『花と雨』(2020)
原案はSEEDAのアルバムからで、SEEDAの自伝的エピソードが織り込まれてるとのこと。
監督 土屋貴史
脚本 堀江貴大、土屋貴史
笠松将、大西礼芳(おおにしあやか)、高岡蒼佑、松尾貴史、つみきみほ、他。
主人公吉田が1982年生まれという設定なので、時代背景は2000年くらいから。ガラケーを使ってるのが懐かしい。映像が独特で雰囲気がある。色でいうと青。コントラストを強くして陰影で形を見せる感じ。
親の仕事の都合で幼少期から思春期までをロンドンで過ごした吉田。ロンドンでは日本人であることで人種差別を受け、日本に帰れば帰国子女として妬みからの差別を受ける。しかし吉田本人も、日本のヒップホップを蔑視していた。ここに帰国子女ならではの憂悶があるよう。
高校時代はいじめにもあい、喧嘩もし、ヒップホップが好きな吉田はちょうどラップ仲間とも出会いドロップアウト。それから大検を取り大学へ進むが、やってることは当時の音楽仲間とラップをする他はドラッグの売買。とうとう意見の相違からそのラップ仲間とも疎遠になり、頼みの綱であった音楽業界人とのツテもあっさり反故にされ、吉田自身も大麻を栽培して売る毎日。
家にはあまり戻らなかったが、帰れば姉とは普通に会話する。姉もまた日本社会に馴染めない日々を過ごしていたが、そのことに吉田は気づけていなかったし、姉も弟にそこまで頼れずにいた。不器用だし自分のことでいっぱいいっぱいな年頃だ。
そして吉田が大麻で捕まってしばらくぶりに家に帰ってきた夜半、姉が自殺する。
姉を悼み、その思いをラップにする。
ロンドンでも東京でも何者にもなれない焦燥感と鬱屈した苛立ちがよく伝わってくる。若者にありがちな独りよがりな社会との隔絶を真正面から描いた作品。甘えであるけれども、強弱こそあれ誰にもあろう通過点。良かった。
何者かであるはずだった自分が何者でもなかった、しかしその現実にまだ抗って希望を探す吉田の若さと苦悩が眩しいよ、おばさんは。
つみきみほの母親役がすっとぼけたおおらかさがあって良かった。
★★★★(★)
吉田役の笠松将、今まで見てきた作品の中にも出てたようだけど認識できてなかった。綾野剛と菅田将暉を合わせたような雰囲気の役者さん。役柄上か? でも主演、良かった。