難しい出来事が多く発生している2024年ですが、明るいニュースが舞い込みました。宇宙航空研究開発機構 (JAXA)が小型月着陸実証機(SLIM)の月面への降下を実施し、軟着陸に成功したことを発表しました。これにより、日本は旧ソ連、アメリカ、中国、インドに続いて史上5カ国目の無人月面着陸の達成国となりました。着陸自体が快挙ですが、特筆すべきなのがその精度です。目標地点から約55mの位置に着陸し、目標地点への誤差を100m以内に抑える高精度な「ピンポイント着陸」に世界で初めて成功しました。従来の探査機だと、5〜15km程度のズレが出るそうです。今回の精度がどれほどすごいことなのかというと、「自動車に乗って高速道路を猛スピードで走る→その状態からフルブレーキをかけて、狙った1台分の駐車スペースに一発でピタリと停止する」という、天才的なドライバーによる神業のような技術とのことです。世界中が驚いたことでしょう。
 この世界初の技術実証は「降りられるところに降りる」から「降りたいところに降りる」という月面探査の新しい時代を切り拓く技術基盤になると予測されています。日本は強力なカードを手に入れました。
 2008年、宇宙利用を防衛目的に広げることを盛り込んだ「宇宙基本法」の策定を主導したのが野田元総理です。宇宙庁構想は、霞ケ関における縦割り行政改革の一環として、翌年に提案されました。いわば米航空宇宙局(NASA)の日本版で、各省庁の宇宙部門や予算を一元化するほか、JAXAの統合も構想に盛り込んでいましたが、いまだに実現していません。私は今こそ宇宙庁を設置し、宇宙開発により一層日本が力を注ぐべきだと考えています。
 何故なら日本には「地の利」があるためです。搭載する衛星にもよりますが、ロケットは地球の自転速度を有効利用できるよう、東向きに打ち上げられることが一般的です。従ってロケットを打ち上げる射場は東側が開けている場所である必要があります。そのため陸続きの欧州は、東側に大きな海を持たないため、欧州宇宙機関は南米に位置するフランス領ギアナまでロケットを輸送して打ち上げています。一方、島国で東側に太平洋が広がる日本にはロケットの打ち上げに適した射場が複数あり、大きなメリットです。
 また、自動車産業で発展した技術の蓄積を活用できることも強みです。国内の航空機産業は、戦後航空機の研究や製造を禁止されていたため、欧米に遅れをとりました。しかし、航空機産業で培った先端技術を持った企業や人材が参入した自動車産業は、一大産業へと発展を遂げたのです。この流れは現在にも続いており、自動車産業から生まれたサプライチェーンはロケットの開発や製造でも有効に機能しています。
 世界の宇宙産業の市場規模はこれから年率5%で成長し続け、2050年には200兆円市場になると予測されています。無限の可能性を持つ宇宙政策は、国家を挙げて取り組むべき人類全体のフロンティアです。