『ROCK‘S』
夜風が冷たい。
ひんやりとする十一月。
しかし昼間は、まだクーラーをつけなくてはならない暑さを感じる。
だが、夕方も6時を過ぎると途端に温度差が激しくなる。
雑踏の中。
花菱朋和(はなびしともかず)はバイト先へと走っていた。
バイト先『居酒屋ばいんど』には6時から入る事になっているのに、今はもう6時を5分ほど過ぎていた。
やばい。
店長に怒られる。
朋和は自分の置かれた立場を呪う。
自分が追い込んだ立場とはいえ、窮屈すぎる立場が苦しい。
着メロのベートーベンの運命が鳴る。
朋和は走りながら携帯電話を取り出し誰からかかってきたのかを確認する。バンドメンバーの桶川(おけがわ)だった。
「朋和か?」
「何?オケ!急いでるんやけど」
荒く息を吐き出しながら、鬱陶しそうに言う。
「・・・・・・・・死んだ」
信号機の盲目の障害者に対してのメロディが高らかに鳴っている。
「何て?音が大きいから聞こえない!」
「死んだ!」
ようやく耳に届いた単語。
「な・・・誰?誰がや?」
街の雑踏と、思考の混乱が見事にユニゾン。
「小鳩(こばと)」
短く区切られた言葉が朋和の意識を切断する。
朋和を包んでいた喧騒が色とノイズをかき消していく。
「小鳩が・・・・?」
息は荒いが立ち止まった自分の思考が麻痺して冷えていくのを感じた。
体中の血液が全部地面に零れ落ちていく、いや、伝い落ちてゆく感覚。
「小鳩・・・・・・・・・・・・・・」
つづく