今日は2025年のTIFF(トロント国際映画祭)の記事です。
今年でこの映画祭で通訳を務めるのも12回目になり、スケート大会でのボランティアや通訳をやっている年数とあまり変わらないことになります。
毎年、8月初旬になり「そろそろ出品される日本映画のラインナップが通知されてくるだろうな」と思っていると、長い付き合いになる通訳コーディネイターのパティさんからメールが来て、スケジュールの調整が始まります。
ただ、この段階ではまだどの映画が通訳を必要とするのかがとてもあやふやなので、コーディネイターも通訳もスケジュールの組み立てに苦労します。大体の自分の空いている日や時間帯を知らせておいて、そこからは開幕ギリギリになるまで最終的な担当日や担当上映会が確定することがありません。
急に監督が来れる日数が減った、あるいは増えた。俳優が来るのか来ないのか。日本から通訳を連れて来るかも知れない、などの要素が複雑に絡み合って、極端な場合は当日まで本当に何が起こるのか分からないこともあります。
まあでもそれも含めて映画祭の醍醐味、くらいのスタンスでいることが大事なんですよね。
実は12年前にTIFFに初めて参加した頃は、通訳はほぼボランティア扱いでした。映画祭のチケットがタダでもらえたり、IDを持っていたらプレス用の上映会にも潜入できたりしたので、そんな特典を目当てに応募する人が多かったのです。
でもそうなると当然ですが、集まって来る通訳のスキルもバラバラで、上映会によっては(確かフランス語話者だったと思いますが)監督さんが「こんなんだった自分の英語の方がマシ」という感じで通訳をさしおいて自分で喋り出すこともありました。
さすがにそれではマズイ、ということで、コーディネイターたちが映画祭側に交渉して通訳のフィーを上げてもらって、その代わり通訳要員を厳選していったのでした。その甲斐あって最近ではコーディネイターの信頼を得たメンバーが揃って来ていると聞きます。
私は年齢的にも体力的にもそろそろリタイアした方が良いだろうな、と思っているので、頼りになる和英通訳の人を探していたところ、非常に有能なカナダ人の女性が今年から本格的に参加してくれることになったのでとても喜んでいます。
ジョスリンさんについてはこのブログでも何度かご紹介したことがあるかも知れませんが、今年のTIFFに行かれた方々は彼女の素晴らしい通訳スキルを目の当たりにされたことでしょう。
ジョスリン・アレンさんは数多くの漫画やアニメ、そして小説を英訳されていて、私などは彼女の能力とアウトプットの豊富さにはいつも驚かされます。
中でも森絵都さんの『カラフル』の英語版の翻訳者として知られていると思います。
今後はジョスリンさんが映画祭でも活躍してくれることを期待しています。
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さて、私は今年1)石川慶監督の『遠い山なみの光』の上映会二回の通訳と、2)堀貴英監督の『JUNK WORLD』のプレス対応を任されました。
1)英語のタイトルが「A Pale View of Hills」という石川監督の映画は、広瀬すず、二階堂ふみ、山田羊、松下洸平、三浦友和の豪華キャストを備えた話題作です。
原作はノーベル賞作家カズオ・イシグロが25歳の時に書いた(同名の)デビュー小説、そのイシグロ氏をエグゼクティブ・プロデューサーに迎えての制作となっているところにも注目です。
映画祭で通訳をする場合、担当する映画についてできるだけ色んな資料を集めるのですが、インタビュー記事はもちろん、過去の舞台挨拶や記者会見などの動画も参考になります。
それらを読んだり観たりしていると、この映画を作るにあたって監督さんがどういった点に特に気を付けているのか、どういったメッセージを伝えようとしたのか、が徐々に明確になって来るのが面白い。
そして俳優さんたちの役作りにおける試みや思い入れを知ることも大事です。
今回は石川監督が英語が堪能でいらっしゃるのに私が通訳に任命されたということで、俳優さんもトロントを訪れるのではないかと推測されました。確たる情報はなかなか入ってこなかったのですが、一応、準備が必要だと思いました。
なお、これまで私が担当した日本映画で俳優さんが来られたのは実は非常に少ないんですよね。多分『怒り』の渡辺謙さんと宮崎あおいさん、
『あん』の樹木希林さん、だけじゃなかったかと思います。
あ、コロナ禍ではオンラインで役所広司さんも登場されましたが。
カンヌ映画祭の場合はあの有名なレッドカーペットやフォトコールを俳優さん達も楽しみに行かれるんでしょうけど、トロントにはなかなか来てくださらない。
でも今年第50回を迎えるTIFFは北米最大の映画祭ということで、アカデミー賞の前哨戦とも言われているだけにハリウッド映画のキャストはかなりの確率で顔を見せます。今後は日本の俳優さんももっともっと、大勢来てほしいなあ、と思っています。
さあそんな中、なんと9月11日の一回目の上映会当日に主催者側から
September 11: Kei Ishikawa (Director)
September 12: Kei Ishikawa (Director), Suzu Hirose (Cast) and Kohei Matsushita (Cast) in attendance
という情報が流れてきました。ほらーやっぱり。
で、最初の上映会では監督が質疑応答中おそらく全て英語で対応されるだろうけど、観客からの質問が分かりにくかった場合のサポートを私が仰せつかったのでした。
今日は「遠い山なみの光」でした。写真は石川慶監督も来場のQ&A。原作を読んだ観客も多かったようで、熱心な質問が出ていました。#トロント国際映画祭 pic.twitter.com/hwUEP3paFB
— Osanpo News Canada! トロント国際映画祭中! (@osanponewsca) September 12, 2025
石川監督、素晴らしい英語の語彙力を駆使されて、見事な観客とのやり取りでした!
