ピエール瀧は色々な思いと覚悟をもってこの役に取り組んだなとわかるものでした。俳優である小林且弥の初監督作品であり、小林且弥が「凶悪」で共演したピエール瀧を主役に持ってきたといった決断部分にもかなり凄まじさを感じるものでした。2005年公開映画の「スクールデイズ」で小林且弥が若者役を演じていてとても印象的でした。映画の舞台挨拶で見たこともあり、当時の小林且弥の発言といでたちがものすごく思い出されました。

 

ついに監督になったのだなと感じる部分も多かったです。福島県の港町を舞台という事もあり、東日本大震災から13年たってもまだまだこういった思いと出来事は続いていくのだなと心に突き刺さる部分もありました。オープニングの船の上の場面からもやはりこの映画における海の存在の大きさがうかがわれてグッドでした。震災で妻を亡くしたピエール瀧演じる井口真吾の複雑な気持ち部分がうまく表現されてるなと思いました。

 

バーカウンターの女性にセクハラまがいをしたりする行為もある意味井口真吾の心の重い部分を取り払うための気丈に振舞っているところかなと。震災で家族を亡くした父と娘の関係性部分や、つらい気持ち部分もうまく描かれてて心に沁みました。大切な人ときちんとお別れできないまま立ち止まってしまった父のやるせない気持ち、父親が娘である自分の気づかい行為を家の中ですることに対して気づいてもらえない娘の複雑な心情部分もかなりダイレクトに伝わってきました。

 

井口真吾の娘の井口奈生役をの栗林藍希が好演しててよかったなと。東日本大震災で妻を亡くした井口真吾が個人で散骨業を営みながらも、水産加工場で働く娘の井口奈生とふたりで細々と暮らしている生活ぶりもかなりリアルだったなと。漁師の清一役の渡辺哲もかなり存在感あってグッドでした。高齢者や生活困窮者を相手に散骨を請け負っている井口真吾のもとに、世間を震撼させた通り魔殺人事件の犯人の遺骨が持ち込まれるという衝撃部分。

 

実際はその加害者の弟が母方の姓を名乗って遺骨を持ってきたにもかかわらず、残念ながら気づかないで免許証のコピーだけもらって引き受けてしまったといういきさつ部分もかなり起こりうるものかもと。足立智充演じる江田がそのことを井口真吾に話して強く迫っていくところはかなりゾクゾクしました。通り魔殺人事件の被害者の家族女性から海に犯人の骨をまかないでと言われ、さらに江田たちがそれを撮影してる場面もかなり強烈で心苦しかったです。

 

散骨業者の仕事を請け負っているからこそのこういった出来事だなと納得のできるものでした。苦しい選択を迫られた井口真吾の下した加害者散骨決断も、残された加害者の家族を思っての決断という部分ではとても納得できましたし、水平線の向こうの事を語ってる部分も印象的でした。江田に殺人犯の弟を責めろと言われても井口真吾が責めきれなかった部分がすべてかも知れません。妻を亡くしたからこそわかる気持ちだったかもと。あらゆる意味でこうした散骨業者の仕事でもこうした決断を迫られるのだなと考えさせられる東日本大震災関連映画衝撃作と実感です。 

 

878点 苦悩を乗り越えて散骨する男の決断力と勇気が壮絶ポイント 8.7点