http://realsound.jp/2014/07/post-871.html
よく昔の記事が消失してしまうこともあり、
敢えてその記事をまるっと転載。
覚書です。
嗚呼、ベンジー!!
新作アルバム『Nancy』インタビュー
浅井健一が語る、曲作りのスタンス「心に力が入ると駄目、素直が一番いいよ」

ソロとして6枚目のアルバムをリリースした浅井健一。
浅井健一が、2013年のアルバム『PIL』より1年半ぶりの新作『Nancy』 をリリースした。1年をかけてじっくり作ったというこのアルバムは、椎野恭一や福士久美子、林幸治といったプレイヤーを迎えたバンドサウンドの楽曲のほか、浅井自身がプログラミングを手がけて一人で作り込んだ楽曲も収録されており、さらにスケール感を増した作品に仕上がっている。もちろん、浅井ならではのイマジネーション溢れる詩世界も健在だ。今回のアルバム制作に当たり、浅井はなにを考え、どう言葉と音を組み立ててきたのか。レコーディングの裏話や、自身の創作スタンス、そして浅井が考える理想的な心のあり方まで、じっくりと語ってもらった。
「自分が作る歌は、聴いた人がポジティブになるようにしたい」
ーー今回の作品は、いつ頃からレコーディングしましたか?
浅井健一(以下:浅井):去年の1月に「Parmesan Cheese」って曲を1人で作り始めた。『PIL』ってアルバムのツアーで中断したりしたから、その合間に作り上げていったんだけど、去年の秋、10月くらいにメンバー集めて、最終追い込みレコーディングがあって、ほとんどの曲はそこでレコーディングした。結局、1人で作りこんだのは3曲だけ。「Parmesan Cheese」と「君をさがす」と「Sky Diving Baby」なんだけど、それは全部1人でやってる。なので、それ以外の曲は秋に椎野さん(椎野恭一:ds)と林くん(林幸治:b)と福士さん(福士久美子:key,cho)でレコーディングして、それでダビングの作業をやって、音自体は今年の1月ぐらいに完成したかな。マスタリングは3月くらいだったけどね。
ーー1人で仕上げた曲とバンドで録った曲は、それぞれどういう風に位置付けてますか。
浅井:人間が全部やってる音楽と、コンピューターが正確なリズムで鳴らす音楽って、まったく違った感触になるでしょう? それぞれ大好きなんだけど、「この曲はコンピューターと向き合って1人でやろうかな」ていうのは、そのときの自分の気分というか、それだけだね。1曲目の「Sky Diving Baby」は最初にキーボードのフレーズがあったんだけど「これはコンピューターでやったらかっこ良くなるな」っていう自分の勘があった。コーラスとかも、Protoolsでやったらいろんなことにチャレンジできるから、すごく面白いんだわ。
ーー今回はコーラスが多いですね。それがアルバムの色にもなっています。
浅井:最近多いよね。一昔前まで、コーラスなんて全く興味なかったんだけど、最近は大好きになってるかな。
ーー「Sky Diving Baby」は切なくて悲しいけど、聴き終わったときに開放感があります。これはアルバム全体の印象にも近いのですが、この開放感は何でしょう?
浅井:音楽でも映画でも何でも、それを聴いたり観たりした後に清々しい気持ちというか、前向きな方が絶対にいいじゃん。落ち込むだけの映画に、俺は存在理由はないと思うんだ。だからスプラッタームービーとか大嫌い(笑)。昔、『Dancer In The Dark』っていうビョークが出てた映画あったでしょう。俺は観てないんだけど、相当暗くなるらしいじゃん? 強いて言えば、「そんな悲惨なことがあるんだから今が大事なんだな」って思える面があるのかもしれないけど、自分が作る歌は、聴いた人がポジティブになるようにしたい。昔は「かっこよけりゃいい」っていう感じで関係なかったけど、最近はそれを意識するようになったね。
ーー以前はズバッと斬るような感じでしたね?
