2024年6月21日午後2時 すみだトリフォニ-ホール 錦糸町

すみだクラシックへの扉 #24 <JAZZとラテンへの陶酔>

ヤデル・ビニャミーニ指揮 新日本フィルハーモニ-交響楽団

ピアノ:小曽根 真 

曲目前半

・ガーシュウィン(ベネット編):交響的絵画『ポーギーとベス』より 

・ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー ピアノ:小曽根 真 

アンコ-ル

・小曽根 真 作曲 MO'S NAP(モーツァルトの昼寝)

後半

・マルケス:ダンソン・ヌメロ・ドス(Danzón No. 2)

・ガーシュウィン:子守歌

・ガーシュウィン:パリのアメリカ人

アンコ-ル

・ポンキエルリ 「ジョコンダ」~時の踊り

 

 

指揮者 ヤデル・ビニャミーニ

 

ガーシュウィン(1898-1937)はアメリカ,ニュ-ヨ-ク生まれ。

父親はロシア、母親はベラル-シのユダヤ系移民。

15歳で高校中退し楽譜販売店で働く、1919年歌曲「スワニ-」がヒット。

ポピュラ-ソングのヒット作曲家として有名だったがクラシック音楽にも興味を持つ。

1937年脳腫瘍の手術後に38歳で死亡。

 

・ガーシュウィン(ベネット編):交響的絵画『ポーギーとベス』より 

オ-ケストレ-ションはオペラ『ポーギーとベス』からベネットが抜粋し編曲。

ガーシュウィンのメロディ-の美しさが光りジャズの要素を取り入れたポピュラ-な管弦楽曲。

ビニャミーニの指揮はリズム感が良く、美しいメロディ-は聴いていて楽しめた。

 

・ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー 

この曲はガーシュウィンが初めに2台ピアノの曲を作曲。

ガーシュウィンが管弦楽は作曲技術がなかったのでファーディ・グロ-フェが編曲。

グロ-フェの特徴的な冒頭のクラリネットなど木管、金管の特性を生かした編曲は非常に上手い。

 

ポール・ホワイトマン・オーケストラというビッグ・バンドに近い楽団が1924年初演。

ニュ-ヨ-ク・ヘラルド・トリビュ-ン紙の予告ではジャズ協奏曲の新作と紹介。

 

当初は「アメリカン・ラプソディ-」という曲名を兄の提案で「ラプソディ・イン・ブルー」とした。

ブル-は画家ホイッスラ-(1834-1903)の色彩と音楽用語を掛けた絵画のタイトルを真似た。 

 

ピアノの小曽根 真は1961年生まれ63歳。1983年バークリ-音楽大学ジャズ作・編曲科を首席で卒業。

NYフィル、シカゴ響、NDRエルプ・フィルと共演、日本人ピアニストとしては内田光子と並びトップレベルの活躍。

 

小曽根 真のピアノ技巧は最近の20代のクラシックの日本人ピアニスト反田恭平、亀井聖矢と比較すると低音パートの音量は小さく指の回りは劣る。

持ち味はジャズ系のスタッカ-ト気味のタッチの響きが明瞭で美しく音楽の解釈はよく考えられ深みがある。

聴いていて気難しくない楽しい音楽は魅力的。

 

ラプソディ・イン・ブルーの聴かせどころは終盤の長いピアノのカデンツァ、ジャズやクラシックのエッセンスが詰まっていて説得力があった。

 

指揮ビニャミーニ(1976-)はイタリア、クレ-マ出身で元クラリネット奏者、オペラの指揮者として2018年ローマ歌劇場「椿姫」で来日、現在デトロイト交響楽団音楽監督。

要所で小曽根 真の方を見ながら新日本フィルの演奏を指揮し合わせるのが上手い。

ゆったりした演奏ではなくイタリア人のメリハリを利かせたシャ-プなリズム感の演奏だった。

 

2019年NYフィルとの共演 小曽根 真のピアノは今回の演奏より迫力がある。

Gershwin: Rhapsody in Blue - Makoto Ozone, NY Philharmonic (youtube.com)

 

アンコ-ル

・小曽根 真 作曲 MO'S NAP(モーツァルトの昼寝)

モ-ツァルトが父親の存在を感じながら昼寝をしているという仮想の曲。

ピアノは脇役的な存在でクラリネットが主役。

クラリネット奏者が舞台前に出てきてリラックスした演奏は楽しめた。

 

・マルケス:ダンソン・ヌメロ・ドス(Danzón No. 2)

メキシコ人作曲家マルケス(1950-)のダンソンは19世紀末にキュ-バで生まれた舞曲をマルケスがオーケストラに編曲。

6/15同曲を井上道義指揮/新日本フィルで聴いたばかりだが金管楽器と打楽器がラテンミュ-ジックで華々しく活躍するリズムのノリの良い印象とは違いしっとりした雰囲気になっていた。

鋭いリズム感のビニャミーニの指揮に合わせて新日本フィルの演奏者は余裕がなく大騒ぎのようなラテン音楽にはならなかったようだ。

 

・ガーシュウィン:子守歌

1919から20年頃に作曲家エドワ-ド・キレ-ニから弦楽四重奏作曲の訓練として「子守歌」が作曲された。

今回は弦楽5部版だが弦楽四重奏の演奏が入っている。

ボロディンの 弦楽四重奏曲 第2番 第3楽章(ノクターン)に似た雰囲気、ロシア的なメロディ-が美しい曲。

 

・ガーシュウィン:パリのアメリカ人 1928年作

「パリに訪れたアメリカ人が街を散策し、様々な街のノイズに耳を傾け、フランスの雰囲気に魅せられてゆく印象を描写する」のが目的とガーシュウィンは語った。

パリから持ち帰ったタクシ-のクラクションの音が取り入れられているがベルクのオペラ「ヴォツェック」に魅了され複雑な和音が使われている。

ビニャミーニの指揮はパリの優雅な雰囲気はないが明るくシャ-プなリズム感の演奏。

 

アンコ-ル

・ポンキエルリ 「ジョコンダ」~時の踊り

イタリア出身のビニャミーニには一番得意な曲のようだった。

 

全体的なビニャミーニの指揮の特徴はシャ-プなリズム感で明るい響き。

イタリア人だが楽観的な陽気さはそれほどはなく緻密な印象を受けた。

指揮は手の位置が高く演奏者から拍の頭と曲想がわかりやすそうな手の振りは上手い指揮技術。

日本の若手指揮者はお手本として見習っても良さそうだ。

日本のオケの演奏にしては珍しくppで音は痩せずffでも音の濁りは少なく、正確な音量でppのある分、音の強さの段階が多い演奏。

 

新日本フィルの演奏は弦楽器セクションがハモり、木管、金管奏者とも音程はほぼ正確、金管は時々限界スレスレの余裕のない響き、打楽器奏者は指揮者の振りに少しノリが遅れて聴こえたがオケ全体の響きには透明感がありいつもより実力が一段上になった印象。

 

座席は2階 2列右 高齢割のS席だがすみだクラシックへの扉シリ-ズは4,000円未満で安い。

3階の天井が近いので少し圧迫感はあるが音ははっきり聴こえ残響音は美しい。

 

チケットは完売。中高年の男女が半々だが小曽根 真ファンの女性から盛大な拍手があった。