思った以上に映画的であり、もっとドラマ的なのかという予想をかなり外してきたなと思いました。「スパイの妻」劇場版を映画館で観た時ぐらいの完成度の高さへの驚きがありました。大正時代の新たな時代の流れ部分を描いた映画に興味があったため、この映画で取り上げられた部分はかなりドンピシャだったなと思いました。稲垣吾郎演じる辻潤と吉高由里子演じる伊藤野枝との、学生時代のエピソード場面からかなり入り込めました。

 

セリフやタイミングもかなり考えられて練られてるのが良くわかりました。学生でありながらも既に祝言を挙げている伊藤野枝の苦悩ぶりもかなりストレートに伝わって来てよかったです。許婚に結婚を断ったがために、乱暴にされた挙句に呼び戻されそうになる展開もわかりやすくてグッドでした。福岡県の田舎ので貧しく育った伊藤野枝が思い切って上京する決断部分もいい感じでした。

 

古い因習などを打破していき、大正時代に結婚制度や社会道徳に真正面から異議を申し立てる行動を伊藤野枝が起こそうとした部分がかなりわかりやすくてストレートに描かれていてさすがだなと。第55回吉川英治文学賞を受賞した村山由佳の小説にも、かなり興味がわいてきました。男尊女卑の風潮に異を唱えた平塚らいてうに感銘を受けた伊藤野枝が、平塚らいてうに手紙を書く場面もかなり心が温まる雰囲気でよかったです。

 

女流文学集団の青鞜社に参加し、伊藤野枝がみなに押し出されるように演説をしたらそれが大好評だったといった展開もかなり入り込めて心に沁みました。平塚らいてうを演じた松下奈緒の美しいオーラもかなり心地よかったです。吉高由里子が伊藤野枝役をかなり自分のものとして、弱いところを見せつつも、負けじと立ち向かっていく様子部分もかなり感じる部分が多かったです。

 

伊藤野枝が大杉栄と知り合ってからは、かなり三角関係などの自由恋愛部分で翻弄されていたのもよくわかりました。大正時代の街の様子や社会的な部分もうまく見せてて素晴らしかったです。関東大震災がらみで東京や神奈川が混乱に陥るとして戒厳令が発せられていた背景も絡めた社会情勢部分は既に「福田村事件」を観ていたためにかなりつかめるものがありましたが、やはり相当弾圧が厳しかったのだなということが痛いほどストレートに伝わってきました。

 

常に主張をしつつも、自分らしさを失わないヒロイン像はとても共感できるものでした。1923年9月16日に発生した甘粕事件によって、伊藤野枝が大杉栄らと共に殺害される結末もかなりショッキングでした。28歳という若さで亡くなったというのは本当に残念でありませんでした。あらゆる意味で日本の婦人解放運動家としての伊藤野枝を堂々と描き切った意欲作映画と実感です。 
 

890点 女性活動家の行動と生き方にとても共感ポイント 8.9点