2024年7月4日午後8時 イタリア ミラノ

ミラノ・スカラ座 プッチーニ没後100周年

「トゥ-ランドット」補筆フランコ・アルファ-ノ版 全3幕5場

 

ミラノ・スカラ座外壁工事中

 

 

トゥ-ランドット姫役 アンナ・ネトレプコ

 

プッチ-ニ「トゥ-ランドット」は100年前1924年にプッチ-ニ(1858-1924)は癌で未完のまま終えた。

召使リューが自刃した箇所以降が未完、その後フランコ・アルファ-ノが補筆し1926年に初演。

ミラノ・スカラ座 プッチ-ニ「トゥ-ランドット」発売開始は2024/3/27。

演奏会から戻りミラノ・スカラ座のHPから販売開始の5時間後では既に良い席(高い席)は空いていなかった。

販売開始前に100ユーロ程の手数料を加算し約500ユーロで代理店に頼まないと1階正面と2階以上最前列のS席相当の400ユーロの席は入手困難な状況。

①6/25,②6/28,③7/4,④7/6,⑤7/9,⑥7/12,⑦7/15の全7公演は完売。

トゥ-ランドット姫役はアンナ・ネトレプコ、王子カラフ役はネトレプコの夫のユシフ・エイヴァゾフが7/6迄。

7/9以降はアラ-ニャが体調不良で6月英国ロイヤル・オペラ公演で同役のブライアン・ジェイドが代演。
 

・演奏について

第1幕ではカラフ役のエイヴァゾフは前半は声量を抑え気味で今年5月MET公演の元ダッタン王ティムール役(ウクライナ出身)のバス歌手ヴィタリ・コワリョフ(Vitalij Kowaljow)に声量は押され気味。ヴィタリ・コワリョフは頑健な体格から得られる深い声の響きと迫力満点のバス歌手です。

ティム-ル(ダッタン元国王)役 ヴィタリ・コワリョフ

第2幕ではトゥ-ランドット姫役がアンナ・ネトレプコ(ロシア出身)。

昨年3月来日公演のユシフ・エイヴァゾフ(アゼルバイジャン出身)の共演以上に今回は絶好調で声量は大きく声質も輝きがあり甘美、クール、威厳を持たせた強靭な声を備えた素晴らしい歌唱力。マリア・カラスの方が役に即した冷たい声質だがこれだけのパフォ-マンスはなかなか聴くことはできないだろう。エイヴァゾフも第2幕から声量を上げ始め妻のアンナ・ネトレプコと夫婦らしい息の合った共演。

第3幕ではエイヴァゾフの「誰も寝てはならぬ」は聴かせどころを的確に捉えた見事な歌唱力。

全幕を通じ声の調子のマネジメントが非常に上手く、聴かせどころの曲のピークに声のピークを完璧に合わせていた。
7/7はヴェロ-ナで「アイ-ダ」のラダメスをマイクなしで歌うようなので少しセーブしているようだった。

 

カラフ(謎の王子)役 ユシフ・エイヴァゾフ

カラフをかばい自刃する召使リュー役のローザ・フェオラ (Rosa Feola。1986年生まれイタリア出身)は可憐で悲劇的な役に相応しい透明な高音の響きで魅了。6月の英国ロイヤルオペラのラングワナシャより悲劇性を感じさせ同情を誘うリリックな歌唱と美貌だった。

召使リュー役 ローザ・フェオラ

リューが死んだ後の場面では観客に配られたLEDキャンドルライトを客と合唱団が点灯し、合唱団および観客がライトを点け会場全員で黙祷をした。

最後はアンナ・ネトレプコの歌唱と迫力のある合唱で感動的にこのオペラは締めくくられた。

・他の歌手について

中国の皇帝役のラウル・ヒメネス(Raúl Giménez,1950年アルゼンチン生まれ)は6月の英国ロイヤルオペラの皇帝役の瀕死の演技と違いにこやかな笑みをたたえた好々爺の演技で声量も充分。

 

ピン・パン・ポンは東洋系の3名の歌手(Sung-Hwan Damien Park,Chuan Wang,Jinxu Xiahou)の声量と声質は揃い技量は6月の英国ロイヤル・オペラのピン・パン・ポン歌手の水準より高い。

男女合唱団の声量は大きいが東洋系と西洋系の歌手が混在し声質の違う響きが溶け合わず少し違和感を持った。かつて東京で聴いたミラノ・スカラ座の「トゥ-ランドット」は西洋系の歌手の柔らかい響き、迫力は勝り、透明感があり、声質は統一感のある柔らかい美しい響きだった。

 

管弦楽はかつて聴いたミラノ・スカラ座の男性的な迫力で格調高い響きとは違い、柔らかく繊細なヴァイオリンセクションの響き。この7/4公演に関してはヴァイオリンセクションはローテ-ションでたまたま女性演奏者が多いせいか?響きが以前と違って聴こえたが響き自体は以前と変わらず美しい。英国ロイヤル・オペラより弦楽器セクションの響きは美しい。打楽器のティンパニ-は通常は指揮と同期させていたがオケを推進させる場面では入りが指揮より若干早め。

