Time to let go (忘れる時が来た):世界選手権のエキジビション感想 | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

2014年の世界選手権のエキジビションが生中継で放送されたのはトロント時間の3月28日午前2時でした。私は録画しておいたものを日曜日の朝に見るまで、結弦くんがどんな演目を滑ったのかは知ろうとしませんでした。

羽生ファンのブログで、前日のスモールメダル・セレモニーで一般ファンからの質問に答える結弦くんの動画を見ました。非常に洞察力のある一人の女性から「もしかして(EXの演目は)『ニースのロミオ』じゃないですか?」と聞かれ、さんざん答えに苦悩する結弦くんが写りました。

二年前のニースのロミオは自分の中でも伝説になっている、もう一度やろうと思ってもできない、でももしも演じることがあったら、違うものとして受け止めてもらいたい

といったようなことを彼は言ってましたね。

なので実際、ガラが始まる時に出演選手が並び、彼が懐かしい2年前のロミオの衣装を着ているのを見た時、

「なーんだ、やっぱりそう来るかあ」


と思い、そう驚きはしませんでした。

ガラが進行し、いよいよ結弦くんの出番。私はさすがにドキドキして、一体どんな滑りになるのだろうかと待ちました。

そして演技が始まったのですが、見ている内に何だか複雑な気持ちになってきました。

その気持ちの正体がはっきりしないまま、「ロミオ」は終わり、「パリの散歩道」のアンコールが始まる。

ここでは

「衣装が違うんだから、ベルト上げる振り付けをそのままやっても、ベルトないんだぞー」


などと独り言ちたりして、それでもけっこう楽しんで観ることが出来ました。で、ロミオに関してはまだモヤモヤ…

録画を見終り、早速、日本の友達とスカイプで感想を交わしました。

「何かさー、結弦くん、疲れてたよね」

(あのリンクの中央に立った時の彼の顔は、私が息子たちに「あ、あんた熱あるわ」って指摘する時の表情でした。まぶたが落ち窪んで、目が座っているような…しんどそうなのに、一生懸命ガラで滑る彼が痛々しくて、イマイチ感情移入できなかったのかなー、と思ったわけです。)


「自分でもさー、もしもまたニースのロミオをやるとしたら、違うものだとして受け止めてほしい、って言ってたけど、それだったらいっそのこと、衣装の色を変えるとか、なんか新しいことしたら良かったかもー」

(滑りは格段上手くなっているけど、二年前の初々しさはなくなっているから違和感があったのかな、という気がしてたんですね。)

「最後に『終わった』って言ってたよね。長いシーズンだったからね」

などと勝手な事を言い合います。

さて、それから五日が経ったわけですが、今日、改めて録画を見直してみました。そして比較のため、2012年3月のニースではなく、2011年12月のケベック市で開催されたGPFのCBC放送の動画を見ました。

この時のフリーは「ニースの奇跡」を予感させるものでしたね。演技が終わった時、例の「アッチョンブリケ」の表情を見せたのもこの時でした。


本当にまだ幼い16歳の少年。でも最後のポーズを決めた時、カートさんが何て叫んだか皆さん、ご存知ですか?


"The future!"
(スケート界の)「未来だ!」

そしてそれから2年余りが経ち、カートさんの予測が正しかったことが証明されました。

(ところでこうやって2011-2012年のシーズンのCBC動画を見ていて、数々のカートさんたちの解説が非常に先見の明に満ちていて、面白いことに改めて感心しました。またいつか機会があれば聞き取ってご紹介したいです)

ちょっと話が逸れましたが、私はこのケベックの「ロミオ」を見て、ようやく埼玉での結弦くんの演じたロミオの意味(意義?)を理解しました。

単に昔を懐かしむためだとか、「あの『ニースの奇跡』をもう一度」と願うファンにサービスとして再現を試みたのではない。古いプログラムを昔よりもどんなに上手に滑れるようになったのか、自分の成長ぶりを誇示するためでもなかった。

あえて同じ振り付けを全く同じ衣装で滑ることによって違和感を生じさせ、結弦くんがもう金輪際、過去を振り返ることはない、と言ってるように思いました。

思えば昨年10月のスケートカナダで彼が「悲愴」を演じた時に、似たような違和感はすでにありました。

ファンはあのプログラムを結弦くんがエキジビションに選んだのは思惑があってのことだ、と推測していましたが、演技を終えて戻ってきた結弦くんから聞いた言葉やガラの練習の時の様子はは必ずしもそうではない事を物語っていました。(その時の様子はここでどうぞ

しかしその時の真相はどうであれ、その後の大会ではことごとく、結弦くんのエキシビションは過去のプログラムのリピートが続きました。皆が何らかのパターン、何らかの意図を見出したとしても当然だったでしょう。これは誰が考えたかに関わらず、見事な演出でした。

そしてその最たるものが世界選手権のEXのロミオ。

「終わった」

と、結弦くんが最後に呟いたのだとしたら、それはこの大会でひとつの区切りがついた、という意味だったのでしょうか。

It's time to let go.
もう忘れる時が来た。


もうあの二年前の自分はいない、忘れる時が来た、ここからがまた新しいスタートなのだと言いたかったのでしょうか。

「違います。単にしんどいシーズンが終わった、っていうだけの意味でした」


とあのいたずらな顔で言われるかも知れませんが、私はそう受け止めることにします。

いずれにしても君はもう十分、「恩返し」はしたのだから、これからのスケート人生は自分の自己実現のために使ってください。きっと君のファンはそれを見守って行きたいと思っている人が大多数です。


以上、勝手な感想(妄想?)の記事でした。