
ブログネタ:子供のころ、何度も読み返した絵本のタイトル教えて 参加中
2010年08月05日判定:★★★☆☆(白星
)
小さい頃よく読んでいたのはディズニーの絵本みたいです。
「バンビ」とか「ダンボ」とか動物の出てくるディズニー絵本を手に持った写真がけっこうあります。
でも、自分では覚えてないんですよね。
私は小さい頃から本がとても好きだったので、幼稚園ごろにはもう絵本は卒業して、絵よりも文のほうが多い本を読んでいました。
だから、あまり絵本の記憶はないです。
***
自分で読んだ絵本の記憶はありませんが、他人が読んだ絵本の記憶は、鮮明に残っています。
小学1年のとき、先生が、たった一冊、読書感想文コンクールで入賞した人たちの作品を集めた文集を持ってきました。
「一冊しかありません。しかも、この一冊には50円のお金がかかります。それでもほしい人は、じゃんけんをしてください」
みんなは、じゃんけんをしたくて
「じゃんけん、する!」
と手を上げました。
私も、文集はほしくありませんでしたが、みんなと一緒にじゃんけんをしたくて、同じように手を上げました。
結局、クラスの全員がじゃんけんすることに。
そして私は、なぜか勝ち抜いてしまい、50円払ってその本を買うことになってしまったのです。
やれやれ。いらんのに。
私は黙って先生に50円払い、コンクール文集をもらいました。
***
もしただで配布されていたら、読まずに捨てていたでしょう。
でも、クラス全員にじゃんけんで勝った上に、50円もの大金を出して買った本です。
読むことにしました。
そして、その中に、ある絵本の感想文があったのです。
***
その本のタイトルは忘れました。
あらすじも、ぼんやりとしか覚えていません。
もしかしたら間違って覚えているところもあるかもしれないですが、だいたいこんなストーリーです。
*
ある村に、いつも黙って笑っている男がいました。
何を言われても、何をされても黙って笑っている男。
ある日、村に日照りが訪れて田んぼが干上がってしまいました。
みんな困って、どうしたらいいかと話し合いました。
だけど、男は黙って笑いながら、石を一生懸命運んでいました。
「なにやってるんだ。このたいへんなときに。あいつは馬鹿だ」
村人はみんな男を馬鹿にしました。
でも、男は、ちゃんと考えていたのです。
ある日、からからに乾いた村の田んぼに水がどっと流れてきました。
男は、たったひとりで川から水を引く水路を作っていたのです。
みんな、男に感謝しました。
そして
「いままで馬鹿にしてごめん。お前は村の英雄だ」
と謝りました。
だけど男は、やっぱりいつもと同じように黙って笑っているだけでした。
しばらくして、村に役人がやってきました。
年貢が足りないというのです。
「責任者は誰だ。責任者を出せ。責任者の首をはねるかわりに、それ以外の人間の命は助けてやる」
村人は、
「責任者はあいつです」
と、男を指差しました。
男は村人の言葉を否定せず、いつものように黙っていました。
役人は男を引っ立てていきました。
村人は、黙って引っ立てられていく男を、黙って見送りました。
「あいつはいつも黙って笑ってる。
そして、すごいことをやってくれた。
だから今度も、きっと黙って笑いながら、村に戻ってくるに違いない」
村人は、男が戻ってくるのを待ちました。
だけど男は、二度と帰ってきませんでした。
*
細かいところは違っているかもしれませんが、おおすじは合っているはずです。
いつも黙って笑っている心優しい男に対して、村人は、彼の優しさをさんざん利用したあげくに、最後は
「責任者の首をはねる」
と騒いでいる役人に、男を引き渡してしまうのです。
「いつも笑って、黙って何でも解決してくれた男だから、今度もきっと大丈夫だろう・・・」
そんなふうに自分の心に言い訳しながら。
*
でも、私が一番心打たれたのは、絵本のストーリーではありませんでした。
私が読んだ感想文は、その絵本の作者のあとがきに触れていました。
この絵本の男にはモデルがいたそうです。
クラスメイトからも先生からも「ダメなやつ」と言われていた男の子。
クラスで何かあると、必ずその子が先生に怒られていたそうです。
クラスに問題が起こり先生が怒り出すと、クラスの子は必ず
「あいつがやった」
と男の子を指差したそうです。
先生も、よく調べもせずに、クラスのみんなの言葉を信じて、その子だけを厳しく叱りつけたそうです。
作者は、大きくなって、当時のことを思い出し、激しく後悔しました。
「あの子はみんなに罪をなすりつけられて、みんなの前で厳しく先生に叱られて、殴られても、何も言わなかったし、泣かなかった。
だけど彼の心の中は、きっと涙でいっぱいだったに違いない」
読書感想文を書いた子は、絵本の内容だけではなく、作者のあとがきに衝撃を受けたそうです。
そして、感想文を読んだ私も、あとがきに衝撃を受けたのです。
***
中学生のとき、偶然、本屋でこの絵本を見つけました。
手にとって、中を見ました。
いつも笑っている男。
もくもくと村人のために働き、馬鹿にされてもなじられても、いつも笑って許していた優しい男。
村を日照りから救うために、誰の力も借りず、たった一人で頑張った男。
それなのに、役人に「こいつが責任者だ」と引き渡され、首をはねられることになった男。
連行されていく男の目・・・
私は、その目を見ているうちに、自然に涙があふれてきました。
本屋で泣いたりするのは恥ずかしいです。
私は本を閉じ、そしてそれっきり、その本を見ることはありませんでした。
***
時が経つうちに、50円で買ったあの文集も紛失してしまい、絵本の題名も作者名も忘れてしまいました。
もうあの本を探すことはできません。
だから結局、私があの絵本を見たのは、中学のときに本屋で手に取った、あのときたった一度きりです。
だけど、「子どもの頃に何度も読み返した絵本」といわれると、どうしてもあの本を思い出してしまいます。
***
私はいろいろな体験をしました。
だまされたり、いじめられたり、嫌な思いをすることもたくさんありました。
自分がされた嫌な仕打ちは、今でも忘れらません。
だけど、私は本当に自分だけがかわいそうな被害者なんでしょうか?
私の心のどこかに、あの絵本の「村人たち」が潜んでいないでしょうか?
そして、とても優しい、おとなしい誰かを踏みつけて楽をしたことはなかったでしょうか?
***
自分が他人を踏みつけておきながら、踏みつけたことすら忘れて、自分が踏まれたことばかり嘆く人間は最低です。
そんな最低の人間にだけはならないように。
絵本のタイトルは忘れても、絵本の最後の連行されていく男の目は、絶対に忘れません。
