本日オススメするのは、
工藤直子の『てつがくのライオン』
出会いはまだ中学生の頃だったと思います。
母親が「子どもの本の会」という会に入っていて、よく講演会に連れて行かれました。当時は「めんどくさいなぁ」と思いながら仕方なくついていたのですが、谷川俊太郎さんと今江祥智さんの対談だったり、まついのりこさんの絵本づくりのワークショップだったり、今思うとかなり貴重な体験をさせてもらってました。
「てつがくのライオン」に出会ったのは、今江祥智さんの講演会でした。当時、光村図書の『飛ぶ教室』という雑誌の発刊が決まっていて、その宣伝のための創刊0号というのが出ていました。そこに掲載されていたのが「てつがくのライオン」です。今江さんの「ラベンダーうさぎ」も載っていたのですが、今江さんは、ご自身の作品ではなく、新人の詩人さんの素晴らしい作品があるので紹介したい、ということで、紙面を見せながら「てつがくのライオン」を朗読してくれたのです。衝撃的でした。
まず、長新太さんの、勢いのある真っ黄色のライオン。
今江さんのあの早口でまくし立てるような朗読。もう、ぜんぜん情感とかなくて、ものすごい勢いでページをくりながら読んでいくんですが、それが長さんの絵の勢いと相まって不思議な世界を醸し出していました。
今でも、この詩を読むと、今江さんの声が聞こえてきます。
特にライオンとかたつむりの会話の部分。
「やあ、かたつむり。ぼくはきょう、てつがくだった」
「やあ、ライオン。それはよかった。で、どんなだった?」
「うん、こんなだった。」
そしてライオンがてつがくをやってみせると、かたつむりが言うんです。
「あゝ、なんていいのだろう。ライオン、あんたのてつがくは、とても美しくてとてもりっぱ」
ライオンのする「てつがく」というのが、またすごくいいんです。これ以上書くとネタバレがすぎるのでやめておきますが、どうしてこんなことを思いつくんだろう、と、衝撃を受けました。
母は、その「飛ぶ教室」を定期購読で申し込んでいたので、自宅にその本があることを知らされ、帰って早速読んだような気がします。本当に大好きな本でした。
その後、この仕事に携わるようになり、国語の教科書で工藤直子さんを見たときの衝撃ったら、ありませんでした。えー、あの「てつがくのライオン」の人、こんなに偉くなってたんだぁ、って感じですよね。なんか、知り合いが有名になって誇らしい、みたいな奇妙な錯覚。私、この人が有名になる前から知ってましたよ、みたいなね。
母とは異なり、私自身は絵本と積極的に関わることはなかったのですが、大学生になって一人暮らしを始めてから、何度か「てつがくのライオン」読みたいなぁ、と思うことがあり、本屋で探したのですが、見つけられませんでした。佐野洋子さんの絵で、『てつがくのライオン』という詩集は出ていたので、一応購入しましたが、私が求めていたのはそれじゃなかったんです。長新太さんの黄色いライオンと、あの言葉のコンビネーション。いつか、どこかで手に入れたいと思い続けていたら、2014年に復刊ドットコムで、復刊されました。私と同じように思っていたファンがたくさんいたということですね。
ただ、表紙の絵が違っているんですよね。創刊0号では、ライオンの横顔がどーんと全面にでていて、それはそれは迫力のある画面だったんです。うーん、残念だけど、もうそんな文句も言ってられないので、そこは我慢
今も、時折出しては読んでいます。
多分一生お付き合いいただく1冊なのではないかと思っています。
コロナでしばらく実家に帰っていないのですが、今度帰ったら、創刊0号を探してみようと思います。どこかに埋もれてるはず。