先日、妻から「衝撃的な一言」を言われました。


きっかけは、家族でアンパンマンミュージアムに行ったことなのですが……


よく「幼い子もアンパンマンだけは分かる」と言われますが本当にその通りで、最近の2歳の娘の寝起きの言葉は「おはよう」ではなく

「アンマンパン、見ゆ!」

になっており、
ただ、上の子は幼いころにもらったアンパンマンがタンバリンを叩く玩具が「不気味で怖い」となって以来アンパンマンをずっと見ておらず、(ちなみにこの子は「鬼滅の刃」も怖くて観ておらず、ただ保育園の友達の話にはついていきたいので「中高一貫!!キメツ学園物語」のみをコンプリート鑑賞しており、それはそれで話がかみ合わないんじゃないかと心配しているのですが)


――話を戻しますと、

2人の娘が唯一、一緒に楽しんで観れるのがアンパンマンで普段からアニメを観ているので

休日にアンパンマンミュージアムに行こうということになったのです。

アンパンマンミュージアムで、子どもたちはアンパンマンの顔を工作したり、水遊びをしたり、終始楽しそうにしておりまして

「ジャムおじさんのパン工場」でアンパンマンの顔をしたアンパンやメロンパンナのメロンパンなどをお土産に買って帰りました。

子どもたちは久しぶりに一日中体を動かして遊んだので寝かしつけはほとんど手こずらず、

娘たちが寝息を立て始めた後、僕と妻はリビングで子どもたちが食べ切れなかった分のアンパンマンのパンを食べていたのですが、

ふと、僕の頭にある疑問が思い浮かび、独り言のように言葉を漏らしました。




「この状態を『やなせたかし』が見たらどう思うんだろうね?」




――話すと少し長くなるのですが、僕は、やなせたかし先生を大いに尊敬しておりまして(以下、敬称略)、それは、やなせたかしがアンパンマンを連載し始めたのが54歳でアニメが始まったのが69歳と高齢になってからも素晴らしい作品を生み出し続けたこともあるのですが、


彼の素晴らしさは何といっても、アンパンマンを作ったコンセプトにあります。


彼の時代。ヒーローといえば、スーパーマンや仮面ライダー、ウルトラマンなどが全盛時で、派手な格好で悪者と戦うのが一般的でしたが、

そんなヒーローに対してやなせは疑問を抱きます。

みんなが拍手喝さいを送っているヒーローは見た目は派手でカッコイイが、戦いの最中に街を破壊したりして、本当の意味で街の人たち、弱き人たちのことを考えていないのではないか?

それは、果たして「ヒーロー」と呼べるのだろうか?

真のヒーローとは、必殺技を使ったり巨大化したりして悪を倒すのではなく、

本当に困った人のために自分の身を削ることを惜しまず、たとえそれが格好悪かったり、無様に見えたとしても、人を助けることを最優先するのではないか?

こうしたコンセプトから、生まれたのがアンパンマンであり、

彼は生前のインタビューでこのことについて何度も語っているのですが

驚くべきは、1976年に発売されたアンパンマンの1巻の巻末で、このコンセプトを文章にしていることです。




 

子ども向け絵本のあとがきに、このコンセプトをオブラートなしでぶっこんで来たのを読んだときは本当に衝撃を受けました。


ところで――。

今、僕の手の中にある、アンパンマンの顔をしたアンパンは、1個330円です。

もちろん可愛らしいヴィジュアルと隅々までぎっしりと餡が入れられた作りは、誠実なキャラクター商品だと言えます。


しかし、コンセプトに照らし合わせてみると、どうか?


やなせたかしが、もし、現状のアンパンマンのあり方を見たとしたら諸手を上げて賛成するのだろうか――。


……そういう内容のことをリビングで話始めたところ、妻が不機嫌そうな顔で言いました。

「じゃあ、アンパンマンミュージアムがダメだってこと? 子どもたちはあんなに楽しそうにしていたのに?」


いやいやそうじゃないんだ、と僕は首を横に振って続けました。


アンパンマンミュージアムは素晴らしいし、世の中に必要な場所だと思う。


でもね、


アンパンマンの顔をしたアンパンがあの場所でしか手に入らない、しかも330円するという世界は、



やなせたかしの抱いた志――やなせたか志――とは言えないんじゃないだろうか。



たとえば、「やなせたか志」は、こんな世界だと思う。


もし、この日本のどこかに、生活が苦しくて満足にご飯が食べられない状況になっている人がいたとしても、


その人が歩いて行ける場所に必ずジャムおじさんのパン工場があり、そこではアンパンマンの顔をしたアンパンがタダでもらえ――


いや、違う。


もし、その人が歩いてパン工場に行くことができなかったとしても


お腹がすいた、苦しい……と思いながら、もう立ち上がる気力すら失われていたとしても



そ の ア ン パ ン は 無 料 で 届 け ら れ る



なぜなら、まさにそれが、アンパンマン第1巻における、アンパンマンの登場シーンだからだ!


