2024年06月01日(土)14:00 東京オペラシティシリーズ

東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第139回

指揮:沼尻竜典

曲目

・ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 op.21 ピアノ:エリック・ルー

ピアノ アンコ-ル ショパン:前奏曲から「雨だれ」 

・グレツキ:交響曲 第3番 op.36「悲歌のシンフォニー」 ソプラノ:砂川涼子

左奥 指揮:沼尻竜典、左手前 ソプラノ:砂川涼子

 

ピアノ:エリック・ルー

 

ソプラノ:砂川涼子

 

・ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 op.21 ピアノ:エリック・ルー

エリック・ルーは1997年12月15日USA出身、2015年ショパン国際ピアノコンクールに17歳で4位。

2018年リーズ国際ピアノ・コンクール1位。ダン・タイ・ソンに師事。

ショパンの協奏曲では情緒に流されないクールな演奏。

ミスは1ケ所あったがペダリングを深くし弾けない箇所の誤魔化しはしていない。

年齢に似合わない落ち着いた演奏、タッチは粒が揃っていて明瞭で美しい。

将来大物の雰囲気が漂うので今後が楽しみ。演奏後サイン会は中高年の女性が多い。

 

ピアノ アンコ-ル ショパン:前奏曲から「雨だれ」

開始の部分と風雨の激しい部分は極端に曲想の差をつけていないが、最後はリタルダンドで徐々にテンポを落とし情感豊かに演奏。

使用ピアノはスタインウエイ。

 

・グレツキ:交響曲 第3番 op.36「悲歌のシンフォニー」 ソプラノ:砂川涼子

グレツキ(1933-2010)は世界的に有名なペンデレツキ(1933-2020)と同じ1933年ポーランド生まれ。

1976年作曲後、1993年イギリスのFM局で第2楽章が繰り返し流され人気となりその後世界的に大ヒットし20世紀の現代音楽で100万枚以上の記録的な売り上げ。

日本でも話題になりCDを買って今も手元にある。

 

第1楽章は15世紀ポーランドの「聖十字架修道院の哀歌」で聖母マリアのキリストとの別れの悲しみを歌った。

第2楽章は1944年ポーランドのザコパネのナチス収容所の独房で18歳のユダヤ人の女性の言葉。

「お母さま、どうか泣かないでください。天のいと清らかな女王様、どうかいつも私を助けて下さい。アヴェ・マリア」

第3楽章は武装蜂起で殺されたらしい息子への母の嘆きの言葉。

曲想は全楽章悲痛そのもので第3楽章にやっと慰めのかすかな光が見えて終える。

 

ソプラノ:砂川涼子はか弱い女性の悲運を可憐な美声で歌っていた。

会場で配布された歌詞で曲を理解しようとしたがポーランド語なのか砂川涼子の歌唱を追えなかったので曲の理解は不十分、自宅でCDを聴き直す。

 

グレツキは前衛音楽から理解しやすい曲に転向したとはいえ20世紀の現代音楽に関心がない人には理解しにくいだろう。

会場では演奏中睡魔に襲われている人も多く、隣席の高齢の女性で眠れなかった人は演奏後に感想を聴くと『もう散々』と怒っていた。

ショパン「雨だれ」のあとで良い気分のはずの隣の女性に演奏前にこの曲は最初から最後まで暗い曲で明るい曲はないですと説明した効果は全くなかった。

 

では駄作かというと正反対で名曲、演奏終了後に現代音楽ファンと思われるおじさん達からブラボ-の複数の声。

第1楽章は手持ちCDの音の不鮮明で分離が悪いデイヴィット・ジンマン指揮ロンドン・シンフォニエッタ ドーン・アップショウ(ソプラノ)とは全く比較にならないほど東響の演奏を聴くと曲の構成がわかる。

 

