2015年スケートカナダ:TSN解説による羽生結弦FS | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...





毎年、スケートカナダの放送はTSNの担当です。カナダ国内の大会はこの他、カナダ選手権もこの局が放送権を持っています。


解説チームはトレイシー・ウィルソンとロッド・ブラック、そして大ベテランのブライアン・ウィルソンが番組の始めと終わりに登場します。


TSNはCTVとも提携して、一日中、生放送で競技を追い、この他にもスケートカナダのHPでは練習のライブストリーミングが流れていましたね。4日間、スケートカナダに浸ろうと思えばそうできた、ということです。なんとも大盤振る舞いで嬉しいですね。


(なお、さっきチェックしたら中国杯に関してはCBCがずっとライストを提供するそうなのでこれも楽しみです。)


TSNの解説ブースは確かキスクラ側のショートサイド、選手たちの出入りする場所の上方に設置されていたはず。トレイシー・ウィルソンはそこから愛弟子の羽生選手を見守っていたことになります。


ではトレイシー母さんの愛情たっぷりの解説をどうぞ。ピンクがトレイシーブルーをロッドさんと色分けしました。



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Coming in at 6th after the short program, almost unheard of for Yuzu. But like Patrick Chan it is sort of a comeback for Yuzu as well. Keep in mind he finished second at the World Championship. Had an injury leading up to that World Championship, that might have cost him the gold medal. But he is the Olympic Champion and by all accounts over the last year and a half, he has been the best in the world.
ショートが終わって6位という、ユヅにとってはほぼ前代未聞の順位。でもパトリック・チャン同様、ユヅにとってもある意味、これはカムバックの大会と言えます。世界選手権では二位に終わっていることを思い出してください。ワールドの前に怪我に見舞われてそれが金メダルの獲得を阻んだのかも知れない。それでも彼は五輪チャンピオンであり、過去一年半、世界最高のスケーターとして皆に認められてきてます。



He had trouble with the timing of his quad in the short program, we saw that again a little bit in the warmup here.
ショートでは四回転のタイミングに問題があった。ウオーミングアップでもそれがちょっと見受けられましたね。






This is a piece of music from the motion picture “Onmyouji”, Yuzuru brought this piece of music to Shae-Lynn Bourne, they collaborated on his new free program. It’s sensational.
曲は映画「陰陽師」から取ったもので、ユヅルはこれをシェイリーン・ボーンのところに持ってきて、二人で新しいフリープログラムを創り上げました。ハッとするような素晴らしい作品です。







He has a super ambitious program here, with three quads planned
今大会、非常に野心的なプログラムを引っ提げて来ました。四回転が三つ、予定されています。






Most difficult quad for him is the quad salchow, it’s coming up here...
(ユヅルにとって)一番難しい四回転、クワッド・サルコー、さあここです。







Touchdown!

降りた!






Second quad is different from the first, it’s the quad toe, it’s coming up next
二つ目のクワッドは一つ目とは違う種類。クワッド・トウ、この次です。








Another!
もう一つ(降りた!)




(1分20秒ほど、二人とも沈黙。)












Absolutely idolized in Japan, he may be the most famous athlete in that country right now

日本ではまさにアイドルとして崇拝されています。現在、あちらでは最も有名なアスリートかも知れません。








He’s building speed here Rod, third quad planned. This one has to be in combination
ここでスピードを上げて来てるわよ、ロッド。三つめのクワッドが予定されています。これはコンビネーションでなければならない。







Little touchdown
ちょっと手を付いたけど






It doesn’t get easier, back to back triple axels

ここからもまだ難度は落ちないのよ。連続してトリプルアクセルがあるからね。






Jump he fell on in warmup
ウオーミングアップでは転倒したジャンプだったけど



Visibly tiring, such an ambitious program,
明らかに疲れて来てる、本当に野心的なプログラムだから。

Second triple axel, ho! and into a triple salchow!
二つ目のトリプル・アクセル、HO!そこからトリプル・サルコー!!




Final lutz  And!
最後のルッツ。。そして!






Up to that point,( he) had nailed everything
ここまで、全て成功してたんだけどね。



(手拍子が起こり始める)


This audience is willing him to finish strongly, they’re right there with him
会場の観客は彼に最後まで力強く滑ってほしい、と背中を押しているわね。彼にぴったりと寄り添っている。







One fall.. but Yuzu’s back! With a big rally.
転倒は一回あった、でもユヅ・イズ・バック。すごい巻き返しでした。






And for the first time in a Grand Prix season, three quads in his free skate
そしてグランプリシーズンでは初めて、フリーで三つの四回転を入れて来た!






He trailed by 7 points, he made that up in one jump
(ショートでは)7ポイントの遅れを取っていたけど、一つ目のジャンプで挽回したね。






So now everybody has to chase the Olympic champion
さあこれで皆が五輪チャンピオンを追いかけることになる。



His first quad will gain him over 12 points alone, he did three
最初の四回転で12点以上も稼いで、それを三つも跳んだからね。



