『サバイバルウェディング』や『難しいことはわかりませんが~』シリーズの著者・大橋くんと、よく一緒にカフェで作業をしているのですが、彼が、先日こんなことを言い出しました。



「水野さん、『松下村塾』の跡地で仕事したらはかどると思うんですよ」



こいつ、狂っとるなと。


吉田松陰は「諸君、狂いたまえ」と言ったけど、

 

 

お前、もう充分狂っとるがなと。


ただ、確かに何でも手に入るこの時代、一番手に入れづらいのがモチベーションですから、


行ってみることにしました、松下村塾へ。


そしたら、もう行きの飛行機からすごいんですよ。

羽田から山口宇部空港まで1時間半弱なんですけど、まあ、はかどりましたよね。1日分くらいの作業しちゃったんじゃないのかな。

そういえば、鉄拳さんと本を作っていたとき下田の温泉宿で合宿してたんですけど、

そのとき、吉田松陰が黒船に乗り込む前に泊まった宿があったので見学しに行ったんですけど、

吉田松陰が身を隠してた宿の2階の天井が低くて狭い部屋で、

(ここで一晩過ごして、イカダみたいな船で黒船に乗り込むってロックだよな)

と興奮したのを思い出しました。

まあ、僕も松陰先生の志を受け継いでいるといいますか、最近、経済力でも中国に抜かれ、日本やばい日本やばいって言われているので、早速、松陰先生の大和魂が俺に乗り移って仕事させたのかな、

そんなことを思いながら、

そして思うだけじゃなく、山口宇部空港に着くなり


「いやあ、飛行機の中ですげー書けたっていうか、松陰先生の大和魂に書か『された』わぁ」


と大橋くんに言ったところ、



「僕、揺れる場所だと書けないんですよ」



と言われ


こいつノリ悪いなぁ

そもそもこのノリのきっかけ作ったのお前だからな、俺はお前が始めたノリに付き合ってるだけだからな

と思ったのですが、宿に到着して夕食の時間になるころには大橋くんも


「松陰先生に書かされました」


と言ってくれたので一安心しました。


こうして大和魂ダダ漏れ状態になった僕たちは、あくる日、

満を持して松下村塾に向かおうとしたのですが……

このあと起きた出来事を理解してもらうためには多少の説明が必要なのですが、

大橋くんが、松下村塾に向かうタクシーを12:00に旅館に呼んでくれていました。

それで、この旅には、夢をかなえるゾウの編集者のHさんも同行してくれていたのですが、

Hさんが時間を間違えて「少し遅れます」ということになり、

ロビーにいた僕は、すでに到着していたタクシーに一言言っておこうと思ってタクシーに向かったのですが、

扉を叩いて、予約名を確認する意味で、


「大橋ですけど」


と言ったらなぜか運転手が無視してきたんです。


(ん?)


と不可解に思いながらもう一度「大橋で予約してるタクシーですよね」と言ったら、



「そうだけど、何か言うことあるでしょ」



とすごまれまして、何を言っているのかまったく分からずぼんやりしていると、


「あなた、予約したの12:00でしょ。12:00って言ったら12:00に来るのが人間として当然のことでしょ」


と言ってきて、時計を見たら、12時4分だったんです。


つまり、この運転手は時間に遅れたことにブチ切れてきたのです。


こういうときって運転手がロビーに呼びにくる場合もあるよなぁとか思いながら、確かに約束の時間は過ぎていてこちらに非があるので、


「すみません」


と謝って、そこへちょうどHさんが「すみません~!」とやってきたのでみんなタクシーに乗り込んで行き先を告げたのですが、


めちゃくちゃ腹が立ってきましてね。


僕はこれまで「街でクレーマーの人を見たら声をかけて止める」ということをしてきていますし、人を責めることにすごく抵抗があるのですが、

こいつをのさばらせておいたら、第二、第三の犠牲者が出る、


というか、俺がもう、第八百くらいの犠牲者なんじゃねーの?


