2024年4月に改定される介護報酬が公表されました。全体としては1.59%の引き上げとなりましたが、物足りません。賃金としては24年度に2.5%のベースアップを目指すとされていますが、今年の春闘は労使ともに主要企業平均で昨年の3.6%を上回る賃上げを見据えており、収入差が更に広がりかねません。
 特に問題なのが、訪問介護に関する報酬が軒並み引き下げられたことです。訪問サービスは自宅での介護を支える要であり、サービスがあるからこそ、介護離職をせずに働ける子や家族が数多く存在しています。今後もニーズが増えていく中、現実を軽視するかのような基本料の減額は理解に苦しみます。そもそも「介護を社会で引き受ける」という介護保険制度の理念と矛盾しています。自宅での介護は、住み慣れた地域で最後まで生活できる「地域包括ケア」の土台そのものだからです。
 昨年に休廃業・倒産した介護事業者の内訳では、訪問介護をおこなっていた事業者が最多となっており、利益の出ない事業から手を引く動きも加速しています。人手不足に加えて経営難で見切りをつける事業所が相次げば、高齢者がサービスを受けられない「介護難民」となる恐れもあり、事態は深刻です。
 ヘルパーの方は賃金水準が低く、全産業に比べ月約7万円の開きがあります。また、登録型ヘルパーの場合は、担当する高齢者が入院したり亡くなったりすると、突然仕事がなくなってしまう等、収入が安定しにくいという課題もあります。このような背景もあり、訪問介護員の有効求人倍率は15倍(令和4年度)と突出しており、ヘルパー確保は極めて困難な状況にあります。
 介護分野の担い手不足は、私たちが思う以上に厳しい状況です。親や自分自身も、いつかは介護サービスを享受する可能性が高く、だからこそ当事者として考えることが重要です。ただでさえ、団塊世代が75歳以上になる25年度に約32万人の人材不足が見込まれています。その一方で22年には、離職した人の数が働き始めた人を初めて上回りました。「制度あっても人員なし」の状況に陥りかねない現状を改善しなければなりません。
 処遇改善のためには財源の確保が必要であり、各種予防施策を通じた費用抑制が有効だと考えます。川崎市では「高齢者の要介護度が高まると報酬が高くなる」という現行制度から「介護事業者が高齢者の要介護度を改善させると報酬が高くなる」という仕組みを一部試験導入したところ、参加された方の要介護度改善率が全国平均の約2倍になった旨が報告されています。「高齢者を元気にしよう」と尽力する事業者へ成果報酬を付与し、正の動機づけを作ることで、ご家族の安心も大きくなることでしょう。私はこのような新しい発想を積極的に取り入れたいと考えています。「健康寿命を伸ばし、家族の負担を減らし、結果として介護費用の伸びを抑制する」ことを通じて、持続可能な社会保障財政を目指します。