『波紋』(2023)
監督・脚本 荻上直子(『川っぺり、ムコリッタ』『彼らが本気で編む時は、』『バーバー吉野』他)
筒井真理子、光石研、磯村勇斗、キムラ緑子、安藤玉恵、江口のりこ、平岩紙、ムロツヨシ、津田絵理奈、柄本明、木野花、他。
水を軸に話が組み立てられていて、水から得られる恩恵を再考させられるような作品だった。生きる上で、生命を維持する上で、絶対に欠かせないものだからなお。
福島原発事故から放射線量に恐怖を抱き、過剰なまでの対策が民間でなされていた時期、東京都内に住む須藤依子(筒井真理子)の家でもまた水道水を飲まないこと、雨に濡れないよう気をつけること、などを家族と共有していた。家事一切はもちろん床に伏す義父の面倒をも一手に引き受けていた依子のもとからある日、夫の須藤修(光石研)が、庭に元気に咲く放射線がどうしたとばかりの色とりどりの花々の水やりの途中で姿を消す。
息子の拓哉(磯村勇斗)と二人暮らしになるが、やがて拓哉は九州の大学へ進みそのまま現地で就職し、義父も施設を経て亡くなる…という数年の間に、依子はスーパーのパートをしながら「緑命会」という水を崇める信仰宗教にはまっていった。しかしそれはそれで、庭に枯山水を作り心穏やかに一人の生活を満喫していたのだった。
そんなある日、突然修が戻って来る。癌を患っているという。遺産もあるはずだとその治療費を手助けして欲しいと戻って来たのだった。すでに心が離れてる依子だったが、緑命会の徳積みや、スーパーの清掃員の水木(木野花)との歯に衣着せぬおしゃべりに力をもらいながら修との生活が再び始まる。
しかし、スーパーではクレームの激しい客(柄本明)への対応、隣家の渡辺(安藤玉恵)とはそりが合わない、拓哉も結婚を決めたすでに妊娠もしている聾唖者の恋人川上珠美(津田絵理奈)を紹介するため連れ帰ったりと、嫌なことが日常にたくさん起こる。それらに翻弄され、生活のサイクルが狂っていき、鬱憤がたまっていく…。
結局、修は亡くなり、拓哉は九州で結婚生活を送り、依子は緑命会が何も救ってくれてないことに気づく。
というか、誰にでも起こり得る人とのすれ違い、誤った選択、人生の一片を見せられた。その中に水木の人生が物悲しく描かれてる。時に面白おかしく、時にアイロニカルに見えて、東日本大震災から居住空間の時が止まっているのだ。知り得ない他人の生き方、生活をのぞき見る感じがなかなかにヒリヒリした。
緑命会の教祖にキムラ緑子、信者の中に江口のりこ、平岩紙。ぴったり。
★★★★
配給 ショウゲート