ビクトル・エリセ監督の新作映画というだけでもかなりこの作品には注目が集まったと思いました。「ミツバチのささやき」と「エル・スール」で強烈な印象を残しただけに、その間には「マルメロの陽光」などありましたが新作情報がとても気になってました。「エル・スール」での並木道での場面やロウソクの場面などは今でも心に残ってますし、父親が帰ってこないと悟ってしまった少女の目を通してスペインの歴史を描いたという静かながらも強烈なインパクトのある映画でした。

 

ビクトル・エリセ監督のテーマにはスペインの内戦がとても重くのしかかっていると思いました。そして今回の映画のテーマでもある失踪という部分も、ビクトル・エリセ監督はかなり意識していたのではと思いました。「エル・スール」で父親が映画館で内戦の頃に別れたかつての恋人の事を見入るところも含めて今回の映画にも影響していたなと感じました。この映画の全体的な背景がもっと理解できたならば、かなり違ってきたのだろうと思うところもありました。

 

1947年の木々に囲まれた田舎の邸宅での高齢の男の依頼主があらゆる事情もあって人探しが難航していると話し出すところからかなり強烈なものを感じました。悲しみにくれている男が中国人との間に生まれた娘を探してほしいと依頼するところなども、過去のビクトル・エリセ監督作品につながるものを感じました。母親から学んだしぐさを身につけている娘の写真を依頼主の男が相手の男性に渡すといった展開も含めて色々と思うところがありました。


人の捜索はその手のプロに本来は頼むべきものだが、いざ特殊な状況になるとそういった専門家は想像以上に役に立たない上に金額も高額だと言ってる様子にもかなりゾクゾクしました。マノロ・ソロがミゲル・ガライ役を演じ、フリオ・アレナスとガルデル役をホセ・コロナドが演じ、アナ・アレナス役をアナ・トレントが演じてたのも大きかったなと思いました。また「ミツバチのささやき」で当時5歳にして主役を務めたアナ・トレントがフリオ・アナレスの娘のアナ・アナレス役を演じたのも大きかったなと思いました。

 

映画監督ミゲル・ガライがメガホンをとる映画「別れのまなざし」の撮影中に、主演俳優でありますフリオ・アレナスが突然の失踪を遂げたというところも含め、生そのものがミステリーのような仕立て方もさすがだなと。失踪から22年が過ぎたある日、ミゲル・ガライのもとにかつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が舞い込むという展開もかなりゾクゾクしました。番組収録場面などもうまく見せていたなと。ミゲル・ガライはフリオ・アナレス失踪以後は映画業界から離れており、アルメリアの海岸沿いでトレーラーハウス暮らしをしている事実部分もかなりショッキングではありました。

 

映画監督ミゲル・ガライはビクトル・エリセ監督自身そのもであり、フリオ・アレナスは何かの象徴かと思わせるものでした。ラストの依頼通りの娘を連れてきたところもとてもショッキングでした。あらゆる意味でビクトル・エリセ監督自身の人生そのものの集大成衝撃映画と実感です。 

 

866点 失踪したくなるような心の奥深さ部分が重要ポイント 8.6点