2024年6月14日午後7時 武蔵野市民文化会館小ホール
チャイコフスキ-弦楽四重奏曲
第1番、第2番、第3番
ダネル弦楽四重奏曲
第1ヴァイオリン:マルク・ダネル
第2ヴァイオリン:ジル・ミレ
ヴィオラ:ヴラッド・ボグダナス
チェロ:ヨヴァン・マルコヴィッチ
左からミレ、ボグダナス、マルコヴィッチ、ダネル
左から 第1ヴァイオリン:ダネル、ヴィオラ:ボグダナス、チェロ:マルコヴィッチ
右から 第2ヴァイオリン:ミレ、マルコヴィッチ、ボグダナス、ダネル
1991年ベルギ-で結成、ヴィオラ:ヴラッド・ボグダナスは加入して19年になる。
今回曲目は異なるがサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024に参加した。
ボロディン弦楽四重奏団から指導を受け1992年ショスタコーヴィチ弦楽四重奏の全曲演奏でデビュ-、2005年に初来日。
チェンバーミュージック・ガーデン 2024からのインタビュ-の引用。
チェロ:ヨヴァン・マルコヴィッチの発言要旨。
・弦楽四重奏が「1つ」であると同時に「4つ」でもある。
・「1つ」なのは、方向性を共有し、呼吸を合わせ、統一感のある音を出し、共通のアーティキュレーションで作品を表現しなければいけない。
・「4つ」なのは、メンバーそれぞれが唯一無二だから。その個性がなければ、弦楽四重奏団の出す音には何の特徴もなくなる。弦楽四重奏とは調和とまとまり、かつ4人の対話。
・ステージ上で創造性を発揮することこそが一番の目標
・西欧とロシアの文化や伝統を融合させ、感情を前面に押し出すスタイルが、ダネル弦楽四重奏団独自のアイデンティティ。
・チャイコフスキ-弦楽四重奏曲第1番 1871年作
演奏開始から男性4人の演奏の音量が大きくインパクトが強い。
第1ヴァイオリン:マルク・ダネルのヴァイオリンの演奏表現は男性的な豪快さ、感情を前面に押し出すが繊細さもある。
有名な第2楽章『アンダンテ・カンタ-ビレ』はロシアのほのぼのとした民謡的な雰囲気より普遍的な歌謡性が特徴。
・チャイコフスキ-弦楽四重奏曲第2番 1874年作
晩年チャイコフスキ-の発言から
「もし私の生涯で、真に情感がこもった、私という人間の内面から湧き出たものをなにか作曲したとするならば、それはこの四重奏の最初の楽章だ」と断言。
聴いてみてダネル弦楽四重奏曲はチャイコフスキ-の言葉を裏付けるようにメロディ-は特に美しくはないがベ-ト-ベンのような構成力の高い第1楽章の演奏だった。
チャイコフスキ-はベ-ト-ベンの偉大な弦楽四重奏曲を理想としていたのだろう。
第3楽章はオペラ「エフゲニー・オネーギン」1878年作のレンスキー役「わが青春は遠く過ぎ去り」の悲痛な情感に似て印象に残る名曲。
・チャイコフスキ-弦楽四重奏曲第3番 1876年作
モスクワ音楽院の同僚の名ヴァイオリニストでチャイコフスキ-弦楽四重奏曲第1番と第2番初演のラウプ享年43歳の死を追悼した曲。チャイコフスキ-は1840年生まれで当時35歳。
ピアニストのニコライ・ルビンシテインを追悼したピアノ3重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出」1882年作は悲しみの表現が大げさすぎるのでしっとりした弦楽四重奏曲第3番の追悼曲の方が心に沁みてくる。
ダネル弦楽四重奏曲 は情感は深いがボロディン弦楽四重奏団のスラブ的な暗さはない。
全曲の印象としては
『アンダンテ・カンタ-ビレ』は突出して有名だがどの曲も聴かせどころがありチャイコフスキ-が大作曲家と感じさせる曲だった。
演奏の印象は
ダネル弦楽四重奏曲のコンセプトは先のチェロ:ヨヴァン・マルコヴィッチの発言を裏付ける。
・第1ヴァイオリンが全体の曲の進行のかじ取りになっていて他の3名がサポ-ト。
・個々の演奏のパートでは第2ヴァイオリン、ヴィオラ奏者も主張がはっきりしている。
・チェロのリズム感が良く演奏全体の支えになっていた。
・4名で調和が取れた演奏になっていた。
・4名ともリズム感が鋭く、曲のフレ-ズの引き渡しの反応が俊敏。
・上品な弦楽四重奏曲というより第1ヴァイオリンのダネルは音量が大きくロックバンドのリード・ギタ-のように表現力が個性的でリズム感が鋭く譜面台を足でひっくり返しそうなくらい激しい演奏だった。
・ダネル弦楽四重奏団の4つの弦楽器の響きは豊かで楽器の音は統一され演奏中の擦る際の雑音は極力抑えられている。
・ヴァイオリンの響きが金属的な高音ではない。最高音のE線について第2ヴァイオリンのジル・ミレにサイン会で確認したらスティ-ル弦ではなくガット弦を使用とのこと。
座席は完売。客は中高年の男性が多い。
座席は10列目の中央付近。
武蔵野市民文化会館小ホールではNHKBSの番組でも演奏会が収録される。
残響音はクセがなく楽器の音ははっきり聴こえ明瞭度は高い。