2015年トロント国際映画祭:怒涛の一週間レポート「極道大戦争」 | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

 

 

 


トロント国際映画祭に関する最後の記事を書くのにまたえらく時間がかかってしまいました。



ここ数日、バタバタしていて時間が取れず、実は飛行機の中でこれを書いています。以前もお知らせした甥っ子のコンサートの応援に日本に向かっているのです。


まあそれはまた次の機会に詳しくレポートするとして、映画祭に話を戻しましょう。



実は当初、私のところに打診が来たのは河瀬直美監督の「あん」が最初、次に細田守監督の「バケモノの子」、その次が園子温監督の「ひそひそ星」だったのです。スケジュール表を見ると「あん」と「ひそひそ星」の上映日は重なっていて、かなりきつそう。でも引き受けました。


ところがその後、通訳のコーディネイターをしているパティちゃんから「日本映画で、二回の上映会と『プレス・デイ』(取材日)がセットになっているのがあるんだけど、これは同じ通訳がずっと担当することが望ましいのでお願いできないかしら」と頼まれたのです。


その映画は



三池崇史監督の「極道大戦争」。英語のタイトルはなんと「YAKUZA APOCALYPSE」!!



しかもトロント映画祭でのプレミアはかのミッドナイト・マッドネスという枠での上映。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ミッドナイト・マッドネスはトロント映画祭の名物で、なんと夜中の11:59分から始まり、上映後の質疑応答が終わると午前様。会場の雰囲気も独特でお客さんは最初から大盛り上がりで挑む、ということを聞いていました。


昨年は園子温監督の「東京トライブ」がこの枠で上映されたのですが、私は電車の時間もなくなるので、と辞退していたのです。でも今年は何となく、挑戦してみたくなって引き受けました。


こうなるとどう考えても四本の映画では欲張り過ぎで、ちゃんとした仕事ができなくなるような気がしてきました。そのため「ひそひそ星」は別の方に担当していただくことにしたのです。



さて、私は三池監督に関して下調べをするまでほとんど無知・白紙状態だったのですが、ものすごい数の映画を撮っていらっしゃいます。ジャンルもホラーから 時代劇、コメディ、はてはお子様向けの物までと幅広い。フィルモグラフィをウィキペディアで見ただけでちょっと戦きました。


これ、全部覚えろって言われても。


しかも日本語のタイトルと英語のタイトルが全然違う。


まあそれはちょっとさておいて、本年度のトロント映画祭に出品されている「極道大戦争」の予告編を見るとなんだか得体の知れない内容であるらしい。








予習のために渡された本編を家で試写する時、せっかくなので主人と次男に一緒に観てもらいました。



我々三人の感想は:


「何じゃこりゃ」


だけど


「面白い」



でした。


かなり期待が膨らんでくる中で、パティちゃんから届いた三池監督の取材予定表を見てちょっと腰が引けました。なんと二日間で二十以上ものテレビ・雑誌・電 話インタビューがそれこそ分刻みで入ってるではありませんか。通訳がちゃんとできるかとかいう問題よりも、私の体力や集中力が持つのかが心配になって来ま した。



まあでも引き受けたからにはベストを尽くすしかありません。16日の「あん」の通訳が終わったあと、高校時代のテスト前の一夜漬けを彷彿とさせるような資料暗記。


主なものは映画の日・英タイトルのリスト作成ですがこれはウィキペディアが大いに役立ちました。ほんまに便利。


この他は英語で書かれた三池映画ファンのブログ記事が本当に参考になりました。中でも "10 Essential Takashi Miike Films You Might Want to See" は秀逸で、おかげで何十とある映画の中からどれがファンにとっては「ツボ」なのか、見当がつきました。


後は取材中に出て来そうな単語を自分で羅列してメモしたりして、久しぶりに頭をフル活動させ、なんとか納得の行く準備ができました。



そしていよいよご対面の日。


17日の朝9時半にホテルのロビーで待っていると、監督とスタッフの方々が登場。まずは監督のファッションセンスに感心しました。この日はテレビ取材もあるということで、インパクトの強い色のお召し物でした。


最初にインタビューをしたSPACEのモーガン・ホフマンさんが、自身のツイッターにアップしたものをご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


午前中三時間、午後からも三時間、それはそれはみっちりと詰め込まれた取材スケジュールでしたが、三池監督はどの記者の質問にも丁寧に対応されていまし た。当然のことながら皆、聞きたいことは似通っているので同じ質問が何度もされるわけですが、その都度、言葉を選んで応え、そして時には記者が喜びそうな ひとことを交えていらしたのが「さすが慣れていらっしゃる」と思わされた点でした。


