井口奈己監督の世界観や独特の撮影スタイルや構図は一見ただの撮りっぱなしのように見えても、そこにはかなりの愛情の深さがあるからこその場面づくりと方法論なのだなと思うところもありました。「人のセックスを笑うな」での独特の映像感覚は今でも忘れられないほどでした。特に駅前のロータリーの場面を長回し手法の撮影で見せていたのが今でも心に強く残っていました。独自路線だなと。

 

松山ケンイチ演じるみるめや、永作博美演じるユリや、蒼井優演じるえんちゃんなどの登場人物のキャラクターも独自の雰囲気で印象的でした。「ニシノユキヒコの恋と冒険」では第88回キネマ旬報ベスト・テンにおける日本映画ベスト・テンの第10位になるほどの飛躍ぶりでかなり驚いた覚えがありました。7人の女性の描き方と、それに絡む竹野内豊演じるニシノユキヒコの人物像がかなり好感であり愛情にあふれた感じを綺麗な映像で巧妙に描いてあった印象でした。

 

この映画でも独特なテンポと感覚で描いてあったことに対して強烈な印象を受けたことが心にありました。さらに森岡未帆や、川井優作や、秋谷悠太や、北口美愛や、細海魚や、新居昭乃らのキャスティングがかなりいい味を出していてよかったなと思いました。手書きの場面説明などのテロップがとてもアットホームでよかったなと。モテ男が電話に出ずに女の子を困らせていて、たまたま見つかってしまった時に訪問先の女性を彼女だと偽って相手を傷つけてしまうシチュエーションはかなり驚異的で衝撃的な場面でした。

 

クリスマス関係の商品で欲しい商品が売り切れで困っていたところに、自分がやっと手に入れたにもかかわらず、お金ももらわずに相手にあっさりと渡してしまうところにも井口奈己監督らしさがいっぱい表現されてて感動的でした。いつもの街角でどこからともなくメロディが聴こえてくるという愛と優しさにあふれた設定もかなり心に響くものでした。素直なリアクションをうまく見せてたなと。

 

何気ない日常のなかで偶然が次々重なるというのは一見あり得なさそうでも意外とあり得るものだろうと思わせる感じで、そういった面で井口奈己監督は鋭いところをついているなと思いました。偶然の積み重ねによって人の思いをつないでいくという井口奈己監督らしい部分が、監督の真骨頂かなと感じました。人の良さがついつい出てしまうという部分はかなり大きなことだなと感じました。

 

あらゆる意味で短い本編の中でも井口奈己監督らしさ満載のほのぼの映画の佳作と実感です。 

 

835点 偶然だけど必然でもある世の中の流れが重要ポイント 8.3点