拝啓 前澤友作さま


先ほどツイッターを見ていたところ、前澤さまが


「世の中、理不尽だなーって思うこと何かありますか?理不尽なことを解決するようなビジネスに挑戦したいので」


とつぶやきかれているのを見て、思わず筆を取ってしまいました。


私自身、今の世の中に理不尽さを感じていることは多々あるのですが、まず最初にお伝えしようと思った理不尽は、私が仮性包茎だということです。


生まれつきルックスに恵まれなかった私は、「せめてイチモツの大きさを」をと考えたわけですが、思春期の私は高額な費用を払うことができず、我が息子を伸び伸びと成長させることができませんでした。

 

「イケメンに生まれなかった男性は包茎手術費用を全額免除し、かつ、全イケメンに対して皮をかぶらせる手術を義務付けるビジネスに挑戦してください」


そんなメッセージを送れば、前澤さまも私の意見に耳を傾けてくれるだろうと確信しておりました。


というのも、メディアなどで前澤さまのお顔の雰囲気を拝見する限り





間違いなくイチモツが小さい




からです。


前澤さまは、世間の心無い人々から「醜く汚いブサイクチビ猿」と罵られているようですが、それはあくまでZOZOの服で股間を隠すことができたから成立する話であり、もし、過去に行われたすべての記者会見に前澤さまが全裸でご登場されていたなら、日本国民は前澤さまの資産の大きさ以上にイチモツの小ささに注目することになり、前澤さまも、露わになった自分の股間を指差しながら、


「昼は『芽』だけど、夜は『剛力』!」


という一発ギャグで一世を風靡していたことでしょう。


というわけで、上記の内容のメッセージを送ろうとしたのですが、そんな私が踏みとどまったのは、それ以上に、前澤さまにお伝えしたい社会の理不尽があったからでした。


その理不尽は――今の世の中はもちろんのこと、人類700万年の歴史において未だ解決できていない最大の理不尽と呼べるものであり、前澤さまとも無関係ではないのですが、


その理不尽とは、


「子どもが親を選べないこと」


具体的に言うと、子どもの貧困問題です。


今や日本で知らぬ者はいない、おそらく去年から今年にかけて日本で最も注目され、また成功を収めた実業家、前澤友作。


そんなあなたは、どのようにして「作られた」のでしょうか?


検索エンジンに

( 前澤友作 経歴 )

と入力してみると、


ご両親は一般の方で、お父さんは企業勤め。

千葉県の市立中学から、早稲田実業高校に進学。

中学時代にバンド活動を始め、高校卒業後にアメリカに遊学。その後、バンド活動と並行してレコードのカタログ販売を始め、カタログ販売が軌道に乗り、起こした会社がZOZOの前身となった。


――もちろん、これらはあくまでネットの情報であり、多少の食い違いはあるでしょう。

また、ネット検索で出てくる表面的な情報の陰には、世の中の人が知らない前澤さんの苦しみや悲しみ、また、圧倒的な努力があったのだと思います。



ただ、一方で、僕の手元にある、「子どもと貧困」(朝日文庫)に登場する、ある少年の生い立ちをご紹介します。


***


Aくんは小学3年生で、母と姉の3人暮らし。

そんなAくんを久しぶりに診察した歯科医師が、Aくんの口内を見て愕然とした。

「10本の乳歯が、全部、根だけになっている」

Aくんの両親は4年前に離婚。Aくんは難病を抱えているので、幼稚園内にいるときも母親も付き添わなければならず働くのが難しい。特別児童扶養手当などで月に約13万円の支援があるが、Aくんの通院に車が必要だと考え生活保護をあきらめ、貯金を切り崩しながら生活をしていたが次第に苦しくなっていった。歯医者の通院は自治体の助成で月500円で受けられるが、窓口でいったん本来の自己負担額を払わなくてはならず、2、3か月後に差額が振り込まれるのを待つ余裕がない。


***


この話を聞いた多くの人からは、


「母親がもっとちゃんとしろよ」とか「そもそも離婚する親が悪い」などという意見が飛び交いそうですが、そこに本質はありません。


ここで重要なのは、ただ、1点。


Aくんが、小学3年生だということです。


小学3年生の子どもの歯が、根だけになっているのです。


知識と経験が乏しく自立することができない幼い子どもの歯が、根だけになっているのです。


僕はこの事実を知ったとき「もし、自分がAくんの環境で生まれていたらどうなっていただろう」と考えさせられました。


――ここで、先ほどの質問に戻りたいのですが、


前澤さんを、今の前澤さんたらしめたものは何でしょうか?


前澤さんの才能でしょうか? 

 

前澤さんの努力でしょうか? 

 

前澤さんの前向きな性格でしょうか?



マジョリティとマイノリティの関係を表すときに使われる、こんなたとえがあります。



U=バケツ   〇=人間  




U 〇〇〇〇〇



バケツの前に人が一列に並んでいて、みんながバケツの中にボールを投げ入れようとしています。


バケツにボールを入れることは社会的な成果を上げることを意味します。

 

バケツにボールを入れる=夢をかなえる 

と言ってもいいでしょう。

そして、もちろん、バケツに近い位置にいる人ほど、ボールを入れることが簡単になります。
特別裕福な家庭に生まれたわけではない前澤さんは、たとえば、このあたりからバケツに向かってボールを投げ始めました。

●=前澤


U 〇〇〇●



前澤さんの前にはすでに何人かいるので、簡単にボールを入れられたわけではありません。しかし前澤さんは夢をあきらめず、試行錯誤を重ねながらボールを投げ続け、たくさんのボールをバケツに入れることができました(入ったボールの中には「紗栄子」と書かれたものもありました)。

そんな自分の生き方を肯定しているからこそ、ツイッターの紹介文には「皆さんが好きなことを仕事にできますように(自分と同じように)」という言葉があるのかもしれません。


でも、先ほどのAくんは、どうでしょう? Aくんは、バケツにボールを入れられるでしょうか?


