2016年ワールド:スミスさんの記事読解(パート1) | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...



4月3日だというのに、今朝起きたら辺り一面、雪景色でした。

でもスケートシーズンが終わってしまったという寂しさを味わうにはちょうど良い天候かも知れません。


では予告通り、スミスさんの記事:

Fernandez: Skate of a litetime
(フェルナンデス:一生に一度の名演技)

について解説をさせていただきます。全訳というのではなく、私が特に面白いと思った部分だけを取り上げて行くフォーマットなのでよろしくお願いします。


まず冒頭からスミスさんは羽生選手についての記述をしています。


Yuzuru Hanyu doesn’t live in a normal world.
ユヅル・ハニュウの住んでいる世界は「普通」ではない。

On Saturday night, after the men’s free program, Japanese fans waited and waited for a chance to see their fallen hero, who had squandered a 12-point lead after the men’s short – to win the silver medal, not the gold.
土曜の夜、男子フリーが終わったあと、日本人ファンは敗れた英雄を一目見ようと延々、待ち続けた。ショートで得た12点ものリードを失い、金メダルではなく、銀メダルに終わった彼を。

No matter. Well past midnight, the Japanese fans gathered at the TD Garden tunnel where the athlete buses churn to and fro. Because of Hanyu’s rock star status and all that goes with it, he had his very own shuttle, a large bus with an entourage and a burly security guard. He’s Justin Bieber on skates.
待たされるくらいなんのその。選手たちを乗せたバスが行き来するTDガーデンのトンネルには、12時を過ぎてもファンたちが押し寄せていた。ハニュウの有名人としての地位、そしてそれに伴うもろもろの事情もあって、彼には専用のシャトルが準備されていた。大きなバスに同乗するのは彼の取り巻きと屈強なボディガード。まるでスケートを履いたジャスティン・ビーバー、といったところか。

The fans were waiting at the other end of the trip, at the hotel, too. And as the bus chugged up, the fans ran. Hanyu raced past them, eyes straight ahead. Protected.
ファンは向こう側、つまりホテルでも待ち伏せていた。バスがやって来ると、ファンたちは走り出した。ハニュウは脇目もふらず、そこを駆け抜けて行った。(ボディガードに)警護されて。



とまあ、海外記者からすれば「異様な光景」をスミスさんは描いています。

今や羽生選手は本当に世界のフィギュアスケーターの中でも特異な存在。まるで芸能人のように映るのでしょう。


この後の2段落では、我々が皆考えていたのと同じことが述べられています。つまり羽生選手が二位に史上最大の点差をつけてフリーに臨み、他の選手たちもふくめて皆が彼だけが別枠で戦っている、と思った、と。

だけど、一番上の階までファンで埋め尽くされた会場(ここでスミスさんが会場となったTDガーデンを「GAHDEN」とスペルしているのはボストン辺りの特徴的な訛りに触れて、地元ではそう呼んでいる、と言っている訳です)では事態は急変し、ハニュウにとっての最高の夜、というわけには行かなかった。チャン、コフトゥン、ウノ、テンにとってもしかり。


次の幾つかの段落では主にアメリカ選手がいかに良い滑りを見せて会場を沸かせたか、について述べられています。その中でもアダム・リッポン選手についての記述が興味深いので取り上げますね。

リッポン選手は今シーズン生まれ変わったかのように、これまでで一番体の調子が良く、自信もついていた。そして振付師のジェフリー・バトルにナショナル・タイトルを獲るために、ワールドでも羽ばたけるように、そんな音楽を見つけたいと言ったそうです。

Buttle picked “Blackbird,” the Beatles song that goes:
バトルはビートルズの「ブラックバード」を選んだ。歌詞は以下の通り:

Blackbird singing in the dead of night.
Take these sunken eyes and learn to see
All your life
You were only waiting for this moment to be free.
真夜中に歌うブラックバード
落ち窪んだ目をやるから、それで見てごらん
生まれてからずっと
お前は自由になるためにこの時を待っていた


Rippon said later that he actually heard those words as he competed Saturday night. He went for the gusto early, for that pesky quad Lutz that has always eluded him and in the free program, he landed it on one foot, although it was underrotated. He knew it was. “But I kept going,” he said.
リッポンは土曜の夜、滑っている時にその歌詞がはっきりと聞こえたと言う。演技の冒頭から派手に行こう、これまでずっと成功することのなかった厄介な四回転ルッツを決めてやろう、と思っていた。そしてフリーでは(その4Lを)片足で降りた。アンダーローテーションを取られはしたし、自分でもそれは分かっていたが、「構わず、どんどん続けた」と彼は言った。



この後、スミスさんはアメリカ選手三人全員が10位までに入ったにも関わらず、来年のために三枠を獲ることができなかったことを指摘しています。


技術点と演技構成点など、スコアについての記述があり、その後はまた話が羽生選手に戻ります。

最初のジャンプで手をつく、というミスが出た瞬間、"there was an intake of breath"(皆が息を飲んだ)という表現がとても印象的です。まさにこの時、会場にいる人たちも、テレビやパソコンで観戦していた我々も、ハッと身が縮まったと思います。

それからもミスが続き、あまりにも「彼らしくない」演技だったが、そういえばソチでも似たことがあった。その時、チャンはハニュウに与えられた隙に付け込めなかったが、ボストンでも同じで、チャンスを生かすことができなかった、とスミスさんは言っています。

演技が終わり、羽生選手はキスクラで184.61というあまりにも低い得点が掲示され、かろうじて受け止める。(choked down は、直訳では「喉につっかえながらも飲み込んだ」という感じ)

オーサーの談話によると、直前の練習では「超」がつくほどではなかったけど調子は良かった、「いつものユヅ、つまり何でもかんでも全部、成し遂げるユヅ、が観られるものとてっきり思っていた」と言い、「何か一つ、これ」と言った原因はなかったと教え子の演技を不思議がっています。「ユヅは確かに演技の前はナーバスになっていたけど、いつもより、というほどではなかった」、と。



パート2ではハビエル・フェルナンデスの最高の演技、とその直前までの苦悩についての記述に注目します。