トランプ政権が国別の貿易赤字を参考に、独自に設けた相互関税が発動しました。貿易が不均衡だと見なす約60カ国に税率を上乗せし、日本は計24%と査定されました。(その後アメリカとの交渉に応じる場合には、相互関税の上乗せ分の賦課を90日間延期すると発表される)

 米国の歴史をたどれば、高関税で世界恐慌の決定打となった1930年のスムート・ホーリー法が思い出されます。当時の米国は貿易黒字を計上していたにもかかわらず2万品目以上の輸入品に関税を課しました。結果は報復関税の応酬となり米国の輸出入は半分以下に落ち込み、世界貿易の大幅な減少とデフレを招きました。

 私たちは、これまでの歴史を踏まえ今を生きています。貿易においては、関税競争や経済のブロック化が第2次世界大戦の引き金を引いたとの反省から、貿易自由化に舵を切り、ブレトンウッズ体制や世界貿易機関(WTO)の仕組みを育んで参りました。そのような経緯を前提とするならば、今回の追加関税を同盟国である日本に対して課すことは極めて不当です。また、世界全体の供給網に与える影響も甚大であり、自由貿易体制は歴史上最大の正念場を迎えています。

 やるべきことは多々あります。まずは米国に対する交渉体制の早期確立です。石破総理は初動対応として、日米首脳電話会談を実施しました。しかし時間は30分にも満たず(通訳を介するので実質15分程度か)、その後トランプ氏のSNSでは日本批判の投稿が発信されました。我が国の基本的な立場をしっかりと伝えることができたのか、極めて疑問です。日米関税交渉の担当閣僚は側近の赤澤大臣となりました。総理と同郷だとしても、同じミスをすることは許されません。日本国として総力を上げて交渉に備えるべきです。

 同時に行うべきことは、国内企業への支援です。特に中小企業の資金繰り支援を通じたセーフティネットを、まずは確実に張り巡らす必要があります。経済産業省は「米国関税対策本部」を設置するとともに、特別相談窓口の設置や資金繰り支援等を実施することを公表しました。これら公的支援の利用を促すことと並行して、大手メーカーが関税上昇分のコストを、下請け企業に押し付けていないか監視することも肝要であると認識しています。

 国際的には、米国以外の国との多国間の結び付きがより重要になります。米中対立を軸に多極化が進む国際社会において、日本は自国の立場と利益をどう守り、同時に安定した国際秩序の構築にどう貢献していくのかが問われています。そのためには、経済的自由や法の支配、民主主義といった基本的価値を共有する国々との連携を強化し、自由貿易体制の再構築と持続可能な経済ルールづくりに主体的に関わっていく姿勢が不可欠です。日本は米国抜きの「環太平洋経済連携協定(CPTPP)」を主導した実績があります。この事実は、日本の技術力・制度設計力・人材といった面における独自の強みを体現してます。今こそ日本は「価値ある国際社会の共同設計者」として、その影響力を発揮すべき時です。