2024年8月30日午後7時 浜離宮朝日ホール 築地
エヴァ・ゲヴォルギャン ピアノ・リサイタル
エヴァ・ゲヴォルギャンは2004年ロシア生まれのアルメニア人、17歳で2021年第18回ショパンコンク-ルの出場者中の最年少ファイナリスト。読響と8/24にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏、ピアノリサイタルは昨年9月に続き2回目。
前半
・ベート-ベン :ピアノ・ソナタ第27番 op.90
ベート-ベン(1770-1827)の1814年作でスランプを脱出したころの作品でリヒノフスキー伯爵に献呈された。
リヒノフスキー伯爵の恋愛にまつわるロマンチックなメロディ-で抒情的な2楽章の作品。
エヴァ・ゲヴォルギャンは激情にあふれたベート-ベンの演奏でブッフビンダ-など大家の落ち着いた完成された演奏とは異なるが聴いていて楽しめる若々しい新鮮な感覚の演奏だった。
・ブラ-ムス :4つの小品 op.119
ロベルト・シュ-マンのピアニストの未亡人クララに贈られた曲で第1曲にはブラ-ムスは「すべての音から憂鬱が吸い込まれるかのように、そして不協和音から官能的な悦びがおこるかのように聞こえなければなりません。」とクララへの書簡が残されている。ブラ-ムスが60歳で亡くなる4年前のこの曲はかなり複雑なクララへの思いが込められている。
エヴァ・ゲヴォルギャンはまだ20歳なのでブラ-ムスの晩年の境地は演奏には見受けられず、美しいピアニズムの颯爽とした演奏。第3曲、第4曲はブラ-ムスの晩年の境地ではなく、若いころクララと交際中に作曲したシュ-マンの幻想的でロマンチックな雰囲気の「ダビッド同盟舞曲集」と似た曲想。エヴァ・ゲヴォルギャンはクララへのロマンスを秘めたブラ-ムスの心情を直感的に理解したかのような演奏でブラ-ムスのクララへの秘めた恋愛感情が浮き彫りにされて聴こえた。
・ラヴェル:ラ・ヴァルス
冒頭の「渦巻く雲」が次第に消えて舞踏の世界が激しい情感でボレロのように狂乱に近い終末に至る。
管弦楽曲1920年作としても有名だがラヴェル(1875-1937)のピアノ曲としては激しい情感の曲。エヴァ・ゲヴォルギャンのピアノの響きはフランス的な色彩感はないが激情のラストクライマックス直前に音を滑らかにつないで弾くグリッサンドの場面は最大の聴かせどころ、演奏は熱を帯び流星のように輝いて華々しく終えた。
タッチはペダリングが深めで明瞭ではないがエヴァ・ゲヴォルギャンは曲想を上手く捉えメリハリを利かせた豪快な演奏は楽しめた。
・ショパン :24の前奏曲 op.28
エヴァ・ゲヴォルギャンはショパンコンク-ルの本選に出ているので曲想の解釈は妥当で内容が濃い。
演奏中にペダリングでこもった響きが頻繁に聴こえ違和感があった。最後の低音で終えるところはこもらない迫力がある響きだった。アンコ-ル曲のハチャトゥリアン:子守歌はこもりを感じないすっきりした音だった。演奏会終了後、舞台にあるピアノを見るとYAMAHAで係員に聞くと持ち込みのCFXとのこと。昨年同様YAMAHAだがまだペダリングの使い方は十分弾き慣れていないようなこもった響きに感じた。
アンコ-ル
・リスト:ラ・カンパネラ
・チャイコフスキー(プレトニョフ編曲):「くるみ割り人形」よりアンダンテ・マエストーソ
・ハチャトゥリアン:「ガイーヌ」より子守歌
・ チャイコフスキー(プレトニョフ編曲):「くるみ割り人形」よりトレパーク
・ チャイコフスキー(プレトニョフ編曲):「くるみ割り人形」より金平糖の精の踊り
リスト:ラ・カンパネラは亀井聖矢(2001-)の方が音は明瞭で上手に聴こえた。エヴァ・ゲヴォルギャンはメリハリのないドラマティックではない曲想では充分特徴が生かしきれない。ただ昨年9月のリサイタルのショパン夜想曲でみられたロシア的な重い表現は薄れ国際的なピアニストに成長している。30代前後のショパンコンク-ル上位入賞者でブラ-ムスを上手く聴かせられる演奏にまだ出会ったことはないがエヴァ・ゲヴォルギャンのベート-ベン、ブラ-ムスの演奏は的を得た天性の素質を感じさせる演奏だった。
座席は2階R列12番、1階の9列目の上の場所。ピアノの音は明瞭に聴こえ直接音と残響音のバランスは良く響きは美しい。
昨年の1階席9列10番と比べて中音域が強く聴こえる。
席は8割から9割の入り、観客は中高年齢層が多いが10代、20代のピアノを学習していそうな若い世代も見受けられる。
サイン会の行列