CDのライナ-・ノート1992年当時34歳の白石美雪氏の第1楽章の解説によると『冒頭でコントラバスが低くうごめくように奏でる24小節のメロディ-が定旋律で、これが繰り返されるたびに低い方からコントラバスⅠ,チェロⅡ,チェロⅠ,ヴィオラ・・・といった順に新たな声部が1小節遅れの5度のカノンとして導入される。エオリア旋法の憂いのある響きを持つメロディが10声部のカノンで重ねられると、まるでクラスタ-のような音の帯となり,内声部は常に動いていながらひとつの雰囲気に包まれて、あたかも時間がとまったような感じになる。』

 

CDで聴いてよくわからなかった『クラスタ-のような音の帯』『内声部は常に動いていながらひとつの雰囲気に包まれて、あたかも時間がとまったような感じ』について生の演奏ではっきり認識できた。

 

白石美雪氏の第2楽章の解説は『ピアノとハープ、弦合奏による器楽の導入部が天国の憧れを思わせるのに対して、「お母さま」と語りかける1回目の歌はまったく異なる音階となり、暗く重い苦悩に閉ざされている。だが2回目に「お母さま」と呼びかけるとき、冒頭の器楽の音型がよみがえってすうっと神聖な世界がひらける。』

 

白石美雪氏の第3楽章の解説は長いので途中から転載『せめてもの息子の安らかな眠りを願う神への言葉が歌われるとき、恩寵に満ちたイ長調の主和音が反復され、永遠の平和が約束されたように思われる。だがその刹那にもう一度「どうしてわたしの息子を殺したの」という一節が悲しい響きでよみがえる。最後にふたたびイ長調の主和音に帰結するのだが、今度は慰めを思わせる、はるかに優しい表情となっている。』

家でCDを聴くと解説には合点がゆく。

 

白石美雪氏のオリジナルの部分は良くわからないが34歳で外国の文献を多数読んで書いたとしても凄いしスコアで分析したら更に凄い。『ジョン・ケージ 混沌ではなくアナーキー』で2010年吉田秀和賞受賞。

 

第3楽章はペルト(1935-)の「鏡の中の鏡」1979年作のようにピアノは教会の鐘のような響きとして使われていた。

ピアノの教会の鐘のような響きが何故両者似ているのかはわからない。

ペルトと古い聖歌などを引用する作曲技法は似ているがペルトの純粋な響きと違い、グレツキのこの曲は殆どが重苦しい響きになっている。

 

デイヴィット・ジンマン指揮ロンドン・シンフォニエッタ ドーン・アップショウ(ソプラノ)

Henryk Górecki : Symphony No.3 Opus 36 / Upshaw, Zinman 1991 (youtube.com)

 

 

第3楽章の東響の響きはビブラ-トをわずかしかかけないのでオルガンの響きのように聴こえた。

現代音楽は実体のない下手に聴こえる演奏が多いが単調ではあるものの響きはとてもきれいだった。

東響の演奏は木管楽器の各奏者の音は調和が取れていて響きがきれいだった。

 

沼尻竜典氏(1964-)は1994年この曲の日本初演を新星日本交響楽団で初演。

デイヴィット・ジンマン指揮ロンドン・シンフォニエッタに比べるとテンポの揺らしが少なくクレッシェンド、デクレッシェンドの強弱の差が少なく抑揚が不足し単調に聴こえた。

 

しかし丁寧な指揮はショパン:ピアノ協奏曲 第2番でも発揮していてエリック・ルーの演奏に正確に合わせていてブザンソン国際指揮者コンク-ルで優勝した実績はうかがえた。

 

座席は2階 R1列17番A席でバルコニ-右最前列で指揮者の真横、サントリ-ホ-ルではRA席相当。

残響音は美しく楽器の音はリアルに聴こえる。ハ-プの音が小さく聴こえた。

 

観客は6割位、1階の後方左右に空席が多い。

定期会員半数近く、エリック・ル-の演奏を聴きに来た女性、現代音楽を聴きに来た中高年男性の3パタ-ンか?

 

6/3エリック・ル-の武蔵野市民文化会館小ホール(425席)の演奏会に行く予定、2500円の演奏会の格安チケットは完売。