『地獄に堕ちるわよ』(2026)Netflixシリーズ全9話
六星占術で有名な占い師となった細木数子の人生を描いたフィクションドラマ。
監督 瀧本智行(『脳男』『去年の冬、きみと別れ』他)、大庭功睦(おおばのりちか)
脚本 真中もなか
戸田恵梨香、伊藤沙莉、三浦透子、中島歩、生田斗真、富田靖子、笠松将、細川岳、市川実和子、杉本哲太、細田善彦、高橋和也、余貴美子、石橋蓮司、奥野瑛太、田村健太郎、金澤美穂、周本絵梨香、永岡佑、中村優子、ヒコロヒー、森優作、レイザーラモンHG、他。
テレビや雑誌などメディアで大活躍の占い師細木数子(戸田恵梨香)によからぬ噂が出始めようとしていた頃、小説家魚澄美乃里(伊藤沙莉)は細木数子の半生を小説化する依頼を出版社の書籍編集部川谷(細田善彦)から受ける。一冊しか小説を出してなく、それ以降燻っていた魚澄だが、細木におおいに期待されて取材が始まる。
戦後の東京、焼け野原の中、母親(富田靖子)と数子、姉(周本絵梨香)、妹(金澤美穂)、弟(細川岳)とで荒屋でどうにか店を開き食い扶持を得る。そうこうして高校に通うようになった数子だが、いつまでたっても貧乏から抜け出せない。そこで、年齢を偽りキャバレーのホステスになる。もちろん高校は辞める。しかしそこのオーナー落合(奥野瑛太)にだまされ傷つき、いっときは自死も考えるが、一命を得て一念発起、ちょうど会社を辞めた姉をつかい、今で言うファストフード的な店を始める。順調に売り上げを伸ばした頃、母親の経営するおでん屋に通う投資家中園(高橋和也)に出資を懇願し、自身でクラブを開店、暇を持て余してる弟をマネージャーとして入れる。そして更に銀座へと乗り出す。その時、富豪の御曹司三田(田村健太郎)にみそめられ、実家を継ぐことになった三田について田舎へひっこむものの、義母(余貴美子)との関係と夫の不甲斐なさに嫌気がさして1週間で東京へまい戻る。
計3店舗となった銀座のクラブは盛況だが、ここで不動産屋社長須藤(中島歩)と出会い、好意を寄せる。億という桁違いの出資でナイトクラブの出店に踏み出すが、実は須藤は詐欺師で、その裏にいた滝口組の組長滝口宗次郎(杉本哲太)の仕組んだ罠だった。数子はもちろん、新しく開いたクラブも滝口組の傘下におかれる。そこへ敵対する江戸川一家総長堀田(生田斗真)が救い手として現れる。堀田と数子は恋に落ちるが、ヤクザ稼業としての堀田は深入りはせず、一定の距離感を持つ。
栄華を極める数子だったが、島倉千代子(三浦透子)との出会いから、悪い噂がささやかれるようになる。そのへんのことを魚澄は疎遠になった弟などから真実を聞き出すべく取材を重ね始め、やがて細木数子の野心にまみれた正体が明るみになっていく…。
波瀾万丈ではあるけれど、戦後を生きた女性の成功談とすれば、細木数子ほどではないにしろ同じようにのし上がっていった女性は多かったろうと思う。それくらい、戦後の日本は稼ぐ、人生を変えるチャンスに溢れていたと思える。もちろん誰もが出来ることではないし、実はそれは現代でも同じなのでは。
良い台詞がいくつもあった。
⚫︎「悪いことは見せない、大手マスコミの黙殺は細木数子が金になるからだ」というのは、もう長いことの隠蔽体質。社会を動かして民に娯楽を提供してるというおごり。しかしそれは夢を売る者の良識で、完全否定するには当たらない。昔はその隠蔽が機能していたかもだが、今は効かない。難しいところ。
⚫︎「お金の価値は欲望の対価」「お金で欲望を埋める」
「反映の裏にはよどみ」これらはなるほどだ。
⚫︎「ホストクラブで男を買っておもちゃにする、それが男への復讐」というのは、どうかなと思ったが、寂しさが一番あらわれていて惨めな数子の台詞。切ない。
