私たちが普段何気なく触れているデジタル機器ですが、これらの多くは海外製品で成り立っています。止まらない円安の理由として、最も注目されるのは各国との金利差ですが、足元ではそれ以外の構造要因があるのではないかと議論になっています。その1つとして挙げられているのが「デジタル赤字」です。デジタル関係の支払いは定期的に発生するものであり、恒常的な円安要因となっています。なぜなら海外企業に利用料を支払うためには持っている円を売ってドルに換える必要があるためです。
 デジタル赤字が拡大した背景には、海外のビッグテックが提供するサービスの利用拡大があります。例えば、デジタル関連収支に含まれるオペレーティングシステム分野(著作権など使用料)では、PC向けではMicrosoft、スマートフォン向けではApple、Googleが圧倒的なシェアを有しています。日本と海外とのお金のやりとりを記録する国際収支統計によると、デジタル関連の国際収支は2023年に5.5兆円の赤字となり、直近10年間で赤字額は2.5倍に膨らみました。円安のプラス要素としてはインバウンドがありますが、旅行収支黒字は3.6兆円でしたのでマイナスを相殺できていません。
 海外製のデジタルサービスは日本社会ですでに浸透しており、全てを国産に置き換えるという施策は現実的ではありません。ではどうするべきか。私は、日本が目指すべきは「デジタル赤字の解消」ではなく「日本の強みをデジタルで強化すること」であると考えます。海外事業者のデジタルサービスを活用し、付加価値の高い製品・サービスを提供することができれば、デジタル赤字が拡大したとしても、デジタル基盤分野以外の貿易で稼ぐことが可能となります。そのためには、日本が強みを持つ分野とデジタルを掛け合わせることが重要となります。例えば、自動車や半導体製造装置を含む機械類などでは、日本は高い競争力を有しています。総じて言えば、デジタルを手段として活用し、既存の商品サービスをより魅力的なものに改善する姿勢が肝要だと理解しています。
 加えて適切な課税も実施すべきです。デジタル課税を巡ってはOECD加盟国を含む約140カ国が2021年10月に導入に合意し、条約締結に向けた議論を進めています。収益を上げた国で税金を納めず、税金がかからない国または税金の安い国で納税するのはおかしいという国際的な課税の不公平を解消するための是正策です。発効されると自国に支店や工場など物理的な拠点を持たない企業に課税ができるようになります。合意時には2023年の発行を目指していましたが、2年間延期し2025年の発効を目指すこととなっています。100以上の国をまとめるのは一筋縄ではいかないでしょうが、このような時こそ、日本が今まで培ってきた諸外国との関係性を活用し議論をリードすべきです。