「文化を超えて伝わるものがある」:2015年のGPスケートカナダを思い出す | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

羽生選手が今年の24時間テレビですでに恒例となったアイスショーを披露してくれました。

 

2014年からずっと彼が出演を続けているので今年で8回目、ということになりましょうか。昨年はコロナウイルスの感染拡大の影響でインタビューだけでしたが、今年はその埋め合わせ(と言うと語弊があるかも知れませんが)で二曲も滑ってくれました。

 

選ばれたのは「ホワイト・レジェンド」「花になれ」の二つのプログラム。

 

改めて思うのは、羽生選手には思い出の詰まったプログラムによって構成される、しっかりした「レパートリー」があるのだな、ということ。

 

イメージとしては、有名なオペラ歌手やクラシックの楽器の奏者がリサイタルなどで披露する、その演者の代名詞のような「とっておきの演目」のリスト、という感じ?

 

レパートリーが年々、豊かになっていくのを見ている我々は、羽生選手がその中から選んで滑ってくれるものの一つ一つに何らかのメッセージがこめられていることを知っている。

 

 

受け手によってメッセージの内容は違うかも知れないし、受け取った時期や機会によっても変わるかも知れない。だけどとにかく心を動かされずにはいられない、そして何かを考えさせられずにはいられない、という点では一貫性がある。

 

そしてこれも凄いな、と思うのは、羽生選手がそのレパートリーを少しずつ増やしながらも、歴史の古いプログラムを定期的に滑り、時には少し手を加えることによって、廃らせない、ということ。

 

「忘れていないよ、大事にしているよ」

 

とそれら(彼の言う「その子たち」)を愛しんでいる姿を見るのは、私達にとっても何と心温まることでしょうか。

 

徹底的に優しいのだ、彼は。

 

故郷の人々にも、(ひとつ前の記事でも触れたように)自分の周りで働いている人々にも、もちろんファンにも、自分の滑って来たプログラムにも、はたまた環境や動物や昆虫にまでも。

 

そしてその姿勢は彼の語る言葉、取る行動、携わる活動、出演する番組やコマーシャルなどにも反映され、全てがパズルのようにぴったりとはまって行っているかのよう。

 

ただ、その様子はほとんど神秘的に見えるかも知れないけど、これは全て羽生結弦という一人の青年が時間をかけて、ひとつずつ、丹念に積み重ねてきた結果なのだな、と私は思うようにしています。

 

ずいぶん昔から言っているのですが、彼の競技の世界における輝かしい成績にしても、後から振り返るとまるで筋書きが定められていたみたいで、「スケートの申し子」だとか「スケートの女神に選ばれた男」の物語みたいに思えてしまうけど、

 

今となっては10年をも超えるプロセスの随所、随所で物語が終わってしまってもおかしくない、そんな非常に脆弱な局面もたくさんあったのですよね。

 

その度に崖っぷちに爪の先で引っ掛かって、よじ登って、そして超えて来た。

 

諦めずにひとつずつ、積み重ねていった。迷うこともあっただろうに、それでも歩みを止めることはなかった。

 

その過程を追って来た私たちは、ずっとハラハラドキドキしながらも、大きな喜びや感動を与えられてきたのです。

 

 

そんなことをウルウルしつつ考えていると、ひとつ、思い起こさせられるエピソードがありました。

 

それは2015年のGPスケートカナダ、レスブリッジ大会でのことです。

 

男子フリー競技の後の記者会見で、とってもにこやかな表情で受け答えに応じていた羽生選手が

 

 

 

 

 

 

ある質問に、ふっと表情を変えました。

 

 

「明日のエキシビションでは何を滑りますか?」

 

 

それに対しての羽生選手の答えは。。。

 

 

(以下、当時のブログ記事から抜粋します)

 

 

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「3月11日に日本が経験した出来事をテーマにしている曲に乗せて」


エキシビションには少し重いかも知れないけど、と羽生選手自身が記者会見で語りました。

 

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その場面をPJクオンさんがインスタグラムでも紹介しています:

 

 

https://www.instagram.com/p/9hwH75ior-/

 

 

 

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あとはそれぞれが翌日のエキシビションの演目を問われ、羽生選手が曲名を言わずに内容だけを語ったこと。

 


文化を超えて、伝わるものがあると思う。だからエキシビションであえて滑ることにした。


私はどんなに忙しくても、この演目だけは生で(カーテン裏のモニターではなく)見ようと決心しました。

 

 



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6年も前のことになりますが、本当にまっすぐに通った筋が今日まで続いていることに気付かされます。

 

 

僕は忘れない。

僕は大切に思っている。

 

 

羽生選手がスケートを通してそう言い続けて来てくれたことで、どれほどの人たちが力づけられたことか。

 

日本国内だけではなく、海外にも伝わるように、大会のエキシビションという場を有効活用してくれたおかげで、今となっては世界中のファンが彼からのメッセージをどんどん広げてくれています。


ここのところ盛んにアスリートのソーシャル・アクティビズムが取り沙汰されるようになっていますが、羽生選手はそれをとっくの昔から実践しているのです。

 

メディアの注目を集めて派手なことをするばかりが能ではない。それよりも一貫性、持続性、が重要なのであって、その観点からすれば羽生選手のように一人のアスリートが、これほど長い期間に渡って、根気よく、しかし確実に、文化を超えて伝わるように、メッセージを発信し続けて来たことは驚異に値します。

 

 

今さら言うのも何ですが、本当にすごいアスリート、すごい人だな、応援して来て良かったな、とシンプルに思ったことでした。
 

 

 

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なお、2015年GPスケートカナダにて、実際にエキシビションを観た私の感想はこちらでどうぞ: