競技振り返り | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

モントリオールの世界選手権で、男子は3月21日・23日に試合がありました。

 

SPを終えて日本選手がワン・ツーの順位を占めた時、嬉しい気持ちと共に、「記者会見、どないしよ」という不安に襲われました。一人ならまだしも、二人もの選手の通訳はキャパオーバーになりそうで。

 

そこで冒頭に必ず聞かれる「今日の演技についての感想は?」という質問で、宇野選手と鍵山選手が連続でコメントを発することは分かっていたので、ズルいアタクシは事前にお二人に

 

「どういった事を言うのか、大体で良いので、教えていただけますか?」

 

と聞いちゃったのです。

 

すると両選手とも非常に快くキーポイントを挙げてくださって、宇野選手は「この通りに言うかどうかは分からないですけど、まあこういう感じで」と仰っていたにも関わらず、ほとんどそのまま答えてくださったので助かりました。

 

この記者会見では3位に入ったマリニン選手がえらくテンションが低く、「大会前に色んな理由から出るかどうかを迷った」と言っていました。詳細は控える、ということで具体的に怪我のせいだったのか、別のことが要因だったのかは解明されませんでしたが、フリーまで一日空くのでしっかりとリフレッシュする、ということで他の二人の選手と意見が一致していました。

 

いや、それにしてもこの時点で、最終的な結果を予測できた人が何人ほどいたでしょうか?

 

SPでは会心の演技を見せた宇野選手の三連覇はじゅうぶん可能と思われました。モントリオールの会場に姿を見せてからというもの、取材陣に対して「全く思い残すことのない万全の練習を積んできた」と言っていた彼は、まさにベテランの静かなオーラを漂わせていたのです。

 

大会アンバサダーを担っていたパトリック・チャンは、日本メディアのインタビューで宇野選手の優勝を予測していましたよね?こういった大きな大会では経験がものを言うから、みたいなことをパトリックは言っていて、そして鍵山選手については「ローリー・ニコルには僕もすごく教えられたことが多かったから、ユウマの滑りには自分と似たところがあるように思う」ともコメントしていました。

 

そして「ショートの前はアダム(・シャオイムファ選手)も優勝候補に入って来ると思っていたけど、ちょっと今となっては難しそうだね」と語っていたパトリック。フリー後に会った時にその予測について突っつかれて笑っていました。

 

 

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キスクラ裏から少し入ったところに設置されたグリーン・ルームには、だいたい最終2グループ辺りからトップ3人の選手が座ることになっていたのですが、SPでかなりな失敗をしてしまったシャオイムファ選手がフリーでもの凄いビッグ・スコアを叩き出したので、急いで彼を呼んできて真ん中の椅子に座ってもらったのでした。

 

バタバタしてそのスコアをチェックしていなかった私は「え?206点?なんじゃそりゃ」と驚いて、これはもしかすると、と思ったことでした。しかしそれにしてもトップの選手とは30点もの差があるのだから。。。とまだ半信半疑。

 

でもそれから延々と、アダム選手はそこに座り続けることになったのでした。後から聞くと「お腹が空いてたまらなかった」と言っていたので、コーチかチームリーダーの誰かが察して、差し入れしてあげたら良かったのに、と思いましたよ。

 

まあ最後の結果に関しては皆さまご存知の通りなので省くとして、私の個人的な感想としては:

 

 

*鍵山選手の演技は、SPとFSともにローリー・ニコルさんとコーチのカロリーナ・コストナーさんと時間をかけて丁寧に、丁寧に創り上げたものを本番でしっかりと見せることができた。シーズンが深まっていく中で徐々にジャンプ構成の難度を上げて行ったところもあっぱれでした。フリーでのアクセルのミスはありましたが、ほぼほぼ、現段階で最高の出来栄えだったのではないでしょうか?

