最近の夜は、録画したNHKの連続テレビ小説『虎に翼』を見ることが楽しみになっています。日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子氏の生涯をモデルにした作品です。昭和の初め、世の中の理不尽や性別をはじめとした社会格差に抗おうとする主人公たちの姿に勇気をもらっています。
 先日、作品の中で「選択的夫婦別姓」について取り上げられる回がありました。家父長制度を守るべきとする教授に対し、主人公の寅子は夫や兄、父も亡くしたことを明かした上で、「前の民法で言う『家という庇護の傘の下において守られてきた』という部分が確かにあるのだと思います」と前置きし「今も昔も思っております。あけすけに申せば、大きなお世話であると──」と言い切りました。多くの女性が頷いている姿が目に浮かびました。
 時期を同じくして、経団連から「選択的夫婦別姓」の導入を求める提言が公表されました。経済界の意見を取りまとめる経団連が、家族法制の見直しの提言に踏み込むのは異例です。この種の提言に乗り出したことの持つ重みと意味を、政治は極めて真剣に捉える必要があります。
 夫婦同姓が制度化されたのは、長い歴史から見るとつい最近、1898年に明治民法が施行されてからのことです。しかも、夫婦が同姓を名乗るよう法律で義務づけている国は、今や世界で日本だけです。
 現状を肯定する人たちの代表的な声として、「夫婦が同じ姓だからこそ家族の一体感が保てる」との意見があります。まさしく「大きなお世話」です。私は、同姓か別姓かと家族の一体感は関係がないと思っています。姓が同じでも、バラバラな家族だってあります。海外で別姓が認められているから、家族の絆が壊れたとも聞きません。
 例えば、夫婦が同姓でなければ家族の一体感が保てないというカップルであれば、同姓を選べば良いと思います。しかし、別姓を望むカップルがいれば、その願いが否定されるべきではないことも当然の論理ではないでしょうか。現代社会において、国家が特定の価値観を押し付けてはならないはずです。だからこそ、姓については個人や家族が自由に選択できるようにすべきだと考えます。
 夫婦同姓は結婚の障壁にもなっています。先日、同世代の男性から駅前で相談を受けました。交際している女性から「姓を変えないといけないから結婚できない」と言われたそうです。異次元の少子化対策を訴えるのであれば、速やかに選択的夫婦別姓を実現すべきです。
 なお岸田総理は、自民党内では選択的夫婦別姓に前向きな議員の一人でした。2021年に党内の有志でつくられた「選択的夫婦別姓氏制度を早期に実現する議連」の呼びかけ人でもありました。党のトップになった途端に慎重派へと変わる姿を目にすると、自民党の中で考えをアップデートすることが、いかに困難であるかが分かります。少子化対策という観点でも、政権交代が求められています。