2024年2月23日午後2時 東京芸術劇場 池袋

東京都交響楽団第995回定期演奏会Cシリ-ズ

【インバル・都響 第3次マ-ラ-シリ-ズ1】

指揮/エリアフ・インバル

コンサートマスター:矢部達哉

マ-ラ-:交響曲第10番 クック第3稿補筆版

 

第1楽章と第3楽章はほぼ演奏可能なほどスコアが完成していたが第2、4、5楽章は4段、5段の略式スコアのみ。

第2楽章から第5楽章までの補筆はショスタ-コ-ヴィッチ、シェ-ンベルクに依頼したが断られている。

補筆完成版でよく演奏されているのはイギリスの音楽学者デリック・クックの第3稿、今回のインバルは第3稿第1版を採用。

インバルが語るマーラー10番(クック版) Inbal on Mahler's 10th-Cooke Version (youtube.com)

 

第1楽章は神秘的な雰囲気で始まりマーラ-の9番終楽章の雰囲気が引き継がれている。

 

突然金管の9音から構成される不協和音の合奏が異様な雰囲気で登場しトランペットのAの音が不協和音を鎮める。

ここがこの交響曲の初めの山場で一度聴いたら悲痛な叫びに似たこのパートは記憶に残る。

 

以降第2楽章はスケルツォ、第3楽章は天国にも行けず地獄に落ちるほどでもない人々が清めを受ける煉獄の世界。

 

第4楽章は「悪魔が私を踊りに誘う」と略式スコア書かれたグロテスクな音楽。後半バスドラムが頻繁に爆発的な音で叩かれ身がたじろぐ。マ-ラ-がニュ-ヨ-クで滞在した時に聴いた葬列の太鼓がモチ-フ。

 

第5楽章は終結部のスコアに「「君のために生き! 君のために死ぬ! アルムシ(アルマの愛称)!」」が書かれている。

この曲の作曲時に若妻のアルマの浮気が発覚し悩んだマーラ-が精神科医フロイドの治療を受けている。

曲の最後はマーラ-の妻への愛の告白で終える。

この部分の曲想は第5交響曲の第4楽章アダ-ジェットに似ているが管楽器を加え甘美ながら悲痛なメロディ-の名曲。

 

インバルはマ-ラ-の情感を良く表現しマーラ-のスペシャリストの片鱗を見せた熱演。

インバルの演奏はゆったりした大きく手を振る指揮で遅めのテンポ、高齢だが老人を感じさせない生気に溢れている。

何故かというと若いオケの演奏者が共感して演奏しているから。

 

インバルは88歳、指揮後に疲れた素振りはみせず、大きな音を出すには指揮を激しく動かす必要がないことを証明している。

この辺りを勘違いしている指揮者は多い。

 

カ-ル・ベームの振りは小さかったが指揮者の音楽感にオケ団員から心底信頼され共感されているかが重要。

 

指揮を見ていると指揮の振りとオケが同期せずオケが自発的に演奏しているケースはままある。

日本の有名オケで指揮者の右手がコンサ-トマスタ-には隠れて見えなそうだったがコンサ-トマスタ-がものともせず演奏していた。入りがわからない場合N響のマロ氏によると気合を入れて演奏するとTVで話していた。

 

日本の有名オケで指揮の振りとは関係なく劇的で壮大なフィナ-レを創り上げる3楽団を最近目にし、オケ団員の指揮者への大人の対応とプロの能力の高さに感心した。

指揮開始や指揮中に客席まで届くうめき声を発する常任指揮者がいるがオケは注意しないようだ。

 

反対に有名オケの団員が松本で特別編成されるオケに参加し入りが団員バラバラでどこで入っていいのか悩んで他の団員に相談したというTV番組を見たことがある。

 

N響、読響でソロ・ヴィオラ奏者も務めた店村 眞積(たなむら まづみ)75歳の都響退団前の最終演奏。

(画像下の花束を持つ奏者)

 

座席は2階-E列 28番、2階センターの前から5列目S席。

この場所はすべての楽器音が聴こえ残響音は短めだが響きは美しい良席。

 

観客は1、2階は満席。3階は不明。