2024年6月2日午後2時 東京芸術劇場 池袋 

第255回芸劇シリ-ズ 

作曲家坂本龍一「その音楽とルーツを今改めて振り返る」

指揮:カーチェン・ウォン

日本フィルハ-モニ-交響楽団

曲目

前半

●ドビュッシ-:夜想曲  合唱:東京音楽大学

●坂本龍一:筝とオーケストラのための協奏曲 筝:遠藤千晶(ちあき)

後半

●坂本龍一:The Last Emperor (映画『ラストエンペラーより』)

●武満 徹:組曲『波の盆』より「フィナ-レ」

●坂本龍一:地中海のテーマ(1992年バルセロナ五輪開会式音楽) 

      ピアノ:中野翔太(しょうた),合唱:東京音楽大学

アンコ-ル

●坂本龍一:Aqua

 

坂本龍一のAquaのスコアを掲げる指揮者カーチェン・ウォン

 

 

坂本龍一:筝とオーケストラのための協奏曲に使用の25弦の筝

会場で配布された小沼純一氏の解説の抜粋

「坂本龍一が影響を受けたドビュッシ-の音楽、敬愛しつつもアンヴィヴァレンツな思いもないわけではなかった武満 徹の音楽を、あわせ、コントラストをつけることで、みえてくるものもあるのではないでしょうか」

「ジャンル横断的に活動し、時代のトレンドやスタイルにも反応・応答しながら創作を続けた坂本龍一は作品一つ一つにおいて何をめざすかを思考=志向していました。」

「一人の音楽家がどういう作品をつくったか、残したか、というだけでなく、広い意味での社会と音楽との相関するさまであり、個々の作品を耳にする人それぞれの音楽的記憶にはたらいてくる刺激、ではないでしょうか。」

 

●ドビュッシ-:夜想曲

<雲>、<祭り>,<シレ-ヌ>の組曲。

坂本龍一は<雲>のゆったりした時間の流れと微細な変化について口にしていたという。小沼純一氏がこの曲を選曲した理由とのこと。

<雲>

空の雲がゆっくりと流れては消えていくさまをクラリネット、バス-ンで雲を表現し流れては消えていくさまを弱音器を付けた弦楽器、フル-トで展開させイングリッシュホルンで「汽船のサイレン」でアクセントをつけガムラン音楽の東洋的なエキゾチックさを加えた。

坂本龍一が憧れる自然の描写を管弦楽の響きの特性を上手く利用した作曲技術。

<祭り>

あとから演奏した坂本龍一:「地中海のテーマ」のバルセロナオリンピック用にこの曲から一部を着想したのではないかと思われる色彩的な表現の曲だった。

<シレ-ヌ>

「地中海のテーマ」の中間部分の雰囲気とギリシャ神話などに出てくる甘美な歌声で船乗りを惑わす生き物を表す女声のヴォカリ-ズの使い方を坂本龍一:「地中海のテーマ」のラスト部分の作曲に参考にしたように感じた。

 

●坂本龍一:筝とオーケストラのための協奏曲 筝 :遠藤千晶(ちあき) 2010年作

武満徹の邦楽器の尺八と琵琶の実質的な協奏曲の名曲『 ノヴェンバー・ステップス 』を坂本龍一は強く意識していて箏の協奏曲を作曲するチャンスが到来したようだ。

坂本龍一は「4つの定常状態、あるいは人生」と記しそれぞれが異なりながら1楽章は冬、2楽章は春、3楽章は夏、4楽章は秋---を歩む。純然たるクラシック音楽に近い曲。

それだけにこの曲の水準は高く、1楽章の冬の開始の背景の伴奏はトーンクラスタ-を利用したかのようなグレ-のモノト-ンのグラデ-ションで箏の複雑さが少ない音色に彩りを添えていた。

武満徹:「鳥は星形の庭に降りる」のような強い孤独感のような表現力はなく平凡な一般人の孤独の情感に近い。

2楽章は春のイメ-ジに近く生命力が湧き上がってくるような息吹を感じる佳曲。

3楽章は夏のイメ-ジを感じるミニマル・ミュ-ジックのような管弦楽の伴奏、最後に筝の独奏で締めくくる。

4楽章は秋だが終曲はまるで冬に近い晩秋のイメ-ジ。もはや現代音楽の雰囲気はないわかりやすい情感の曲。

この楽章は誰にでも理解しやすい半面、今のクラシック音楽の世界ではポピュラ-系の曲とみなされてしまう。

そうするとクラシック音楽の演奏会では曲が演奏されなくなってしまう弱点となる。

武満徹の理解されなくても我が道を行くスタイルだと理解が深い指揮者から絶大な支持を得て演奏会に取り上げられる。

 

●坂本龍一:The Last Emperor (映画『ラストエンペラーより』)

1987年日本人初のアカデミ-賞を受賞した曲で坂本龍一の代表作。

1983年「戦場のメリ-クリスマス」の音楽と共に坂本龍一の作曲家としての頂点に思える。

少なくともY.M.Oのテクノポップと映画音楽では成功をおさめた。

 

●武満 徹:組曲『波の盆』より「フィナ-レ」

坂本龍一の曲から比較するとメロディ-のオーケストレ-ションが上手く聴こえた。さらに水準が高く聴こえるのがドビュッシ-の「夜想曲」だった。

 

●坂本龍一:地中海のテーマ(1992年バルセロナ五輪開会式音楽) 

今回の演奏の曲では現代音楽に近い。

ジョン・アダムスの "Absolute Jest"の域に近い力作、しかし名曲といわれるには何か革新性や新規性が足りない。

 

アンコ-ル

●坂本龍一:Aqua

坂本龍一の追悼に相応しい、しみじみとした不要な飾りのない名曲。

角野隼人

Ryuichi Sakamoto - Aqua (youtube.com)

人気が頂点だった俳優坂本龍一主演の映画「戦場のメリ-クリスマス」の曲を最後に演奏してほしかった。

 

座席は2階RB A列23番、舞台横2階右のバルコニ-席。視覚的にはコントラバス、ティンパニ-が見えない。

今回音量が小さい筝がはっきり聴こえたのが良かった。

残響音は美しく聴こえた。

 

観客はほぼ満員で亡くなった坂本龍一の人気の高さがうかがえた。