『月子』(2017)
監督・脚本 越川道夫(『トルソ』『海炭市叙景』『かぞくのくに』他)
三浦透子、井之脇海、奥野瑛太、信太昌之、鈴木晋介、杉山ひこひこ、大地泰仁、信川清順、吉岡陸雄、内田周作、磯部泰宏、岡田陽恵、川瀬陽太、他。
まともに仕事もしないアル中ぎみの父親(鈴木晋介)が自殺した。タイチ(井之脇海)の唯一の肉親だった。タイチも仕事は長続きせず、今勤めてる所もサボりがちで同僚(奥野瑛太)が迎えに来たその時、死んだ父親がそのままになっているのを発見される。タイチは殺人を疑われ、仕事も追われた。居心地の悪くなったタイチは住居を処分し、父親の遺骨を持って町を出ようと思い立つ。その際、一度、火葬場からの帰りに出会った、養護施設から逃げ出していた知的障害の月子(三浦透子)と遭遇する。初めて会った時は無理矢理施設に連れ戻されていた。
月子の首筋の傷から、虐待を受けてると知ったタイチは、施設に戻すことをやめ、一緒に、月子が会いたいと願う母親を探す旅に出る。それは月子の「海がある」という記憶と、途中で見つけた月子の名札にある住所だけが頼りの旅…。
ロードムービー。
一度目に月子と出会った時、タイチは橋の欄干に座り父親の骨壷を捨てようとしていた。そのまま自分も落ちようとしていたのか…は定かではないけど、その並びで月子は鳥を追って欄干に乗り出していた。タイチは遺骨を捨てられないまま、月子の行動を抑えた。自分を投影したのかもしれないし、単に良心かもしれないし、何か繋がりのようなものを感じたのかもしれない。
肉親が亡くなってもどうすることも出来ず放置して一緒にいるという話が昨今聞かれるが、タイチもそれで、社会との隔絶、教育の穴だろうな。2割の下層民だ。およそこうしてブログなど読み書きしてる層には縁のない存在。それが作品全編を通して感じられる。
また、障害者に対する一般的な認知と対応が胸に刺さるほどリアル。ということは身に覚えがあるわけだ。おおかたの人はそうだろう。
タイチのぞんざいに扱う姿は施設員とも月子の母親とも変わらない。都度、健常者の苛立ちがよく出てるし理解できるものだ。
月子の体には沢山の虐待の痕跡がある。休むために入ったラブホテルでは、月子はタイチの手を取り胸にあてる。そういう経験をしてきたということだ。体を求めない、宿泊費を出してくれる、月子は母親からもらった大切な指輪をタイチにあげる。対価交換というより、月子に初めて生まれた情だろう。
渋谷の雑踏を見た月子が言う台詞がいい。
「みんな迷子ですよ」
でもタイチは「みんな家に帰るんだよ」と言う。
二人の立場が描かれている。どうしたらいいか、どう生きたらいいか、とりあえず今は母親の所に行きたいけど自力では行けない、何もわからない月子と、帰る所が欲しいタイチ、月子にも帰る所を示したいタイチ、のように思った。
月子の母親は一度も面会に来てないことから、捨てられたというのが周りの認識。月子も母親は恋しいけど、一緒に暮らすことはもちろん会うことさえ叶わないかとぼんやり思っていたかもしれない。それでも辛い施設より母親のもとへ行きたいんだろう。けれど、なぜ母親が来れなかったのか、住所の地へ着いてわかる。月子も理解しただろう。(でも、真実はわからない)
最後海へ行く。遊んだ海だ。楽しそうに入っていく月子は初めて「タイチ」と呼ぶ。やっと心が通じ合ったのかと胸が熱くなった。
渋谷に戻ったふたりは手を繋いでる。でも、おそらくまた喧嘩をし、繋いだ手を離すだろう。そうしながらも二人に芽生えた情で繋がり、しばらくは共に歩んでいくのかもしれないし、月子は施設にまた戻ることになるのかもしれない。
とても良かった。
井之脇海の演技が素晴らしかった。三浦透子も。
★★★★★
配給 スローラーナー、フルモテルモ