2024年6月9日午後1時30分 サントリ-大ホ-ル
プッチ-ニ没後100周年 スペシャル・プログラム
テノ-ル・ソロ コンサ-ト
歌手 ロベルト・アラ-ニャ
指揮 三ツ橋敬子
管弦楽 東京フィルハ-モニ-交響楽団
ジャコモ・プッチ-ニ(1858-1924)は『トスカ』の舞台となったイタリア・ルッカ生まれ。
美しく覚えやすい歌が多いのが名曲になっている秘訣だがセンチメンタルな点では好き嫌いの評価が分かれる。
ロベルト・アラ-ニャは1963年6月7日フランス生まれ、両親はイタリア・シチリア島出身
10代からパリのナイトクラブでポップスを歌い始め、独学でオペラ歌手へ転向。
今回はリリック・テノールの役からリリコ・スピント・テノール役の歌唱を披露。
曲目前半 (オケの曲は省略)
1.オペラ『妖精ヴィッリ』より「幸せにみちたあの日々」
2.オペラ『エドガール』より「快楽の宴、ガラスのような眼をしたキメラ」
ストラデゥバリウスのヴァイオリンの名器のような柔らかくてふくよかなアラ-ニャの声は歌唱力が上手く聴き惚れる。
パワ-全開せず控えめだが声を高く張り上げるところは強い歌声。
しかし声の音域が低いパートでは少し声がかすれ気味、声が出にくそうで完全なコンディションではなさそうだ。
3.オペラ『マノン・レスコー』より「栗色、金髪の美人の中で」
4.オペラ『マノン・レスコー』より「何とすばらしい美人」
5.オペラ『マノン・レスコー』より「ご覧下さい、狂った僕を」
次第に調子が上がり始め声の音域が低いパートから高い声を張り上げるパート迄、声はほぼパワ-全開で出始める。
最後の「ご覧下さい、狂った僕を」はフルパワ-に近く完璧な出来ばえ、このあとの曲で声が持つか心配になる。
曲目後半 (オケの曲は省略)
6.オペラ『ラ・ボエーム』より「冷たい手を」
心配したとおり、また少し声がかすれ始めるが歌唱は相変わらず上手い。
高い声を強く張り上げるところで音程が乱れないのはさすが。
7.オペラ『トスカ』より「星は光りぬ」
今回のプログラムの中でも有名な曲だが、昨年来日したローマ歌劇場のヴィットリオ・グリゴーロの歌唱と比較すると声の力強さは物足りないがそれでも歌唱の水準は高い。
8.オペラ『蝶々夫人』より「さらば、愛の家」
蝶々さんがずっと待っていたことを知ったピンカ-トンの後悔の念が上手く表現されていた。
9.オペラ『西部の娘』より「やがて来る自由の日」
「彼女には自分が生きて自由の身になり、遠くに行ったと言ってほしい」と懇願する歌だが少し声のかすれが強くなってきたが歌唱は役の雰囲気に合って上手い。
10.オペラ『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」
後半の最後に再びパワ-全開で声のかすれも気にならないほど完璧に近い歌唱になった。
前半と後半の最後の聴かせどころをコントロ-ルができていてマネジメントが上手い。
アンコ-ル
アンコ-ル『ツバメ』とアナウンスされるが大きな花束が昨日61歳の誕生日祝いで渡され、アラ-ニャは満面の微笑。
11.歌劇『ツバメ』より「パリ!それは欲望の町」
12.歌劇『外套』より「お前の言うとおりだ」
13.歌劇『トゥ-ランドット』より「泣くな、リュ-」
アンコ-ルから次第に情感の表現力は上回り始め、声は熱を帯びてきた。
14.歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「フィレンツェは花咲く木のように」
最後の力を振り絞ると輝きのある声質にできるのは日頃のボイス・トレ-ニングの賜物だろう。
絶頂期を過ぎた有名な大歌手が衰えた姿を意識させないのはお見事。
今年来日公演したヌッチ、ドミンゴも敬服するが、アラ-ニャは容姿が二人より若く美貌を保って美男俳優のようだった。
東京フィルハ-モニ-交響楽団はベストメンバ-を組んだのかアスミク・グリゴリアンの時とは違って水準が高い。
チェロ、コントラバスの音量が大きく弦楽器パートはいつもより豊かな響きで木管の音が聴こえにくくなるほど。
ホルン、トランペット、トロンボ-ンセクションは男子が多く力強い音で音は安定していた。
コンサ-トマスタ-三浦章宏がオケ全体を統率するかのような力演、チェロのソロも熱演だった。
指揮の三ツ橋敬子がアラ-ニャのノリに合っていないのは日本人と欧州の歌手のリズム感の相違だろう。
ヌッチ公演のイヴァン・チャンパ指揮の方が上手く寄り添っていた。
しかしアラ-ニャの方が途中から指揮の三ツ橋敬子の方を向いて息を合わせ大歌手の片鱗を見せていた。
座席は2階RA 4列 5番のB席。舞台右の2階席。
管弦楽は問題なく聴こえるが、アラ-ニャが指揮の三ツ橋敬子を向くときは2階の舞台右の席では声の高音まで聴こえる。
普通に舞台正面を向くと高音が弱くなる。
チケットの価格は高いが歌手の声を聴くには1階の前列が良いだろう。
観客は9割位、2階左右後方と舞台奥P席に空席。中高年の女性客が多め。