早送り再生のような進化:羽生結弦選手の全日本選手権三連覇に思うこと | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...



今朝、5時に目覚ましをかけて起きました。

前日のパーティの準備、実行、後片付けで疲れ果てて、足は痛い、肩は折れそう、しかし見なければならない。

一昨年も昨年もこうやって全日本選手権を日本のテレビ放送で見たのですが、その時のブログ記事を読み返して、改めて羽生結弦選手の進化の驚異的な速さを認識しました。


まるで早送り再生を見ているみたい。


だって、ほんの一年前でさえも、まだ私は

SHOW THEM WHO IS KING OF THE CASTLE



とかなんとか言って応援してるんですね。


今ではそんなこと、アホらしくて言えません。


いつもはビビりな私が(多少はドキドキしながらも)


順当にいけば圧勝なんだから、まあ怪我だけに気を付けて、そしてショート、フリーの演技はどこまで完成したものを見せてくれるのかが楽しみ、と言ったような心構えになっています。


写真集「YUZURU」を毎晩眺めてから床に就くという母はまだニワカ・ファンなので


「ああもう胸が痛くていやだわ」(←震えるハートマークをここに挿入してください)


と試合の行方に不安を隠せませんが、私はそれに余裕で


「まあ大丈夫でしょ」


と、なだめる役に回っています。


では大会が終わって、羽生選手の三連覇が達成された今、思うことは?


*過去2シーズンのプログラムに比べて、ショートとフリーの役割が逆になっているような気がする。


クリケット・クラブに移った当初、コーチ陣は羽生選手にスケートの基礎の大切さを教えることがテーマだと考えた、と言われてましたね。2012-2013年のフリーのプログラム「ノートルダム」について、カート・ブラウニングは「ユヅルに自分の余りある才能と情熱をコントロールするために与えられたプログラム」と形容しましたが(私はそれを意訳して「大リーグボール矯正ギブス」と称しました)、なんとなく最後まで必死で滑っている、という感がぬぐえませんでした。

羽生選手にとっては「我慢のプログラム」

ただ、ショートでは少し悪戯心を出せるようなプログラムをバトルが作り、初っ端から驚異的なスコアをたたき出せるものであることが判明したこともあって、羽生選手のモチベーションを高める結果となりました。

続く2013-2014年のシーズンでは曲こそ羽生選手の要望が通り、フリーは「ロミオとジュリエット」になりましたが、これもまだキャラに入り込んでいるというよりも「演じているのがわかる」といった感じでした。

個人的に、私はあの


「ロミオがバルコニーにいるジュリエットを見上げる」



箇所がどーも取ってつけたような気がしたんですよね(こんな事言ったら怒られるかも知れませんが)。結弦君が思いついてやりそうにない動作、と言うのかしら。



では今シーズンはと言うと、ショートは去年と同じくバトル作だけどガラッと雰囲気が変わっている。

「試合開始とともに思いきり点を稼いで他の選手のやる気を失くさせる」

というしかけはそのままで、しかも素晴らしく美しいプログラムであるのは分るんですが、「パリの散歩道」が羽生選手のワイルドな若者の舞台となっていたのに対して「ショパンのバラード」コントロールがテーマになっているような気がします。


一方、フリーの「ファントム」はもう、ただただ「当たり役」


シェイリーンの音楽の編集が素晴らしいこともあるんですが、随所に滑っている選手が「キメ」の動作を入れやすいように、本当に分かりやすいようなところに「ツボ」が用意されている。


私が特にそれを思うのは、審査員席の前で羽生選手が


HEAR IT, FEEL IT




と口ずさみながら滑るところ。


MUSIC OF THE NIGHTではファントムの歌詞の大部分が「命令形」になっているのですが、あれはクリスティーヌに対して催眠術をかけるように、説得し、誘惑し、自分の闇の世界に引き込もうとしている場面です。

そこを自分のスケートに重ねて、羽生選手が審査員を、観客を、自分のスケートの世界に誘っているように見えるのです。しかも歌詞が見事にそれを手伝っている。


彼はあの場面でかすかに笑顔を見せています。

私はあれをきっとシェイリーンがアドバイスしたんだろうな、と思っています。いずれにしても、ものすごく効果的な演出ではないでしょうか。


ファントムを演じているのではなくて、なり切っている。


このプログラムでは羽生選手が文字通り、フリーに滑っているように思えます。



疲労困憊であるという状況の中でこのように危なげない勝ち方をしてしまう羽生選手。私は今シーズン序盤の大きな収穫の一つは、彼が遠距離コーチングでもこれだけの成果を収められたことだったのではないかと、密かに考えています。

10月半ばからトロントには戻れず、ブライアンからのメモとメールだけを頼りに、一人で練習を組み立てられる。そして自分の動画を見ながらジャンプのミスを修正できる。

これが自信となって今後、生きて来るのではないかと思います。遠距離の移動は、何度も言いますが、本当に体力を消耗させるものです。CMやイベントに割かれる時間がどんどん多くなる中、必要とあればコーチに頼らずに練習できる、というのは絶対に有効なスキルになってくるはずです。




羽生選手に関してはまあ、とりあえずここまで。





*宇野選手、小塚選手、無良選手、そして町田選手について思うこと



ジュニアGPFで宇野選手の演技を見た時、姿勢が美しいこと、腕の動きが優雅であること、そして表情がカリスマティックであることに驚かされました。前々からジュニアにしては表現力がある選手だとは思っていましたが、これまた早送り再生のような成長で一気に開花しましたね。末恐ろしい選手です。こういう、他の国にもあまりいないようなタイプのスケーターが出てきてくれて、本当に嬉しいです。


小塚選手、スケートカナダでお会いしました。その時、ベヴァリー・スミスさんが「私はコヅカ君の滑りが大好きなの」と言ってましたが、実はカートさんも再三、彼の事を絶賛しています。あの滑りの上手さはもしかすると玄人にしか分らないのかも知れない、と言いつつ、いつか調子を取り戻してくれることを期待していました。スケートカナダで残念な結果に終わり、青ざめた顔で引き揚げて行く姿を思い出し、今大会のフリーが終わった瞬間に喜びを爆発させている小塚選手を見て、胸が詰まりました。佐藤コーチもどんなにか、嬉しかったことでしょう。本当におめでとうございました。


対して無良選手。スケートカナダでは最高の滑りを見せて、感涙を流した彼が、今度はミスをして5位に終わってしまいました。グランプリ大会で優勝するレベルの選手が、自国の代表になるのにこれほど苦労するだなんて、なんと熾烈な状況なのでしょうか。


そしてもう町田選手にいたっては、何と言って良いのやら。シーズン最初のスケートアメリカの演技は圧巻でした。あの頃は自信がみなぎっているように見えたのが、GPF、そして全日本選手権ではかなりギリギリのところで戦っているようで切なかったです。私は特に今シーズンの彼のSPが好きなのですが、フリーはもしかするとあまりにも過酷な構成になっているのでしょうか。それにしても先シーズンの世界選手権銀メダリストである彼に対して、メディアの扱いがあまりにも乏しすぎて驚きます。体調が悪いのか、悪いとすれば何が原因なのか、勉強との両立がしんどいのか、等々、(羽生選手に関する情報は事実無根な物も含めて異常に氾濫しているのに)一般の人間にはあまり伝わって来ません。どないやねん、この差は。


まあそんなことを考えながら過ごした二日間でした。明日はまた頑張って早起きして、宮原智子選手、そして本郷理華選手を応援します。