2024年6月23日午後3時  東京文化会館 上野

英国ロイヤル・オペラ 「トゥ-ランドット」 初日

プッチ-ニ作曲「トゥ-ランドット」補筆フランコ・アルファ-ノ

 

声楽にソリストはカリスマ性のあるスタ-はいないが粒が揃った声質、大きな声量、優れた歌唱力。合唱は最後華々しく終えた。

かつて同曲のミラノスカラ座の演奏の格調の高さと迫力は劣るが日本制作のオペラに比べれば水準は高い。

英国は香港を植民地にしていたこともあり演出で中国文化の着眼点は日本人の見る目と違い面白かった。

指揮:アントニオ・パッパーノ

ロイヤル・オペラ合唱団

ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

NHK東京児童合唱団

 

主な登場人物

トゥ-ランドット姫(中国の王女):マイダ・フンデリング 

チュニジア生まれドイツ育ち。デビュ-は2001年。2015/16年にMETでトゥ-ランドット役。

 

カラフ(ダッタン国の王子):ブライアン・ジェイド

1980年アメリカ、ニュ-ヨ-ク出身。2021年METトスカのカバラドッシ役で注目される。

 

リュ-(ダッタン元国王家の召使):マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

南アフリカ出身、2022年プロムスでヴェルディのレクイエムに出演。

 

ティム-ル(ダッタン元国王):ジョン・レリエ

ジョン・レリエ (ダッタン元国王)カナダ出身、2000年METでデビュ-しMET常連。

 

プッチ-ニ(1858-1924)は「トゥ-ランドット」の第3幕リューの自刃の場面迄書き終えたところで喉頭がんの手術後合併症で死亡。

残されたスケッチをもとに友人のフランコ・アルファ-ノが完成させた。

リューの自刃はプッチ-ニの妻の誤解で自殺した使用人がモデルとされる。

中国風の曲想の中にドビュッシ-風の管弦楽が一瞬現れたのは確認したが当時の先駆的な音楽の技法を管弦楽の中に発見するのは面白そうだ。

 

第1幕

開始早々からオケは気合が入った演奏。

舞台はダッタン王子と王の役は中央アジアのような服装、脇役はベネチアの仮面みたいな黒い面を付けている葬儀の装束があったり中国系の仮面を付け剣を手にしている太極拳の舞踊集団、背後にはキリスト教会の回廊に潜むカトリック僧侶みたいな合唱団。世界の人々が一堂に国際的な唐の都に会したかのよう。

・ジョン・レリエ(元ダッタン国王)、ラングワナシャ(リュー),ジェイドエ(カラフ)が一同再開を喜びあう場面で3人とも好調な出来だったのでひとまず安心した。

 

・ラングワナシャ:リューのアリア「お聞き下さい、王子様」Signore, ascolta 

アフリカ系特有の高音の声質の華やかさは魅力的。音程は安定し声量も充分。2月に来日した同じアフリカ系のプリティ・イェンデと比較すると声の輝きが不足し艶消しのマットな声質だった。

・レリエ:カラフのアリア「泣くな、リュー」Non piangere, Liù 

声量を抑え気味に感じたが声には輝きと声量があり歌唱力も文句ない。

 

第2幕

フンデリング:トゥーランドットのアリア「この宮殿の中で」In questa Reggia 

急遽代役で心配したが声量は充分、声のとおりが良い迫力のある熱唱。パワ-全開で飛ばし過ぎで声がつぶれそうで心配したが第3幕では少し声がかすれ気味だったが最後は元に復帰。

フンデリングはトゥーランドットの声の強さと硬い声質は役に合っているが更に冷たい声質なら文句なし。

 

フンデリングとレリエ:トゥーランドットとカラフの二重唱 3つの謎解きの場 

中盤の山場を二人とも発声と音程は安定し声量が充分、歌唱力もあり大満足。

ピンのハンソン・ユに比べ、パン:アレッド・ホールとポン:マイケル・ギブソンの歌唱力と声量が不足。声質がそれぞれ異なり少し統一性が不足した。

 

第3幕

・レリエ:カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」Nessun dorma 

このオペラで最も有名な曲、割にサラッと歌ったが声質、声量、歌唱力は問題なく良かった。聴かせどころの声を張り上げ音を決めた。

 

・リューのアリア「心に秘めた大きな愛です」Tanto amore, segreto 

・リューのアリア「氷のような姫君の心も」Tu che di gel sei cinta 

ラングワナシャの胸を打つ上手い歌唱、会場からは涙が出そうな咳払いが聴こえた。

 

・レリエ(カラフ)とフンデリング(トゥーランドット)の2重唱 「死の姫君!」Principessa di morte! からラスト

レリエとフンデリング共、声量は大きくなりフルパワ-に近い。歌唱は絶叫とならず余裕を感じさせた。

 

パッパーノが『トゥーランドット』をオーケストラ・ピットで振ったのは2023年春だそうだが手慣れた指揮。

ロイヤル・オペラハウス管と歌手を完璧にコントロ-ルしていた。

 

ロイヤル・オペラハウス管は渋めの落ち着いたブリティッシュサウンドでメロディ-は独特のイギリス風の歌い方をする。

 

演出:開幕前からカーテンは上がって深紅の吹き流しは美しい。

美術:バックはキリスト教会の内部のように荘厳な雰囲気をもたらしていた。皇帝アルトゥムはキリスト教とも仏教とも取れる光背を背に玉座に座る。姫の謎解きの求婚に失敗し首をはねられた王子たちは模造した仮面として床に置かれグロテスクではない。

衣装:様々な異国風の衣装は見ていて楽しい。現代風の安上がりな洋服を着ていないのが良い。

照明:各幕のラストは照明が一瞬で消され演奏の心地良い余韻の記憶が一瞬で冷凍保存されるかのよう。

振付:仮面を付けたピン、パン、ポンはイタリア16世紀頃に流行した「コメディア・デラルテ」の即興演劇を模倣したコミカルな動きで上品に笑わせる。脇役が太極拳を取り入れたゆっくりした舞踊はオペラの進行とは関係性はないようだが古代の中国文化を意識させる。

 

座席は4階R1列舞台側D席。5階R舞台側と違い舞台全部が見えた。オケ奏者が見え楽器の音もわかりやすい。

音が大きいと響きが分離せず飽和気味となった。

 

客は満席に近い、男女高齢者が多いが若い男女も見かける。最高12万円の席はどんな人が座っているのだろう。隣の若い女性は初めてのオペラで高いD席で感動したとのこと。次は来年のウィ-ン国立歌劇場の「バラの騎士」をお奨めした。

 

楽屋口から出てサインをするパッパ-ノ

 

 

登場人物

トゥ-ランドット姫(中国の王女):マイダ・フンデリング 

カラフ(ダッタン国王子):ブライアン・ジェイド

リュ-(ダッタン国王家の召使):マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

ティム-ル(ダッタン元国王):ジョン・レリエ

ピン:ハンソン・ユ

パン:アレッド・ホール

ポン:マイケル・ギブソン

皇帝アルトゥム:アレクサンダ-・クラヴェッツ

官吏:ブレイズ・マラバ

 

演出:アンドレイ・セルバン

再演演出:ジャック・ファーネス

美術・衣裳:サリー・ジェイコブス

照明:F. ミッチェル・ダナ

振付:ケイト・フラット

コレオロジスト:タティアナ・ノヴァエス・コエーリョ