浅井:ズバッと斬ってそれでおしまいっていうね(笑)。昔はそれでいいと思ってたし、またそれに戻るかもわからんけど、今はそうじゃない気持ちかな。
ーーただ、いわゆる応援歌みたいなものとはまた違いますよね。
浅井:応援歌は嫌いなんだわ、俺。ただ頑張れって言うのは軽薄な気がするし。曲作るときには、自分でもどういうものができるのかわかってない中で一生懸命やって、今回みたいなものができると。そういうことなんだよ。
ーーバンドが入った曲に関して、レコーディング現場の雰囲気はどうでしたか?
浅井:俺と椎野さんと福士さんは長いんで。林くんはなかなか無口なんで、「嫌なのかな?」とたまに心配しちゃったときもあったんだけど、そんな心配は無用で(笑)。彼はすごく真面目で音楽に対して一生懸命で、ただ単純に無口なだけだった。喋りだすと喋るし、飲みにも行ったし、当たり前だけど雰囲気は良かったよ。雰囲気悪かったらレコーディングできんでね。
ーー先程も話に出たコーラスワークは、実際にこのアルバムの魅力のひとつだと思います。
浅井:コーラスは…ものすごい大事だよね。作ってて楽しい。声とメロディだけで、歌詞必要なかったりするから、自分の中の好きなメロディでいけるじゃん? 福士さんのコーラスすごくかっこいいしね。やっぱり声の質。それが音楽にはすごく関わってる。声っていうのは、たぶんその人の心が関係してきてるから、不思議ですよ。
ーー浅井さん自身の声もそうですよね。すごく柔らかい感じがして。
浅井:全てにおいてそうなんだけど、力が入ると駄目だね。心にも力が入ると駄目なんだわ。バッティングセンター行って、「絶対ホームラン打とう」とか思っても全然いい当たりが出なくて、軽く振ったときにパコーンと当たる時あるじゃん? あれもそうだし、この世の中っていうのは、欲を出して立ち向かおうとするといいことない。それは音楽にもいえて、歌入れしていて「なかなかいい感じで録れたな」ていうのがあったとするよね。それで十分いいんだけど、「もっといいのが録れるかもしれない」と思って、そこから10回、20回やっても越えられんもん。「欲のない状態に戻そう」って言ったところで絶対、欲はあるんだわ。「もっといいのを録ってやろう」と思ってるんだから、「欲のない状態に戻そう」っていう気持ち自体がめちゃくちゃ欲にまみれとる(笑)。そこなんだわ、世の中の秘密っていうのは。
ーーそれを意識し始めたのはいつ頃からですか?
浅井:15年くらい前から漠然とはわかってたよ。レコーディングの繰り返しだからね。ブランキーのときから30年以上やってるんだもん。「録らないけど、音を作るので1曲やってください」って言われて適当にやるのが、欲がないから一番良かったりするんだわ。そんなことはバンドのほとんどのみんなはわかってるんじゃないかな。体験してると思う。音楽だけじゃなくて、あらゆるところでそういう現象はあると思うけどな。だからサッカーの試合でもそうだったんじゃないかな(笑)。4年前はみんな大して期待してなかったわけじゃん? 期待されてないもんだから、すごい良いところまで行けたでしょう? 今回は逆だもんね。
ーーこれまでに、自分の中で「力が入っちゃって素直じゃなかった」ということはありますか。
浅井:あんまりないかな。頑張ってひねり出したものはあるかもしれないけど、それも素直に頑張ってひねり出しとるでね(笑)。
ーーひねり出す時はやはり、産みの苦しみがある?
浅井:そりゃ、あるよ。やっぱり詩が一番難しいね。曲の展開の部分だとかで悩むときはもちろんあるし。やっぱり、詩とメロディと、全てがよくないと駄目だもんね。演奏力もないといけないし、曲が世の中に出る時期も関係してくるし。だから音楽業界みんな、難しいというか、面白いことをやってる。
ーー作品が世に出る時期の社会の雰囲気なども、浅井さんの音楽に関係してくると?