It might take them a while to clean this ice surface

氷上を片づけるのにちょっと時間がかかるかも知れない。










And to add up the total jump tally
ジャンプの点を全部、集計するのにもね。




You got a very good point
確かに、その通りだね。


Yuzuru Hanyu, of Japan, RE-MARKABLE
日本のユヅル・ハニュウ、見事でした。







20 year-old Yuzuru Hanyu, Olympic Champion, a World Champion, also owner of the Yuzuru Hanyu Flower Shop, and the Yuzuru Hanyu Toy Shop because of all of the gifts that’s been presented to him on the ice.
20才のユヅル・ハニュウ、五輪チャンピオン、そして世界チャンピオンにもなった。そして「ユヅル・ハニュウ・フラワーショップ」のオーナーでもあり、「ユヅル・ハニュウ・トイ・ストア」のオーナーでもある。だってこれだけ一杯のプレゼントがリンクに投げ入れられているんだから。

Look at this
見てのとおり。






Oh my goodness
すごいわね。


He is an absolute legend in his country, and he skated like a legend tonight
自国では伝説のスケーター、今晩は伝説に相応しい滑りを見せました。



He is so animated in the Kiss and Cry going over the details of his program with Brian Orser
キス&クライであんなにはしゃいで。ブライアン・オーサーと演技の細かい部分について確認しているわね。






His quad salchow was BEAUTIFUL over 12 points for that jump
クワッド・サルコーは本当に綺麗だった。あのジャンプで12点以上はもらえている。


Then his quad toe he’s picking up almost 12 points for that so this was huge for Yuzuru to include three quads, a hand down on the second one but still, a big step forward for him.
そしてクワッド・トウ。これでも12点近く稼いでるから、ユヅルにとって四回転を三つ入れる、というのはものすごく大事なことだった。二つ目の4Tではちょっと手を付いたけど、それでも彼にとっては大きな前進でした。



The Lutz at the end, he just didn’t have enough (laugh) left, and at that point it’s like “What-Ever”, you know?
この最後のルッツ、どうにもこうにも力尽きたという感じで、でもここまで来たら「もー、どーでもいい」って感じなのよね、わかる?


He had already put up a crazy amount of points
それまでにとんでもない得点を重ねてたからね。



That was a crazy program, ambitious. It took a while to clean the ice, it took a while to tabulate. He’s going to put a total here I am not sure anybody can catch.
まさにとんでもない、野心的なプログラム。リンクを片づけるのに時間がかかり、集計するのにも時間がかかった。彼の総合得点は誰にも追いつけないものになるんじゃないかってぼくは思うんだけど。


Legendary Yuzu
伝説のユヅ。



(得点が発表される。)



He almost hit a hundred, technically.
技術点では100点近くまで行ったわね。


Fatigue showing at the end... Components? 88 but.. what a great effort by Yuzu, and boy, that’s the score to beat.
最後は疲れが見えたけど、コンポーネンツの点は?88点。。。まあでもユヅはよく頑張ったわ。そして、どう?これが皆の追いかけるスコアよ。




That’s a high bar now, almost 260, for the five remaining skaters.

260点近いスコア、非常に高い水準です。これを残りの五人の選手が追いかけます。





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トレイシーさんは舞台裏にも姿を見せ、羽生選手に笑顔をふりまいていましたが、解説は暖かく、かつ良いポイントを突いていますね。


そこで私のツボですが、

①トレイシーさんが「陰陽師」を「オンミャジ」って発音したところ。可愛いから許す。



②羽生選手のプログラム構成を熟知している彼女は、3つ目の四回転の前になると緊張してきたのでしょう。さあ、ここからが見せ場なのよ、と知っているだけにその直前にロッドさんがちょっと演技とは関係のないコメント(「彼は自国でアイドル扱い」)を入れると、初めて解説中に「ロッド」と名前で呼び、


「ちょっとあーた、こっからユヅがせっかくスピードをグングン上げて二つ目の4Tに挑もうとしてるんだから、しっかり観てよ!」


みたいなノリでたしなめているところ。


ちなみにロッドさんはフィギュアスケートだけではなく、あらゆるスポーツの解説も担当します。なのでスケート専門の人に比べると、ほんのちょっと「ベタ」なコメントをする傾向が。(最後の方で羽生選手が「花屋とかおもちゃ屋のオーナーかも?」といったようなコメントしかり)




③プログラム後半で二つ目の3Aを降りた瞬間「ホ!!」と叫んで、コンビネーションで3Tを付けると、「トリプル・トウ!!」思わず声が一回り大きくなるところ。


以前もトレイシーさんは羽生選手のこのコンビネーションで感嘆していましたが、彼女にとってこれがツボなのかも知れませんね。




④スコアが出て、技術点はさておき、コンポーネンツの88点を見た時にトレイシーさんがちょっと間を置いたところ。


「最後の方で疲れは見えてたけど」と自分にも言い聞かせるように解説。

ちょっと低いと思ったか?




⑤そしてもうこれが最高なんですが、スロー再生で最後のルッツで転倒して立ち上がる際、羽生選手がちょっと苦笑しているのが映ると、トレイシーさんもお母さん目線になって


「もうね、この時点ではね、力尽きててね、なーんにも残ってないのよ。で、彼もね、"WHATEVER" ってなってるわけ、わかるでしょ?」



この「WHATEVER」、北米では特に若い子が使うのですが、ニュアンス的には


「もー知らん」

「どーでもいい」

「好きなようにして」



といったような感じで、「面倒くさいオーラ」満開の表現なのです。


つまり羽生選手が最後まで頑張って、ちょこっとジャンプを一つミスしたけれど、もう本人もここまでやったんだから後はどうにでもなれ、と言っている、と。


目を細めて可愛い弟子を見守り、誇らしく思っている様子がよく出ているコメントだな、と思ったのでした。