***

決して誰の助けも来ない場所――その、象徴としての「ひろい さばくの まんなか」。

行き倒れた旅人も、まさかこんな場所に助けが来るとは思っていない。だから、遠い空からやってくる「彼」を一目見てこう思うのだ。

 




「鳥か?」


いや、それは、鳥じゃない。

彼の背にあるのは、羽じゃなくてマントなのだ。

そして、そのマントはツギハギだらけ。

自分を着飾ったりはしない。そんな余裕があったら人を助ける。与えてしまう。

だから彼は、ボロボロのマントをたなびかせてやって来るのだ。

そんな彼を見て最初は不安がっていた旅人も、アンパンマンの顔を一口食べるとあまりのおいしさに

「ちょっとだけじゃなくて、たくさん たべました」。


その結果――




見よ。この、見るも無残な顔を。姿を。
 

苦しんでいる人に差し出しすぎて大半が失われた顔は、かろうじて笑顔であることが分かる程度だ。

その姿は、美しくないかもしれない。みすぼらしさすら、漂っているかもしれない。


だが、これこそが!

 

これこそが、真のヒーローの姿なのだ!!!



――という話を、リビングの本棚からアンパンマンの1巻を取り出して、妻の前で広げて熱弁したところ、


妻が一言、言いました。






 

 







「よく……ぶか……い?」

一瞬何を言われたのか分からず頭が真っ白になったのですが、妻の言葉は続きました。


アンパンマンは今みたいなアニメや映画になったからたくさんの子どもたちが見れるようになったわけだし


アンパンマンミュージアムに来てる子どもたちはみんな楽しそうにしていたし


それを、「今のアンパンマンはここがダメだ」「ここが足りない」って否定してるのは、


単にあんたが「欲深い」からでしょ。


「困っている人を助ける」とか「志」とか言ってるけど、


それ、結局、あんたの欲じゃん。


やなせたかしは、あんたみたいに欲深くないんだよ。


だから、自分が世を去ったあともアンパンマンがたくさんの子どもたちに愛されているのを見て喜んでるし、アンパンマンを広めてくれている人にも感謝してるよ。


だから、やなせたかしは


「やなせたか志」なんかじゃない




「やなせたか至」

なんだよ!

(完全な状態に「至っている」という意味で)





――この言葉を聞いた瞬間、正直、「離婚」の2文字が頭をよぎりましたが、



よくよく考えてみると、確かにそのとおりで、



「世のため人のため」と言いながら、


現状に不満を感じて何かを変えようとしているのは自分の欲望以外の何ものでもないので、


「世界を良くする」


とは、


「世界を欲する」



なのだと気づかされました。



というか、それ以前に、アンパンマンを巡って夫婦喧嘩している時点で



やなせたかしを語る資格は一切ない



と気づかされました。

 

 

 

 

 

 


■現代の「やなせたか志」はこちらです



「やなせたか志」か「やなせたか至」かは皆さんの中でも議論が分かれるところだと思いますが、もし現代社会に「やなせたか志」があるとしたら一番近いのが「こども宅食」だと思います。
「こども食堂」などの取り組みが全国規模で広がっていますが、生活に苦しい人が行く所だという偏見があり(実際の「こども食堂」は、高齢者と子どもたちの交流の場になっていたり、学習支援や食育がある場所もあったり、すごく多様で素晴らしい場所になっていますので、もし近所にあったらぜひ参加してみてください)、本当に困っている人たちに助けが届いていない可能性があるということで、食べ物やお菓子をこちらから自宅に届けてしまおう、というまさにアンパンマンの志を持った活動がこども宅食だと感じています(僕も少しだけ協力させていただいております)。ぜひこちらに参加してみてください(あと、万が一にもアンパンマン関係者の方にこのブログが届いたら、ぜひぜひ「こども宅食」や「こども食堂」への協力を検討してみてください。すでに活動されているかもしれませんが、その活動を今のアンパンマンと同じくらいメジャーにしていただけたらうれしいです!よろしくお願い致します!)。




■欲深い本、作りました。



 

妻からの一言を聞くまで、
「我が子に猛勉強させて良い大学に入れて収入が安定した職に就かせる」
という親に極めて否定的でしたが(今も否定的なのですが)、それと、
「我が子が気候変動の影響で苦しまないようにする」

のも同じ「親の欲」から生まれる行動にすぎないと気づかされました。その意味で、世界を良くするとは他の人の持つ欲望との戦いなのですが、僕は極めて欲深い人間なので、気候変動問題への取り組みが大きな動きになるよう様々な道を模索していきたいと思います。よろしくお願いします!



■「最近、地球が暑くてクマってます。」共著者の長沼直樹くんのnoteです。

『天気の子』と『もののけ姫』が教えてくれる、日本人が地球温暖化に無関心な理由

↑このnoteめちゃくちゃ面白いのでぜひ読んでみてください。「環境エンタメ系」という新たなジャンルを切り拓いています!