今朝、トロント国際映画祭(TIFF)のためのリモート通訳の収録がありました。
最初の収録は8月20日、9月1日の今日が二度目でした。
映画祭の通訳コーディネイターから連絡をもらったのは8月15日、日本映画が今年は2本、ラインナップに入っているのでそれらの質疑応答を手伝ってほしい、ということでした。
それから三日後の8月18日にいきなり「8月20日に本番の収録だけど、出来る?」と言われた時にはさすがにひるみましたが、ギリギリに何とか映画のプレビューをさせてもらって挑みました。
河瀬直美監督の『朝が来る』。英語のタイトルは『TRUE MOTHERS』と定められています。
特別養子縁組がテーマとなっており、非常に考えさせられる作品でした。
そして今日、担当したのは西川美和監督の『すばらしき世界』、英語のタイトルは『Under the Open Sky』。
佐木隆三氏の『身分帳』が原案となっていて、主役に役所広司さんを据えています。素晴らしい作品でした。
映画自体、そして質疑応答に関しては詳細を控えますが、収録を終えた感想としては
「こういう状況だからこそ、とにかくやってみる事が大事なんだな」
ということでした。
正直、コロナ・パンデミックの状況下で国際映画祭を開催することは難しいだろうと思っていました。規模を大幅に縮小して、例年は200から300本近い作品を上映するところを50本に絞り、オンラインのプラットフォームを設けて鑑賞してもらうというフォーマットは苦肉の策。
TIFFが所有している建物(TIFF Bell Lightbox)には5つの映画上映室があり、そこで非常に限られた形で映画祭中に観客を入れての上映も予定されています。
通常であればトロント市内の映画館を多数、借り切って、映画ファンが長蛇の列を成してお気に入りの作品を見るために並ぶのがTIFFの伝統です。
2018年:塚本晋也監督の『斬!』上映前の光景
そして監督さんや俳優さんたちが実際に舞台挨拶や質疑応答に登場すること、上映後にはファンとの触れ合いがあることもTIFFの醍醐味です。
2016年『怒り』のキャストと李相日監督の舞台挨拶
2016年『ダゲレオタイプの女』上映後の黒沢清監督
2015年『バケモノの子』の細田守監督を取り囲むファン
こういった映画祭の楽しみを全て削ぎ取って、何とかデジタルフォーマットでの開催に漕ぎつけようと奔走しているTIFF主催者の姿に、私は最初
「そこまでやらんでも」
と、ちょっと斜に構えていました。
しかし、いざリモートでの収録をやってみると、監督さんたちが声を揃えて
「コロナ感染のせいで、世界中で人々が引き離されている状況の中、こうやって映画を通じて皆に集いの場を与えてくれて感謝している」
「こんなに努力をして、何とか我々の作品の公開を実現させてくれようとしているTIFFの主催者にありがとうと言いたい」
と仰っていることに心を動かされました。
これは何もリップサービスではなく、パンデミックによって甚大な被害を受けている映画やエンターテインメント業界にあって、少しでも希望を与えてくれている事への心からの感謝の言葉であると思います。
そんな試みへ、少しでも貢献できるのであれば、と思い直しました。
慣れないリモート通訳にはやり難い面もあります。実際に監督さんたちにお会いして事前の打ち合わせをする場があると通訳がやり易くなります。壇上で一緒に立って観客からの質問を受けることで、どんどん呼吸が合って来るのも実感できますし、「ライブ」だからこその高揚感があります。
リモートで収録、と言ってもよっぽどのこと(例えば途中でインターネットの接続が切れたり)がない限り、編集されるわけではありません。その場でのやり取りが全て録画されて、そのまま、視聴者に届けられることになっています。その分、緊張もしますし、聞こえにくかったりする場合も聞き直しが出来なかったり、と完璧な条件とは言えません。
しかし別の角度から考えれば、トロントでの現地開催となると日程の調整が付かず、監督さんたちが来ることが出来ない場合もあるわけです。そういった意味ではこのようなリモート方式のおかげでおそらく50本全ての映画の質疑応答が実現しているのだと思います。時にはそこに出演者たちも加わり、鑑賞権を購入するファンにとってはなかなか豪華なラインナップになるのではないか、と推測されます。
コロナ感染のせいで、出来なくなったことは数えきれないほどある。
でも、だからこそ知恵を働かせて、試行錯誤をして、あがいてでも、何か行動を起こすことは重要だ、と思った朝でした。
次の記事はまたスポーツ関係に戻ります。