浅井:そりゃ、自然に関係するよね。みんな同じ今を生きてるんだから。ニュースもみんな同じように見るし、同じ時間を生きてる。不思議ですね。
ーーなるほど。浅井さんの歌詞は時代を超越しているようなところがあって、そうした部分が少年性と評されたりすることもありますがーー。
浅井:少年性とかはよく言われたりするんだけど、自分でそういうのは全然ないと思ってるんだ。俺、全然大人だし、考え方もそこらへんの大人より大人だし。たぶんみんな勘違いしてると思うんだけど、俺は素直なだけなんだわ。素直に自分の気持ちを書くのが、一番いいよ。
腹減ってるときに曲を書いてると、絶対食べ物が浮かんでくる
ーーアルバム最終曲の「ハラピニオ」は、近未来から過去を振り返るというSF的な設定の曲ですね。
浅井:「ハラピニオ」が一番好きかな。コーラスのところが嬉しくなるでしょ? あそこがいいんだ。それと「Parmesan Cheese」が今回の中で「どうだ!」っていう感じかな。
ーーどちらも食べ物に関係しますね。
浅井:腹減ってるときに書いてるとね、絶対食べ物が浮かんでくるんだよ(笑)。ドミノ・ピザのスパイシーデラックス。「ハラピニオをトリプルで」って頼むとすごい乗ってくるよ。
ーー「ハラピニオ」のSF的な場面設定は、浅井さんの音楽の中でも珍しいですよね。
浅井:『マッド・マックス2』の景色が少し入っているかな…あれは。その雰囲気はちょびっとあるかもね。もっと優しいけど(笑)。そんな詩ができるなんて思ってもいなかったけど、なぜかできたから不思議ですね。
ーーこの曲は未来の地点から歌っていますが、『紙飛行機』のように、未来やその先に向けて歌っているような曲もあります。
浅井:今回はそういう曲が2曲も入りましたね。俺もみんなと同じように未来のことは考える。今の社会情勢を見てて、不安を感じない人はいないと思うんだよ。そういう人はよっぽどおめでたい人というか。その中でも、自分たちの意思で変えることは全くないわけじゃないと思う。
自分のことしか考えない魂と、自分はもちろん、目に入るまわりの人達も普通の生活が出来て、良い状態のときに初めて幸せを感じられる魂と、いろんな魂があるじゃん? 後者の魂が地球上にたくさん増えていったら、明るい未来が来ると思うんだけど、自分さえ良ければいいっていう魂が増えれば、最悪になる。ただ、自然界っていうのは、自分さえ良ければいい、というものなんだよね、本当は。だから、自分さえ良ければいい、っていうことを、あからさまに否定することもないのかなとも思う。「人の為」と書いて「偽」って読むでしょ? だから「人のため」じゃなくて、人が喜んでないと自分も喜べないからその人たちを助けるというのは、結局は自分のためじゃん? それがいいと思うんだ。人間でしかできないことだし、そういう考え方が大事だと思う。
体調を整え過ぎると、歌詞が何も出てこなかったりする
ーー今回のコーラスワークなどもそうですが、作品を作るごとに、新しい音楽的な関心や可能性、引き出しのようなものが出てくるのでは?
