【今日の1冊】香山リカ『貧乏クジ世代』 | ことのは徒然

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本日ご紹介するのは

香山リカ『貧乏クジ世代』

 

2006年のジャーナリスティックな本なので、正直、内容的には古さを感じます。専門性のある著書というよりは、ビジネス書に近い感じ。動き続ける時代の最も新しい「今」を、どう新しく切り取るかが勝負、みたいな印象です。なので、15年以上経ったいま読むと、うわ、なつかしいなぁ、という印象が強いです。

 

当時、売れに売れてましたものね。香山リカさん。テレビをつければいつも出てる印象でしたし。賛否両論あったようなイメージが残ってますが、改めてこの書籍を見直してみて、この方自身が、とてもジャーナリスティックな人だったんだな、と感じます。とにかく、表面的な現象をわかりやすく分割&整理して、キャッチーな言葉で表現するのがうまい。

この本では主に1970年代生まれの世代を扱っているのですが、第二次ベビーブームで競争相手が多く、バブルの記憶はあるのに遅れてきたので恩恵は受けられず、おまけに就職氷河期に直面させられて、「恵まれない」という認識の強い世代、ということで、「貧乏クジ世代」と名付けてます。切り取り方が少々乱暴かもしれないけど、でもわかりやすいですよね。

 

目次を見てみると、そのテクニックが顕著で、

例えば、第一次ベビーブーム世代と第二次ベビーブーム世代の対比。第一次の団塊の世代は、なんとなく「若い心を残している」「むかしもいまも成熟しきれないおとな」という印象が強く、一方、第二次の貧乏くじ世代は、恵まれない時代に生まれ育ったせいで早いうちに諦観が身についているとしたうえで、「”カラダだけの三十歳”と”ココロは三十歳”――団塊の世代と団塊ジュニア」と小見出しを立てる。

団塊の世代=「成熟しきれないおとな」というイメージがどのくらい正解であるのかについては根拠が薄いので、そこに反論が集まりそうだけど、でもそこがクリアされれば、わかりやすい対比で、表現も印象的です。

そんな感じで

「『ケータイ以前』と『ケータイ以後』」とか

「自分を見つめるか見つめないか、彼らはなぜ二極化するのか?」とか

なんというか、読んでみたいと思わせる見出しになってます。これは本当に見習いたい。

 

この、根拠が薄くても強引に「こういうものですよね」という前置きをして話し始めるあたりが、精神科医という専門職の立場としてはちょっと異色だったでしょうから、まあ攻撃されやすかったのかな、とか、今さら思ったりしました。でも、そういう立場にありながら、あえて大胆に現象を切り刻めるのは、これもまた才能ですよね。

 

最近、あまり見ないなぁ、と思って(私がテレビを見なくなったというのもありますけど)、ネットで検索したら、北海道で臨床医をなさっているみたいですね。執筆業はやめようかと思ったとあるので、そういう覚悟で現場にお戻りになられたんだと思います。結局、筆を折るには至らず、執筆もされているようですね。現場での活動がどのように文筆活動に影響しているのか、興味が湧くところではあります。

 

著者の話に始終してしまいましたが、この本は、冒頭でも述べた通り、内容的には「古い」という印象が強いです。新しいものほど早く古くなる、というのを地で行ってる感じ。ですが、2000年代を生きていた私にはなつかしく、また当時を思い起こすことで今を見直すきっかけにもなるなぁ、という印象を持ちました。なにしろ、あの時代があっての今ですからね。ちゃんと思い出すことで今がよりよく見えるところもあります。たまには、こういう読書もおもしろいかもしれません。