2019年世界選手権(埼玉大会):ペアとアイスダンス競技もあるんです | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

 

今大会途中で何度か実家の母に

 

「今、ペアの競技が終わって、中国の組の演技がすごく良かったよ」

 

あるいは

 

「フランスのアイスダンス組、やっぱり強かった」

 

とラインで言うと

 

「全然、放送されていないから分かりません」

 

という返事が来ました。

 

日本で世界選手権がどのように放送されているのか知らないので、番組構成は未だに分かりませんが、どうやら女子と男子のシングル競技しか開催中は観られなかったようですね?

 

おそらくネット配信では映像が流れたり、後日にJスポーツなどで放送されるのでしょうが、例えば私の母の様にテレビ観戦に頼っているスポーツファンにとっては、あたかもこの埼玉ワールドにはペアやアイスダンスの競技が存在しないかのように思えるのではないかしら。

 

日本では何故にカップル競技の選手が育たないのか、とCBCのクルーに聞かれました。スケートは人気のあるスポーツだし、上手い選手はあんなに多いのに、と、ごく当然ような疑問が浮かぶのでしょう。

 

このブログでも同じような疑問は何度か提示してきましたし、昨年、カナダ代表の強化合宿を取材しに行った時、モントリオールのアイスダンスの聖地と言われるGADBOISクラブのコーチ、パトリス・ローゾン氏に意見を聞いてみました。

 

カナダでもシングルからペアやアイスダンスに転向したがらない選手は多いけど、日本ではおそらくその傾向がより強いのだろう、という分析でした。まずはシングルで力を試したい、そして芽が出そうになかったらようやく諦めて転向するというパターンだろうけど、それでは遅い、と言われました。年々、カップル競技のレベルは高くなっているので、小さい頃からやっている選手たちに追いつくには15,6歳までに転向すべき。(アイスダンスの場合は特に)

 

二人で演技する分、(アイスダンスでは)スケーティング・スキルや(ペアでは)ジャンプのタイミングの正確さが求められる。自分のペースでその時、その時、適当にやっているとパートナーとのユニソンが望めないからですね。そのような滑り方は数年では身に着かないでしょう。

 

惜しいなあ。

 

だって、私が今大会、唯一号泣したのは21日のペアフリーの部で、Wenjing Sui & Con Han組が見せてくれた圧巻の演技だったんだもん。

 

(カーマイケルさんからお写真を頂きましたので感謝して掲載します。皆様もシェアされる場合はいつものように、クレジットをお願いします。)

 

 

Photo by David Carmichael

2019 ISU World Figure Skating Championships Saitama

 

 

カナダの誇る名コレオグラファー、ローリー・ニコルの今シーズン最高の傑作プログラム(の一つ)。 イタリアの作曲家エズィオ・ボッソの曲 "Rain, In Your Black Eyes"に乗せてスイ&ハンが滑ったフリーは最後のステップシークエンスで鳥肌が立って涙が湧き出るほど素晴らしかった。

 

 

 

 

このペアは今シーズン、スイ選手の方が本当に怪我に泣かされ、ようやく四大陸に出場したかと思いきや、世界選手権前にまた負傷してほとんどぶっつけ本番で試合に挑んでいます。そのため、プログラムは滑り込めていないはずなのですが、全くそのような素振りは見せませんでした。

 

いつもは記者会見で辛口の冗談を飛ばして、パートナーのハン選手をからかうスイ選手ですが、滑り終わった途端に万感の思いを込めて抱きついていました。それを見て涙ぐむHongbo Zhaoコーチとローリー。埼玉ワールドの最初の金メダルに相応しい、魂を揺さぶる名演技でした。

 

一方、同じくペア競技で優勝の最有力候補と見られていたフランスのVanessa James & Morgan Cipres 組のSPでの大崩れは衝撃的でした。今シーズンは序盤から負け知らず、引退したアイスダンスのチャーリー・ホワイトの振り付けた鉄板のフリーで必ず巻き返すことが出来るところが彼らの強みでした。ところが今大会ではSPで大きなミスが二つも出て、あまりにも大きな点差を付けられ、得意の逆転が出来なかった。これから別の記事で「勝負は戦って見ないと分からない」といったテーマを扱うつもりですが、まさにその一例が今大会のペア競技でした。

 

一方、アイスダンスの部ではまだ弱冠23歳と24歳ながら、今大会を含めて四度の世界選手権で優勝しているフランスのGabriella Papadakis & Guillaume Cizeron組。ヴァーテュー&モイヤー組の復帰で平昌五輪の優勝は逃しましたが、今後は向かうところ敵なし、とも思えるほど実力(と成績)が抜きんでています。

 

 

Photo by David Carmichael

2019 ISU World Figure Skating Championships, Saitama

 

 

彼らのリズム・ダンス、そしてフリー・ダンスは難しいツイズルにしても、スピンにしても、全てのエレメンツが完璧に振り付けの一部となっている。二人だけの世界を創り出して、観る者を引き付け、そしてあっという間にプログラムの終わりまで連れて行ってくれる。テサモエを熱烈応援していた私ですが、今となっては素直にこの二人の実力を認めています。今大会、最もサプライズの少ない展開だったのがアイスダンス競技、そしてパパダキスたちの優勝でした。

 

しかもシズロン君、今となっては余裕の表れか、ジェームズ&シプレ組のSPなど、他の競技の選手たちの振り付けまで担当しています。(あと、自分たちの衣装も彼のデザインによるという。。。)

 

ああ、アイスダンスももっと多くの日本のスケート・ファンに観てもらいたかったなあ。

 

なお、前述のギャドボワ・クラブからは埼玉ワールドに何と9組ものエントリーがありました。フランス(2組)、アメリカ(3組)、カナダ(1組)、中国(1組)、日本(1組)、イギリス(1組)が出場し、アイスダンスの競技中、キスクラでは常にギャドボワのコーチが座っているかのような錯覚を起こすほどでした。世界中から選手を受け入れ、トップへと導く懐の深さはトロントのクリケットクラブとも似ていますが、その一方でカナダ選手たちは今大会で全ての競技において少し(あるいは大いに)残念な成績となってしまいました。

 

次の記事では、来年の世界選手権を自国開催するカナダチームについて(あと、私が今回カナダを出発する前に請け負ったとあるアサインメントについて)書きたいと思います。