『CODA あいのうた』(2021)
原作は2014年フランス映画の『エール!』で、本作はリメイク版となる。制作はカナダ、フランス、アメリカの共同となる。とのこと。
監督・脚本 シアン・ヘダー
聾唖者の父フランク・ロッシ(トロイ・コッツァー)、母ジャッキー・ロッシ(マーリー・マトリン)のもとに生まれ、兄レオ(ダニエル・デュラント)も聾唖者で、唯一ルビー(エミリア・ジョーンズ)だけが聴者のロッシ家。漁で生計を立てている一家は、聾唖者だから馬鹿にされるし安く買い叩かれるため、ルビーの助けがないと仕事にならない。そんなルビーは、音楽が好きで歌うことが好き。高校では、密かに想いを寄せているマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱部に入った。
けれど、ルビーは子供の頃喋り方が変だと言われたことがトラウマで、人前で歌うことができない。そんなルビーの才能に顧問のベルナルド・ヴィラロボス通称V先生(エウヘニオ・デルベス)は早くに気づき、発表会でマイルズとデュエットを組ませるなど独自の手法で指導していき、ついにはバークレー大学音楽科への進学をすすめる。
マイルズもバークレーを目指してV先生のもと特別レッスンを受けており、ルビーも奨学金を受けて進むことを決めたが、母親は反対する。ちょうど仲買人の搾取に我慢ならず直取引の新事業を始めたばかりのロッシ家には聴者であるルビーの力がどうしても必要だった。兄レオだけはルビーの意思を尊重しようとするが、実際自分らだけでは漁をすることも危険だと思い知るだけだった。ルビーもまた、自分が犠牲にならなくては家族は暮らしていけないんだと、家族を取るか夢を取るか、葛藤する。
しかし歌に向き合うルビーの真摯な姿に家族は背中を押すことを選ぶ…。
良かった。
ルビーの歌は聴こえないのに、周りの反応で娘の才能を知る父母、兄レオの姿は切ないながらも、なんやかやどうにか伝わることってあるんだなと思った。聾唖者がゆえの同業者間の意地悪だったり、ルビーが学校で受ける嘲笑だったりと理不尽なことがあるのだが、結局は手を差し伸べ今を共有する、互いの歩み寄りが大切なんだとわかりやすく描かれていて、人間味に心が暖かくなった。
改めて「ああ、そうか」と思ったのは、聾唖者の中で育つと言葉や声がおかしくなるということ、自分の感情を手話なら簡単に表現できるのに言葉にすることができないということ、だった。自分だけが聞こえる世界、聞こえない世界には、お互いに想像するに限界がある、ということなんだろうな。
それと、家族間で下世話な話に花が咲くのも独特かもしれない。父母は一般的には卑猥な話を笑いに変える。そんな家族をルビーは恥ずかしがるが、マイルズは羨ましいと言っていた。音声と手話とでは同じ話題でも伝わる印象が違うように思った。前から感じていたが、手話と口語(言葉、言語)は情報量が違うように思う。聾唖者が聴者より表情が豊かなのは情報を足すためなのかもしれない。
もともと欧米って性にあけすけな気がするし(少なくとも日本人よりは)、この作品でもルビーの友達のガーティー(エイミー・フォーサイス)もセックスの話はがりして、レオとの交際も体から始まる。また、欧米が子供の頃から寝室が別なのも、成長を促し、本能や生理現象を素直に受け入れやすいのかも。その上でロッシ家では、外の人間、聴者との意思疎通が難しいから、家では何でも言い合い共有し合い家族の絆が強くなり、明るい家庭=隠し事もない家庭が出来上がったのかも。
V先生が宮本亞門に似てた。見た目だけでなくキャラも。
★★★★(★)