私の方も数をこなしていく内にだんだん、何を聞かれるのかが予想され、通訳をしていても楽になって行きました。ウィキペディアさんのリストも大いに役立ち、安心しました。


面白かったのはインタビューをしに来る記者がほぼ全員、三池ファンだったこと。中には「会えて光栄です」と緊張して握手を求めて来る若いジャーナリストも いて、北米でいかに監督さんの人気が高いのかが伺えました。「明日のプレミアには絶対に行くから」と皆、ニコニコして帰って行きます。


そして三池監督は写真を撮られることにも非常に慣れていらして、ポーズを取るのもお上手。



どーですか、このトロント・サンの記事の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


18日は午後からが取材、そしていよいよ真夜中の上映会がある日です。


この日は都心から少し離れたRUE MORGUEという不思議な場所で取材が行なわれることになっていました。ホラー映画のファンを対象とした雑誌の事務所なのですが、ちょっとしたスタジオ空間もあります。インテリアがおどろおどろしくて、何とも言えません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


そこでまた3時間半ほど取材責めで過ごし、いったん上映会まで解散しました。




再びホテルのロビーで集合したのが11時20分。迎えに来てくれた映画祭のスタッフが、会場の周りはファンで一杯ですごい事になっていると教えてくれまし た。当然、チケットは完全に売り切れていて、良い席を確保しようとした人々が二時間前から行列し、建物をグルリと取り囲んでいると言います。


チケットにありつけなかったのか、ホテルを出るとファンが何人も待ち受けていました。



「TAKASHI~~~!!」


と呼んで、サインを求めます。三池監督は快く応じ、ついでにセルフィーにも収まったりします。なんというファンサービス。


会場に到着するとカメラマンが待ち構えていて、映画祭のための正式な撮影が行われました。(以下の写真は全てトロント国際映画祭のMidnight Madness Blogのものです)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドナイト・マッドネスのプログラミング・ディレクターCOLIN GEDDES
ポーズを取る三池監督

 

 


そして取材もあり、通訳を頼まれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


さあ、いよいよ舞台挨拶です。会場はもちろん、満員御礼。異様な熱気に包まれているのをコリンさんがさらに煽ります。


「ミッドナイト・マッドネスの王者、タカシ・ミイッケー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ほとんどプロレスの世界です。


大声援に迎えられて三池監督登場。短い挨拶の後、映画が上映されました。監督もスタッフと一緒に客席でご覧になりました。



ミッドナイト・マッドネスのお客さんはとっても反応がオープンでそれも面白い。



コミカルな場面では大いに笑い、激闘の場面で拍手喝采、訳の分からん不思議なキャラが登場する場面では「えー、何これ?」といったような言葉がそこかしこで聞こえます。



監督もとっても愉快そうでした。



そして映画が終わるといったん、舞台裏に控えて、またコリンさんのイントロとお客さんの大拍手に迎えられて再登場。


「特別なゲストを連れてきたんだよね?」と聞かれて監督さんが会場の後方を指さすと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


映画に登場した謎のゆるキャラ、カエルくんがゆっくりと歩いてきました。



もう、会場は興奮のるつぼ。




ここからの質疑応答も最高に盛り上がり、本当に楽しかったです。



この模様は「シネマ・トゥデイ」のこちらの記事でどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


実はこの日、主人も上映会に来てくれたので、一緒に車で帰宅することができました。主人の友人で映画ファンの人とその奥様と三人で客席から私の通訳ぶりを見守ってくれていたのですが、私からはどこに座っているのかがわからず、前から三列目にいたのだと知らされてびっくりしました。


主人にしては珍しく手放しで「すごく良かった」と褒めてくれたので嬉しかったです。二日間の取材のおかげでかなりリラックスできたのが良かったのだと思います。


上映会は19日に二度目があり、この日も会場は満員でした。



舞台挨拶、質疑応答ともスムーズに済み、大きな仕事が終わったという充実感がありました。



映画祭の舞台挨拶の通訳というのはある意味、ちょっと特殊な仕事で、ただ監督さんや俳優さんの言葉を逐一、訳して伝えれば良いといものではない、とパティ たちコーディネイターは言います。会場の雰囲気や映画の内容、監督たちのパーソナリティなど全てを踏まえなければいけない。当然、出しゃばるのはいけない けれど、通訳も舞台に立って堂々と観客とコミュニケーションを取らなければいけない、と事前のオリエンテーションではアドバイスされます。


私も今回の映画祭で自分が写っている動画などをおそるおそる見ましたが、普段なら「え、順序逆やん」とか「意訳しすぎでしょ」とツッコみたくなる箇所が一 杯なのに、許すことができました。なによりも別れ際に三池監督にもスタッフの方々にも暖かいお言葉をいただいて幸せいっぱいでした。




また来年もチャンスがあれば参加したいイベントです。日本映画、たくさん来ると良いな。



以上、2015年トロント国際映画祭のレポートでした。読んでくださってありがとうございました。