英国ロイヤル・オペラの指揮のパッパ-ノはオペラ全体をメリハリをつけ劇的に進行させ老練な上手さがあったがミラノ・スカラ座のミケーレ·ガンバは音楽の流れに逆らはない歌いやすさを重視した演奏。

 

歌手全体では6月の英国ロイヤル・オペラ公演より水準が高く、弦楽器の響きの豊かさは英国ロイヤル・オペラ公演よりかなり上回る。英国ロイヤル・オペラのオケはブリテッィシュサウンドの大人の落ち着いた響きでミラノ・スカラ座のイタリアの情感豊かなフレ-ズの歌わせ方と傾向が異なる。

差を論じることができないのは演出と舞台美術で好みで評価が分かれそう。

指揮者 ミケーレ·ガンバ

・演出について

演出の見せどころは舞台上の紅葉したモミジの樹が最後は舞台中央に巨大な球体に入る。球体の月が回転したり、水中に漂う血のように内部は帯状に赤くなったりする。

絞首刑にされるペルシャの王子役はダンサーによって演じられ最後は裸体にされエロティックな演出。

英国ロイヤル・オペラのモダンな演出より未来的な衣装はあるが極端な現代的な演出ではなく伝統的な枠は保たれていた。

・スカラ座の印象

携帯で常時ではないがたまに画像を撮影しても係員や周りの観客は制止しない自由な雰囲気。日本のように神経質な雰囲気ではない。

本場のミラノ・スカラ座の「トゥ-ランドット」だがイタリア人歌手はリュー役のローザ・フェオラと合唱団の一部に限定されている。

エンニオ・モリコ-ネの映画『ニュ-・シネマ・パラダイス』の音楽のように切々とイタリアの情感が込められたオケの第3幕の演奏、次の7/9公演で個室同席のイタリア人の若い女性からAre you happy?と感想を聴かれたが確かにハッピ-な瞬間だった。

 

・座席について

座席は2階バルコニ-席前側、舞台から2列目の個室で後方の席、舞台は立たないと半分くらいしか見えない。

対面するバルコニ-でも後方には立ち見をしている観客がいた。

 

 

2階通路

個室に同席した前方の席は50代前後のイギリス人夫妻、後方の席は50代前後のポーランド人の男性、そして私の4名。お互いに自己紹介し和やかな雰囲気でイギリス人夫妻は演奏中舞台が見難い後方の席で立って見ることを許容してもらえ、もっと前にきても良いよとのこと。幕間にはポーランド人の男性にとても美しいオケの弦のサウンド(Very beautiful strings sound)の私の感想の英語は通じたらしく彼もBeautifulと感想を述べた。

 

ミラノ・スカラ座のHPで発売日2024/3/27に 108ユーロ18,142円をクレジットカ-ド決済。

歌手の表情がわかりオケの音も生々しく聴こえるので立って見る分には格安といえるだろう。

同じ個室でも最前列だと400ユーロで7万円になる。

 

 

・ミラノ・スカラ座の音響について

 

 

明瞭度は高く歌手の声とオケの音ははっきり聴こえる。コンサ-トマスタ-は通常の第2ヴァイオリン首席の位置で弾いていた。打楽器など奥まったヒサシのある場所の楽器は低音がかぶり気味。

東京文化会館のように響きはデッドではないがこもってはいない。サントリ-ホールのような明るい響きではなくウィ-ン国立歌劇場、すみだトリフォニ-ホ-ルのようなしっかりした落ち着いた木質の響き。合唱やオケがかなり大きい音を出すと響きは濁る。ホールの構造体や内装材などの振動による付帯音の影響を感じた。

・観客について

ほぼ満席。オペラにしては平均年齢は日本より低く若い男女が目につく。老若男女とも華やかな観客の服装は日本のオペラ会場より多い。社交のためというよりは着飾って観劇を楽しむ雰囲気に感じた。一方日本のようにノーネクタイの外出着の人も多い。空気を読む日本人とは違い服装をどうするかは全く個人の自由。この日はオーソドックスな紺のスーツ上下にしネクタイを着用した。

 

他の出演者

役人     :Adriano Gramigni

Handmaid I :Silvia Spruzzola (25 and 28 Jun.; 4 and 9 Jul.), 

                     Flavia Scarlatti (6, 12 and 15 Jul.)

Handmaid II :Vittoria Vimercati (25 and 28 Jun.; 4, 6 and 9 Jul.), 

                      Marzia Castellini (12 and 15 Jul.)

ペルシャ王子:Haiyang Guo

合唱   :ミラノ・スカラ座アカデミ-合唱団

合唱指揮 :Marco De Gaspari

指揮 :  ミケ-レ・ガンバ MICHELE GAMBA

管弦楽団 :ミラノ・スカラ座管弦楽団

演出  : DAVIDE LIVERMORE
セット   :ELEONORA PERONETTI, PAOLO GEP CUCCO, DAVIDE LIVERMORE
美術・衣裳 :MARIANA FRACASSO
照明    :ANTONIO CASTRO

Video     :D-WOK