真夜中のパティシエ | 日々幸進(ひびこうしん)

日々幸進(ひびこうしん)

日々、自分が楽しくて生きている事を簡潔に記しておきたいと思います♪
演劇、音楽、TVドラマ、映画、バラエティ、漫画、アニメ、特撮、他を色々自分の視点で面白しろ可笑しくね♪

彼女は嘘をつく。



それを本人は自覚していない。

だから

「嘘をついている。」

ではなく、

「嘘をついていた。」

という事後報告のような事態になる。


故に、

彼女にその重責はない。

嘘は無意識の産物であり、

前五識すら忘却の彼方という有様。


しかし、

周りはたまったものではない。


自覚のない嘘ほど他人を混乱させることはないからだ。



彼女は知らず知らず、

他人と距離を置かれている事に気づく。

小さな違和感が彼女を気付かせたのだ。


そうなってくると、

それまで廻っていたものが、徐々に滞ってくる。

無意識で積み上げた関係に自我が芽生える事により、

意識的な記憶が彼女を混乱させた。


抑圧は意識下に於いて発生する化け物だ。

じわじわと自分の周りが、心地良いものから不快なものへと変貌してゆく。

侵食。

言語連想方から自分がどんどんと追い詰められていると覚醒してゆく。


驚く。


今現在の自分が置かれた立場に、

先の見えない未来しかないことにようやく気付く。


彼女は手にしたボールに力を込めた。

深夜2時14分。

目の前に並べられた耳を付けたプチパンケーキ。

ミニーを模した形で、かなりの愛嬌がある出来栄え。

最終的に7分立てのクリームに空気を入れたものを飾って冷蔵庫で冷やす。

ラストに向っている状態。


頭の芯が冷え冷えと整ってくる。

ふと、

窓を見遣ると、外灯から洩れる光がやわやわとガラスまで辿り着いている。


これを一体どうすべきなのか?

自分が置かれた立場を理解しての行為だったのかどうかすら分からない。


だが彼女は洋菓子を真夜中に作り続ける。

泡だて器の合間に小さくメールの受信音。


彼女は微笑みボールを静かに机へ載せた。


彼女は無意識に微笑んでいた。


微笑んでいたのである。