不可能ではないでしょう。なぜなら、この世界に不可能はないからです。

 

ただ、同時に、極めて、極めて困難であることは間違いありません。


さらに言うと、現代社会では、Aくんがボールを入れられなかったとしても顧みられることはありません。そもそもAくんという存在が「いないもの」として扱われることすらあります。


なぜか。


その理由は、バケツの前に並んでいる人は、「自分の前しか」見ていないからです。

バケツの前に並んでいる人が見ているのは、バケツと、自分とバケツの間に立っている人たちだけなのです。

U 〇〇〇●

 

これは、現代社会を生きる多くの人(マジョリティ)が見ている世界ですが、

現実は、こうです。




U 〇〇〇●〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇……



そして、バケツから離れれば離れるほど、ボールを投げ入れるのは難しくなっていくのです。


アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは養子でした。


では、「実の両親がいなくても努力すれば成功できる」のでしょうか。


違います。里親になってくれた人が彼の才能をつぶさず、成長を助けてくれたのです。


彼は、恵まれていたのです。


前澤さんは、ツイッターで「運がいいだけ」と揶揄されていることに触れていましたが、そして、その言葉には、前澤さんがこれまでに乗り越えてきた悲しみや苦しみを踏まえていない残念さが漂っていますが、それでも、前澤さんを前澤さんたらしめたのは、現在の社会構造から考えると、ほとんどの部分が「運」です。


なぜなら、子どもの人生は親の収入や性格などから多大な影響を受けるにも関わらず、親を選べないからです。


加えて、すべての子どもたちが生まれ持つ輝きを、決して失わせないという社会意思が働いていないからです。



だとするなら、現代社会において「バケツから遠いところに生まれ落ちる」以上に理不尽なことはないでしょう。



そして、もし、この理不尽さに対抗できるものがあるのだとしたら、



それは、バケツから遠いところにいる人の自助努力ではなく、



バケツの近くにいる人たちが勇気を持って後ろを振り返り、後に並ぶ人たちがバケツにボールを入れられるよう支えてあげることなのだと思います。


何よりも、

バケツのはるか後方にいる、か弱い子どもたちには、

前澤さんがツイッターで行った「理不尽だと感じていることを教えてください」という善意ある問いかけすら、届いていません。この問いに答えられる時点で、バケツからそれほど離れた場所にいる人たちではないのかもしれないのです。




次の図をご覧ください。







日本の子どもの貧困に対する援助や意識は、他国に比べてかなり低いという統計が出ています。


その理由は、子どもを取り巻く環境に対して「自己責任」で片づけようとする風潮が強いからだと言われており、結果を出した人(バケツにボールを入れることのできた人)たちが、「自分は努力したから成功したのだ」「成功していない人は努力していないからだ」と考えることが、この理不尽さが放置される温床になってしまっています。



前澤さんがZOZOとYAHOO!の提携を決断した大きな理由の一つは、「月に行くため」だと聞きました。


月を目指す――本当に、素晴らしいことだと思います。


そして、故スティーヴン・ホーキング博士が

「気候変動や人口増加などの要因が地球上での我々の生存を大きく脅かす以上、地球に留まることは人類の絶滅につながる」

と予言したように、人類という種は宇宙を目指さなければならないのかもしれません。


しかし、フロンティアを目指すとき、忘れてはならないのが、ホームの存在です。


ホームがあるからこそ、僕たちは、生まれ、育ち、ときに疲れた心と体を休め、旅立つことができます。


優しくて、温かいホームの存在は、僕たちが全力でフロンティアを目指すことを後押ししてくれます。


だからこそ、僕たちは宇宙以上に、地球というホームに目を向けなければなりません。


そして、子どもにとっての家庭という「人間がはじまるホーム」を何よりも大切にし、もし家庭環境に恵まれない子がいたとするなら、その子どもたちの家庭の代わりとなるような温かいホームを提供しなければなりません。


それは、生まれ育った千葉というホームを愛し、具体的に行動している前澤さん自身も深く感じていることだと信じています。



今から500年前。レオナルド・ダ・ヴィンチがこんな言葉を残しました。



「我々は、天体の動きばかりに注目し、足元の土をおろそかにしてしまう」



前澤友作さんが、月に行くことと同じくらい、子どもの貧困問題に目を向けてもらえることを心よりお願い申し上げます。
 

 

 

――というわけで長々としたメッセージになってしまいましたが、私の希望としましては、前澤さんが先日、銀行で記帳した1000億円のうち100億円を子どもの貧困問題に……

 

とリクエストしようとしたのですが、非常に重要なことを思い出したので99億9990万円でお願いできますでしょうか?

 

 

 


10万円は仮性包茎の手術代として僕がもらいたいんでね。