と思い、


「運転手さん」


と言って続けました。


「先ほど、あなたから時間に遅れてきたことに対して謝るように言われて、僕は謝罪しました。ただ、そのときのあなたの言い方が、タクシー運転手としてあるまじき言い方だと感じたので、その点に関して謝ってもらっていいですか」


もちろん、運転手と僕のやりとりを見ていなかった大橋くんとHさんは「なにごと?」となりました。

そこで、大橋くんとHさんに、「状況が分からないと思うので、あとで説明します」と言って再び運転手と話し始めたのですが、運転手がこんなことを言い出したのです。


「あんたは謝ったと言ったが、『すみません』と言っただけで何に対して謝っているか分からなかった。ちゃんと謝ってないだろ」


――こいつ、アホかと。

 

俺を誰だと思ってるんだと。

 

小学校のときIQの診断テストでカンニングしてIQ160出て「高すぎる」ってことで学校から呼び出された水野だぞ(実話)、と。

まずは冷静に言い返しました。

「あなたは単に謝りたくないから言い返しているだけでしょう」

「違う。言い返してるんじゃない。ちゃんと謝れ」

「なるほどなるほど……じゃあ、まず、『僕が謝罪をしかどうか』を検証したいと思うんですけど、僕が『すみません』と言ったのは事実として認めてくれますよね?」

「ああ、それは覚えてる。でも、俺が言いたいのは、その言葉が何に対してか分からなかった……」

「いや、僕が『すみません』と言ったあと『松下村塾』という目的地を言ったら、あなたは車を発進しましたよね。もしあなたが何に対しての謝罪なのか分からなかったと本当に思っているのであれば車を発進させるべきではなかったし、発信させている時点で僕の『すみません』を謝罪として認識していると判断せざるを得ないんですよ。つまり、あなたが僕に対してできる反論は、僕の謝罪の方向が分からない、という点ではなくて、4分の遅刻に対して、乗客に対してタメ口で『何か言うことあるだろ』とキレることができる、4分の遅刻には、その態度を取って良い重みがある、と主張することなんですよ。で、あなたはその点に関してどう思うんですか?」



と言っているうちに、タクシーが松下村塾に着いてしまいまして。


ただ、それでもタクシー運転手が謝らないので、とりあえず大橋くんとHさんに
「先に行っててください。僕は彼と話がありますので」
と言って、タクシー運転手との舌戦を続行し、論破に論破を重ね、最終的に


「あの言い方は間違ってた。すみません」


と言わせました。


そして、ふうと額の汗を拭い、大橋くんとHさんの元に向かったのですが、あまりにも感情的になってしまった自分が恥ずかしくなり、こう言いました。


「いや、普段の俺ならあそこまで言わないんだけどさ……あの運転手の態度に至誠がなかったもんだから松陰先生が俺に乗り移っちゃって」

すると、大橋くんが言いました。



「水野さんに乗り移ってたの、松陰先生じゃなくてひろゆきでしたよ




――松下村塾生になるつもりが、とんだ西村塾生になっちゃいましたよね。

 

 



PS.

というわけで気を取り直して松下村塾を見学したのですが、一番衝撃を受けたのは、松下村塾が開かれた期間は1年ということでした。明治維新の時期にこの場所から大量の偉人が生まれたのは、教えの内容でも才能でもなく、志(動機)を生む環境だったと確信しました。そしてその環境を生んだ原因には安政の大獄で吉田松陰の命が失われたこともあると思いました。


PS2.
というわけでなかなか松下村塾生のようにはなれないので天寿をまっとうしながら頑張っている僕たちですが、大橋くんが最近ブログをはじめまして、「サバイバル・ウェディング」の著者が婚活をしてブログを書くという、主人公の行動を地で行く企画を始めています。
めっちゃ面白いのでぜひ見てください。

 

『サバイバルウェディングの著者が婚活します。』
https://ameblo.jp/ohashikosuke/entry-12454255512.html

 

PS3.
というわけで、松下村塾に向かうタクシー内で嵐が吹き荒れることになったのですが、運転手さんとはその後ちゃんと仲直りしまして、山口県にプーチンが来たときに雷が落ちて倒れた木の場所とか、松陰神社の石柱の文字に「、」が多い理由は手紙のしみをそのまま彫ってしまったという説があるとか、色々な裏話を聞くことができました。そして、最後、握手で終われたってことは、松陰先生の志を継いで薩長同盟を締結させた龍馬先生が舞い降りてたってことなんだと思います。