浅井:いや、毎回出しきっとるよ。俺、引き出し派じゃないんだわ(笑)。よく「あの人は引き出しがたくさんある」みたいな言い方するじゃん? 俺、はじめから引き出しが一個もないから、いつも思いつきでやってるだけだもん。何で引き出しって言葉があんまり好きじゃないかっていうと、引き出しって場所決まってんじゃん? 勉強っぽいし、そういう堅苦しいのが嫌なんだよね。こっちの引き出しはこれだけ、あっちの引き出しはこれだけ。そうやって限度が決まっちゃってるイメージがあるんだ、自分の中で。それが俺、何か違う気がするんだよね。
ーーでは「引き出し」というより、何か新しいひらめきが降りてきた、という感じでしょうか。
浅井:その「降りてくる」っていうのもあんま好きじゃないんだわ(笑)。「降りてくる」ていうと自分が特別な人のような感じじゃん? だから、たまたまできる。
ーー失礼しました(笑)。その「たまたまできる」のに、体調などは関係しますか。
浅井:体調を整えると、なんか健康的っていうか、一般的な言葉しか出てこないこともある。いっぺん一月以上酒やめてて、体調も良くて、そのときに創作活動入るでしょ。そしたら全然自分の中で盛り上がらない。意外と二日間くらい飲み続けてぶっ倒れそうで「もうそろそろ復活しなくちゃ」て思ったときにできたりするね。いつもそうとは限らんけど、そういうときも年に2回くらいある。「よしやるぞ」って立ち向かった時にできる方が多いけどね。でも意外と体をクリーンにし過ぎると何も出てこなかったりするね。だから普通に生きてればいいんじゃないかな。
ーーなるほど、とにかく意識しすぎるのは良くないと。さて今回の作品は、ポップソングとしても完成度の高い曲が多くて、多くのリスナーに届くのではないかと思います。
浅井:届いてほしいね。そういう思いしかないよ。老若男女、誰にでも伝えたい。おじいさんが聴いて「おぉ、えぇがや」って思ってくれたら嬉しいしさ、小学生が聴いてもいいって思われたい。絶対に聴けるよ。世の中めちゃめちゃいっぱい音楽あるけど、そん中でも光っとると思う。
ーー浅井さんはほかのミュージシャンの音楽に刺激を受けたりしますか。
浅井:たまにラジオとかで、かっこいい音楽流れてきたりするよね。刺激的な音楽は絶対あるから、それに俺も刺激受ける。有名なところだとNirvanaやRadio Headも好きだし、Gilbert O'Sullivan、Chris Isaak、The Shocking Blue、The Black Keys、いっぱいいるよ。でも最近の人はあんまり名前を知らないかな。たくさんいるけど、そこまで到達するのは難しい。普段から曲作りに熱中してるとね、そういう時は心の底からプレイヤーになっちゃってるもんで、リスナーの気分にはなかなか戻れないんだわ。自然とそうなっちゃってるんだ(苦笑)。
ーーでは最後に、今回のアルバムのツアーについても教えてください。
浅井:今回は東名阪が椅子席なんですよ。「ゆっくり見たいな」ていう人は是非。前半はこれまでのすべての曲から選りすぐって、アコースティックな世界を表現しようと思っている。後半は、林くんは残念ながら参加しないんだけど、キーボードとバイオリン、皆川さんと岡村さんと、福士さんと椎野さんを迎えて、アルバムの曲をやります。10年ぶりくらいに、夏フェスは一切出ずに、自分の全ての力をこのツアーに注ぎ込む気持ちでやるから、みなさんに是非観に来てほしいですね。
(取材=神谷弘一/構成=松田広宣)
■リリース情報
『Nancy』
発売:7月9日
価格:3,400(without tax)
<収録曲>
1. Sky Diving Baby
2. Stinger
3. Parmesan Cheese
4. 紙飛行機
5. Johnny Love
6. Papyrus
7. 桜
8. 僕は何だろう
9. 君をさがす
10. ラビット帽
11. ハラピニオ
■イベント情報
『Nancy』発売記念 東京限定Live
『Sky Diving Night』
2014年7月10日(木)東京都 赤坂BLITZ
『浅井健一 2014 AUTUMN TOUR「Splash Nancy」
ACOUSTIC & ELECTRIC NIGHT』
2014年9月25日(木)東京都 新木場STUDIO COAST
2014年10月2日(木)北海道 cube garden
2014年10月8日(水)愛知県 DIAMOND HALL
2014年10月9日(木)大阪府 なんばHatch
2014年10月17日(金)福岡県 DRUM LOGOS