 

*しかしそこに最終滑走者のマリニン選手がやってきて、言葉は悪いですが、もうゴジラのような破壊力で圧倒的なスコアを出してしまった。クワッドの種類(アクセルを除いて)や本数で太刀打ちできるアダム選手をもってしても届かないような点数でした。いったい全体、他の選手はどうやって戦えと言うのか?

 

*宇野選手の演技が始まり、ミスが続いたのを見ていたキスクラ裏の皆が「ああ~」とため息を漏らしました。彼のフリーの演技終了後、一番びっくりしたのはアダム選手だったかも知れません。まさか宇野選手の滑った後にも自分がグリーン・ルームの真ん中の席に残るとは思っていなかったでしょう。そして取材エリアに引き上げて来た宇野選手の表情が、あまりにも清々しそうだったので、ちょっと切なくなるほどでした。

 

*アダム選手が記者会見で「試合がどんどん進むにつれて、バックフリップによって失った2点の重みが増して行って、もしかするとそのせいで表彰台を逃すかもしれないという考えが頭をよぎりましたか?」と聞かれた時、彼が苦笑しながら「ちょっとよぎった」と素直に認めたのには皆が笑いました。しかしその直後、「でももしも負けたとしたら、それはSPのせいだったと自分は思うから、さほどおおごとではないとも言える」と続けたのがカッコ良かったかも。

 

*三浦佳生選手はSP後もFS後も悔しそうでしたね。自分が日本代表選手としての3枠目をもらった責任について「こんな成績で申し訳ない」と言ったところ、取材陣からは「でもこういう経験をするために派遣されたのだ、とも言えるのでは?」と指摘されて少し表情が和らいだように見えました。昨年のジュニアワールドでは余裕たっぷりの優勝をおさめ、試合の開始前は「宇野選手と鍵山選手がいるので日本男子の三枠は固い。自分は思いっきりやるだけ」と言っていた彼も、やはり本番では緊張したのでしょう。持ち味であるスピードが爆走レベルに上がってしまい、ちょっとコントロールが出来なかったのかも知れません。来シーズンに期待、です。

 

*デニス・ヴァシリエフス選手:SPとFSをなかなか揃えられない彼が今大会では両方とも素晴らしい演技を見せてくれました。芸術性、表現においては紛れもなくトップレベルであるだけに、ジャンプをミスったりパンクしたりするとランビエール先生の顔が曇り、とても辛そうな表情になるのです。モントリオールでは良い結果が出てさぞ先生も嬉しかったことでしょう。

 

*ジェイソン・ブラウン選手。シーズンを通してアイスショーに多数出演していた彼が5位に入ったのはとてつもない快挙です。「ジェイソン、こないだヨーロッパでショーに出ていたと思ったのに、今度は日本でも?しかもワールド直前なのに?」などという心配はまったく不要でしたね。来シーズンも続けてくれると聞いたので、他のベテラン選手にとっても新しい現役生活の過ごし方がジェイソンのおかげで提示されたのでは、と思いました。

 

 

なお、翌日のスモールメダルセレモニーではマリニン選手、アダム選手、そして鍵山選手がそれぞれ金・銀・銅のメダルを授与されました。

 

 

 

 

 

 

会場からの質問で、小さな子が恥ずかしそうに「一番好きなシンガーは?」と聞いた時、私はそれを「え?一番好きなシニア?」と一瞬、聞き違えて戸惑ったのでした。

 

もしかして憧れの先輩選手のことを聞いているのだろうかといった考えが頭の中をグルグルと駆け巡って、咄嗟にお隣に立っていたオフィシャルの男性に問いただすと「好きな歌手、でしょ」と教えてくれて助かりました。もうちょっとで鍵山選手に頓珍漢な訳を提供してしまうところでした。

 

ちなみに三人ともこれといって好きな歌手はいないそうで、それも興味深いことだと思ったのでした。

 

 

以上で男子競技の個人的な振り返り、でした。

 

 

最後にちょこっとモントリオールでの世界選手権大会について雑感を記事にできればと思います。