そして二度目の上映会には広瀬すずさんと松下洸平さんもいらっしゃいました!いや、やはりお二人の放つオーラは凄くて、控室に入っていらした時にそこだけが輝いて見えました。
これは大袈裟じゃなくて、以前も渡辺謙さんが(しかも小雨の屋外のロケで)歩いていらした時、彼の周りだけがほのかに輝く「膜」みたいなものに包まれていたのを私は見たんです!!
オーラって本当にあるんだ!と確信した瞬間でした。
あ、脱線しましたが、上映会場への移動動線は一般のお客さんも行き交う場所を通るので、セキュリティの男性が三人と主催者側のスタッフさんが帯同してエスコートしてくれました。
上映前の挨拶では司会のアニタ・リーさんと石川監督、そしてキャストのお二人のみが登場。
映画『#遠い山なみの光』
— 映画『遠い山なみの光』 (@apaleview2025) September 13, 2025
┄┄ in #トロント国際映画祭 🇨🇦
✦・公式上映Q&Aフォトコール・✦
【スペシャル・プレゼンテーション部門】の
公式上映に登壇した #石川慶 監督と
#広瀬すず さん #松下洸平 さん
上映後のQ&Aでは
原作を読んだ方々から熱い質問が飛び交い… pic.twitter.com/rRgkwJTGr2
皆さん、堂々と英語でご挨拶をされていました!この上映会に当たったお客さんはめちゃくちゃラッキーだったと思います!
そして上映後の質疑応答では私も参加させていただきました。
Suzu Hirose and Kôhei Matsushita discuss how they stepped into their respective roles for director Kei Ishikawa’s #APaleViewofHills while at #TIFF. pic.twitter.com/P6cezmjMlf
— Screen Rant (@screenrant) September 12, 2025
ああ、私の母も大ファンだという広瀬すずさんの隣に立つことが出来ただなんて光栄。
そしてこの写真は松下さんが実に面白いコメントをしていた場面だと思います。
石川監督が非常に綿密で丁寧な演出をされる、ということを話す中で、
「例えば室内の場面を撮る時に、部屋の窓の外に見えているのが『長崎の風景』である設定なんですけど、実際はグリーンバックだったんですよね』
と説明して、でも監督はそれがあくまで長崎の風景であるかのように演じることを求めて、そのための演出の指示を細かくされていた、という話で笑いを誘っていらっしゃいました。
その他にも役作りのためにどのような準備をしたのか、といった質問が出ていましたが、お二人ともとても良いコメントをされていました。私の方でも事前にインタビュー記事を幾つか読んで下調べをしておいて良かったな、と思ったことでした。
なお、プチネタですが、広瀬さんのお召し物はルイ・ヴィトンのドレスとコート、そして松下さんのタキシードはよく見ると光沢のある黒い生地に、さらにちょっとキラキラが入ったものでした。
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そしてもう一つ、関わった映画が「JUNK WORLD」というストップモーション・アニメーションの作品でした。
綿密な絵コンテと、3Dプリンターを駆使する他はほぼ「手作り」の人形やセットで撮っている、というとんでもなく時間の掛かる作業を経て出来上がった映画です。
前作の「JUNK HEAD」から4年後に公開された三部作の二作目、海外のファンもめちゃくちゃ多いカルト的作品なんですね。
私は上映会を担当するのではなく、堀監督を取材するために集まった10社ほどの媒体の通訳をさせていただきました。
インタビー色々。 pic.twitter.com/Df4pCTwBXx
— 堀 貴秀 Takahide Hori (@YAMIKEN123) September 13, 2025
インタビュアーの皆さん、堀監督に会えるだけでコーフンされていて、見ているだけで楽しくなりました。
前日の上映会がどれだけ盛り上がったのかが容易に伝わって来て、監督もとても満足そうなご様子でした。
来年はトロントで開催されるアニメーション映画フェスティバルに講演者として招聘したい、というお話も出ていましたよ。ぜひまたいらしてください。
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というわけであっという間に今年のトロント国際映画祭も過ぎてしまいましたが、これくらいのスケジュールだったら来年も行けそうです。
以上、2025年トロント国際映画祭のレポートでした。