『カミュなんて知らない』(2006)
監督脚本 柳町光男
柏原収史、吉川ひなの、前田愛、中泉英雄、本田博太郎、田口トモロヲ、玉山鉄二、黒木メイサ、金井勇太、山谷初男、他。
冒頭長回しワンカットのような撮り方で、大学構内を歩く主な登場人物を映し、関係図をざっと見せる。
映像ワークショップで「タイクツな殺人者」という映画を撮ることになった。原作は森下香枝「退屈な殺人者」で、実際2000年に起きた男子高校生による老婆殺人事件を書いた実在の書籍。それを学生が映画化する設定。なぜ、少年は老婆を殺したのか。何を思って殺したのか。「ただ人を殺してみたかった」と言った少年の心の内を探りながら。
監督をつとめる松川はモテる。
その松川にぞっこんのメンヘラ女ユカリは徐々に精神を壊していく。
助監督のキヨコは3人の男の間で揺れる。
急きょ主役に抜擢された昔レイプにあったことのある池田はジェンダーレスの傾向がある。
スクリプターのあやも天然系で尻が軽い。
ワークショップ顧問の中條先生は元映画監督で2年前に妻を亡くしたばかりだが、学内でダンスをする女学生レイに心惹かれる。
レイはかなりの野心家だが礼に欠ける。
そのレイと婚姻関係にあるという35歳の学生大山は嗅覚障害。
その他、映画オタクの上村、吉崎、極端に内気な中根、時代に即したノリのある撮影係の本杉とか、これら様々なメンバーによる、月曜日からクランクインの土曜日までの群像劇だが、そのクランクインの前日の金曜日に事件が起きる。そして週明け火曜日がクランクインになるのだが…。
カミュはもちろんムルソー、ユゴー、溝口健二だのゴダールだのヴィスコンティだの、書物や映画を知らないと面白さが半減する。例えば、中條先生は学生からベニスとかアッシェンバッハと呼ばれているし、行動がアッシェンバッハなのだ。「ベニスに死す」のオマージュだろうとすぐ気づく。松川に執拗に絡むユカリは「アデルの恋の物語」のアデルだと劇中で言われてて、そのような行動を起こす。早々に種明かしするのは「長回しワンカット」で、学内を映画の話をしながら歩く吉崎と上村の会話で出されてる。伏線もたっぷりあり、最後は現実か映画か、いや、この作品そのものが映画だった…なんて頭がこんがらがる中、序盤の「保険金かけときました」という吉崎の台詞で判断がつく。粋だ。
構成がきれいな作品だった。
面白かった。
★★★★
大学が立教を使っていて全編ほぼ学内。最後のロケ地以外は池袋。