⚫︎「孤独で悲しいで“こい”、狂おしいほどの恋は孤独から生まれるの。本当の恋は滝口の檻から解き放ってくれた」堀田との恋が生涯たった一つの本当の恋だということ。
⚫︎「だまされたまま知らない方が幸せなこともあるのよ」島倉千代子が魚澄の数子の真否についての疑問に答えた台詞。
⚫︎「姉ちゃんがすごいところは目的地を決めたら絶対そこへたどりつく。そのための努力は人並み以上。」ずっとそばで姉数子を見てきた弟の台詞。そういえば、キャバレーで働き出した頃、質の高い会話が客とできず、昼間は大学に通い勉強していた。もちろんもぐり。
⚫︎「20年以上夜の世界で人間をみてきた。何を欲しているかわかる。」占い師へと転身していく数子の台詞。これは説得力がある。もともと統計学であるという認識に加え、人を見る目が養われていれば完璧ではないか。実践で得た心理学だ。
墓を買わされたおばあさん役の役者さんがものすごく良かった。他にちょい出ではあるものの、森優作がテレビ番組関係者で出てて、この役者やっぱいい。それから、キャストロールに笠松将の名前を見つけたのに、どこにいたかわからず、見進めるうちに、魚澄の元夫だと電話の声で気づく。後半にはちゃんと出ていた。
クラブ歌手として「朝日楼」(浅川マキバージョン)を歌う青山テルマも素晴らしかった。
とにかく、このドラマ、大勢の俳優が出ていて、そのほとんどを私には認識できなかったのだけど、でもそれでも素晴らしい芝居をみせてくれるわけで、有名だから人気があるからと頼るより、質に特化する大切さを知った。素晴らしいキャスティングだと思う。
前情報で細木数子に戸田恵梨香はどうなの?という悪評も見かけていたので不安だったけど、戸田恵梨香すごく良かったし、細木数子である必要もないくらいには独自のキャラクターが活きていた。
驚異的に良かったのはエンディングロールで、まず、これまでのあらゆる感情の笑い声が入る。そしてその最後にため息がひとつ入る。それから映像が入る。戦後の焼け野原で子供の自分に「あんた地獄に堕ちるわよ」と言われ、今の数子のが「地獄なんかさんざん見てきた。ちっともこわくないわ。」と応える。ラスト、欲しいものを全て手に入れた細木数子をイメージさせる笑い顔で終わるシュールさ。
また、魚澄の小説は「この先、数子の身に何が起こるのか、六星占術で占っても、答えは出ない。」で締められてる。これは占いの否定ではないか。数子は魚澄の初稿を読んで出版は認めないと言った。(中身はどう書かれているか視聴者はわからないが)この文章だけで細木数子自身の嘘がバレるからではないか。実は魚澄は、2006年に週刊誌に出る暴露記事の対抗馬として数子が設えた対策だった(という設定)。自分に良い内容でなければ出す意味がない。
最初にフィクションドラマと書いたのは、このドラマが事実であるかは私にはわからないから。ドラマの中で魚澄が数子以外の人物から話を聞くのと同じで、事実は何通りも、その話をする人によって違う。
細木数子の存在や肩書きは知っていたけど、興味なかったのでタレント細木数子もまったく知らなかった。騙されたという人もいたろうけど、ドラマの中でも感謝してる人がいたように、助けられたという人も現実には多かったのではないだろうか。人は悩みながら、何かにすがろうともがきながら、人生を歩んでいくものなんだろうから。
細木数子2021110883没。
劇伴曲は万博のとき(ザ・ピーナッツ)以外はほぼアメリカンオールディーズ、1970年代はポピュラー&トラディショナルジャズ〜ディスコポップスなど、洋楽が多かった。時代をより濃く表すためかな? とすれば、素晴らしい選曲だと思った。
★★★★★
