東京都知事選挙が先日終わりました。SNSを駆使した候補が事前予想以上の得票をしたことで、インターネットを活用した政治活動が、今後より多くの注目を集めることとなりそうです。
デジタル技術は日々私たちに新たな可能性を提供してくれますが、同時に考えなければならないのがリスクについてです。現在日本では世界各地からのサイバー攻撃が激化しており、直近では出版・動画配信大手のKADOKAWA(旧・角川書店)を標的にしたサイバー攻撃が続いています。また標的には国家も含まれており、サイバー攻撃によって威嚇したり、デマ情報を流して他国に干渉したりすることは、もはや日常茶飯事となっています。外務省のシステムが中国のサイバー攻撃を受け、大規模な情報漏えいが起きた事案が実際に発生しています。
自衛隊も体制づくりを急いでおり、2022年には「サイバー防衛隊」を新設しました。昨年度は600人ほどの体制でしたが、2027年度末までに陸海空の自衛隊人員も合わせて4000人に増やす計画を立てています。しかし、計画通りに体制強化が進んだとしても、国防を担うサイバー人材の数は海外と比べて見劣りしています。米国は2010年にサイバー軍を立ち上げ、6200人規模で活動しています。その他、中国は3万人の攻撃部隊を持ち、北朝鮮には6800人の専門人材がいるとされています。
また、採用の門戸を広げても実際に人を集めるには待遇面の課題が残ります。サイバー関連人材は需要の高まりによって、現在は海外を含めて破格の待遇で雇われており、年間で数千万円から1億円規模の報酬が支払われる場合もあるとされています。他方、一般的な幹部自衛官として入隊した場合、初任給は24万円ほどです。これでは民間との人材獲得競争に勝てるはずがありません。このような現状を踏まえ、防衛省はサイバー人材の最高年収を自衛隊トップの統合幕僚長と同じ2300万円ほどに設定しました。しかしやはり一般企業と比べて見劣りしてしまうのが実情だと考えます。
勿論「国家に対する使命感があれば、お金の部分は乗り越えられるはずだ」という意見もあるかと思います。しかし現実問題、自衛隊においては一般隊員の確保と充足率の向上も喫緊の課題となっています。「衣食足りて礼節を知る」ではありませんが、先立つものを今の若者に示すことが重要だと考えます。増え続ける社会保険料や物価高など、現代社会では出費するお金が年々高まっています。だからこそ入ってくるお金、すなわち処遇を改善することが、サイバー人材も一般隊員の確保にも求められているのだと理解しています。どれだけ高性能のコンピュータやミサイルを有していたとしても、それを扱える人材がいなければ意味がありません。人への投資は防衛政策においても求められています。